連載・柳本浩市|第28回 中村裕介氏に「高橋理子」のマネージメントをきく(後編)
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2015年4月24日

連載・柳本浩市|第28回 中村裕介氏に「高橋理子」のマネージメントをきく(後編)

第28回 中村裕介氏に「高橋理子」のマネージメントをきく(後編)

今回お招きしているのは、株式会社ヒロコレッジの中村裕介さん。今年も年初からインドでの「クール・ジャパン」に参加するなど、相変わらず精力的に活動されています。前編につづいて後編では、中村氏と高橋理子さんの潔いほどの“決意”に感銘を受けました。

Text by YANAGIMOTO Koichi

それ以上でも、それ以下でもない、私の役目(中村裕介)

柳本 対談の前編では、株式会社ヒロコレッジを設立してから2年間のお話を聞きました。当初は「事業をおこなう根本的な目的意識すら曖昧」だったとのことでしたが、その後、中村さん自身にとって「株式会社ヒロコレッジをやっていく意義」は見い出せましたか?

中村 端的にいえば、高橋理子が掲げている「目的」に沿って、あらゆる可能性を探り、それを達成に導くことが私の役目ということになります。それ以上でも、それ以下でもないというか――私自身は取り立てて特殊な才能があるわけではないので、あくまでも高橋の可能性に賭けるしかない。産業、経済、高齢化社会、そして原発……、現在、日本が抱えている問題を直視すると、さまざまな局面で追いつめられている状況であることはたしかです。社会に少しでも影響し、より良い日本を、そして世界をつくる! という私の欲求は、彼女と活動することで自動的に満たされるわけです。高橋と組むことで、変革のきっかけをつくれると思っています。たとえ小さなきっかけであれ行動しつづけること。「株式会社ヒロコレッジ」をとおして何ができるのかを、日々問いつづけています。

柳本 その目的に向かっていくなかで、なぜプロダクトを手がけているんですか?

中村 「HIROCOLEDGE」で扱っているプロダクトのひとつに手ぬぐいがありますが、“手ぬぐいが好き”という理由で扱っているわけではありません。HIROCOLEDGEは、身近なものづくりをとおして、偏見や固定観念を覆し、日常への向き合い方を再考するきっかけを生み出すべく、実験と検証を重ねるプロジェクトなんです。手ぬぐいは一枚の布であるにもかかわらず、多様な使いみちがあります。多くの機能を備えていているというよりも、かつて日本人がこの一枚の布に道具としての可能性を見出した。その事実だけでも、日本人として自らの日常を考えるきっかけになりますよね。日ごろ、自分が「もの」や「こと」に、どのように向き合っているのかと。手ぬぐいのような身近なものでも意識を向けて、さまざまな角度から検証し掘り下げることで、見えてくるものは無限にあります。

ところで、これまで手ぬぐいという呼び名で話してきましたが、弊社では手ぬぐいに、「100×35」という商品名をつけています。これは、単純にサイズをあらわしていますが、その意図は、そのものがもつ自由度を提示するためです。名称により用途がわかりやすい反面、機能を限定することにもなります。現代の日本においては、手ぬぐいを“手を拭くだけのもの”と考えるひとが多いのも事実です。ものに対して、使い手が自分なりの接し方で向き合うこと――それを促したいという思いをもっています。自分自身の価値基準をもち、判断し、考えて生きることを楽しむ。日々のその繰り返しが、世の中が良い方向に向かうことに繋がっていくと考えています。

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使い手や売り手側の固定観念から逃れるということ

柳本 そうした背景があると、販売方法や取り扱う店舗においても、熟慮している感じですか?

中村 そうですね。たとえば、百貨店では手ぬぐいが「呉服売場」で扱われていることが多いのですが、機能的な側面から見れば、ハンカチやタオル売場で扱われてもいいはずです。しかし、“手ぬぐい=和”という先入観からなのか、なにかしらのしきたりなのか、販売エリアは結局のところ和雑貨売場となってしまう。担当のバイヤーの方とは、このことについてよく話をするのですが、フロアやジャンルを横断して商品を扱うのは難しいようですね。でも最近では、キッチン用品やメンズ小物などさまざまな領域で扱っていただける状況が増えてきて、手ぬぐいが和雑貨というジャンルだけに縛られないようにアプローチしてきた結果が出はじめています。

私たちが、名称を手ぬぐいとしていないのは、使い手の自由度を上げるだけでなく、売り手の固定観念から逃れることも目的としているのです。取り扱っていただく店舗も、カテゴリーや大小にかかわらず、可能性の広がりを重視して展開しているので、実験的に銭湯や酒屋などで販売するということもおこなっています。既存のマーケット(すでに手ぬぐいの魅力を知っている人びと)の外にある、大きなマーケットを開拓していきながら、市場に刺激をあたえていきたいんです。

柳本 いまの時代は商品をとおして“考える”余地をあたえ過ぎるのも、かえって「なんでもあると考えるのが難しい」「使い方がありすぎてめんどうくさい」という場合もありますよね。

中村 たしかにそのさじ加減は重要ですよね。HIROCOLEDGEから「100×35」を使って製品化した「SLEEVE BAG(スリーブバッグ)」と名づけた商品があるのですが、これは道具(手ぬぐい)に対する一つの向き合い方の提案です。

形はバッグなので、あまり考えずに使うことができますが、手ぬぐい一枚をまったく裁断することなく縫い合わせ、ボタンなどの付属品もないので、ボロボロになったら手ぬぐいとおなじように雑巾として使って、燃えるゴミとして捨てることができます。使い手が、自然に手を動かすような状況をつくれるのが最善だと思うのですが、すべてを使い手にただゆだねるだけではなく、ものを最後まで使い切るという心と、一枚の布がもつ可能性を、気軽に使ってもらえるプロダクトによって伝えようという高橋の試みです。

この無駄のない構造とおもいをぶれることなく伝えていくために、意匠と商標を登録していますが、今後はつくり方を公開していこうと思っています。そして、これがいつか小学校の家庭科の教科書に載って、日本の文化やものづくりについて伝えながら、裁縫の授業ができたらと高橋と話しています。手ぬぐい一枚と針と糸があればつくれますからね。

柳本 究極は教育を変えていくことに繋がりますよね。

中村 本当にそうですね。私たちはふたりとも教員免許をもっているということもあり、今後、教育に携われたならどうすべきかといつも考えているので、自ずと活動や製品に反映されるのだと思います。やはり、旧態依然のモノやシステムに対する疑問や怒りもありますから、さまざまなことに影響をあたえながら、より良い方向に変化させていきたいとおもっています。

たとえば、高橋が肩書きを“アーティスト”としていることも、デザインやアートという言葉のもつ意味や職業、肩書きについて考えるきっかけを生みだすための、自分自身の社会的存在を使ったひとつのアプローチです。商品といわれるものや着物をつくることが最終目的ではなく、その生み出したものを使って、なにをどのように伝えていくかということを考えている表現者ということもあり、高橋は表現手段をとくに限定せず自由な活動をするために、断定的に捉えづらい肩書きを選んだ。肩書きが、そのひとの活動範囲を狭めてしまうことがありますが、子どもたちが将来の夢を語るとき、肩書きやその固定化したイメージに惑わされず、自由に自分らしい目的がもてるような状況をつくれたらとおもいますね。

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日本人が日本人であることに自信をもって生きる状況を生みだしていきたい

柳本 ところで、近年は企業のブランディングなどの仕事も手がけているんですね。

中村 はい。主に地方のものづくりをおこなう企業との協業です。あたらしいブランドを立ち上げるプロジェクトなどもあります。そのような仕事が増えてきたとき、自らクライアントの気持ちや覚悟を理解するために、弊社のCIを北川一成さん(GRAPH)にお願いしました。自分たちでもできるクリエイティブを、あえてキャリアのある方にお願いすることで、自らがクライアントになったわけです。いろいろな意味で大きな覚悟が必要でしたが、これは自分たちの仕事にフィードバックできる、とてもすばらしい経験でした。

一緒にものづくりをする産地やメーカーの方々との信頼関係を築きながら、どれだけ想いを共有できるか。立場や肩書きを超えた、ともにものづくりをする一員として対等な関係を構築することが大切だと考えています。そのためには、まず我々の覚悟が必要です。もうクライアントと心中する気持でつねに臨んでいますね。それが、長期的には日本の未来に継続できるものづくりになると信じています。

柳本 では最後に今後の展望をお聞かせください。

中村 基本的にいまの高橋の活動やものづくりは、日本国内に向けたものです。日本人が日本人であることに自信をもって生きる状況を生みだしていきたいという彼女の考えから、意識はつねに国内を向いています。日本人として国内のものづくりを国内に向けておこなっている高橋が、海外では日本人らしいアーティストとして自然に受け入れられるということを実感しています。本人は、安易に作品を海外にもっていくことを嫌っていますが、最近は海外で仕事を発表する機会も増えています。ともにものづくりをしている職人やメーカーにとって良い状況をつくることができるのであれば、進んで海外での活動もすべきという判断です。

現在進行中の美濃和紙のプロジェクト「3120」なども、まさにそのひとつで、国内のみならず、ディストリビューターとの意見交換をしながら、海外でのニーズにも応えられるものづくりを目指しています。生み出した製品だけではなく、職人やその仕事、ひいては産地に注目が集まり、世界中からひとが集まるような、町を活性化することに繋がる活動にしていきたい。そして、美濃に限らず、高橋の存在を介して活気ある産地同士に結びつきをあたえながら、日本全体でより良いものづくりができる状況を生み出していければとおもっています。

柳本 ありがとうございました。

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中村裕介|NAKAMURA Yusuke
1977年 東京都墨田区生まれ。千葉大学教育学部卒業。凸版印刷株式会社を経て、株式会社ヒロコレッジ設立。高橋理子とともに代表取締役。

株式会社ヒロコレッジ
2006年12月8日設立。高橋理子の視点をとおして、クラフト、アート、デザイン、ファッションなどのジャンルを問わず、「もの」や「こと」をかたちにする組織。独自のものづくりをおこなう「HIROCOLEDGE」や、クライアントとの協業によりものづくりをおこなう「HIROCOLEDGE&Co.」など、高橋理子の手がけるさまざまなプロジェクトのマネージメントのみならず、日本各地の企業の新規ブランド立ち上げから、デザインおよび販売までの一連のプロデュースなどもおこなう。

TAKAHASHI HIROKO
http://www.takahashihiroko.com/

           
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