CAR /
NEWS
2019年10月30日
新しい時代のグランドツーリングカー──マクラーレンGTに試乗|McLaren
McLaren GT|マクラーレンGT
ブランドの幅を広げる新シリーズ、マクラーレンGTに試乗
マクラーレンオートモーティブが2019年5月にデビューさせた「マクラーレンGT」。スーパーカーとしてのパフォーマンスと、グランドツアラーとしての実用性や静粛性を併せ持つ同モデルに、モータージャーナリストの金子浩久氏が南仏で試乗した。
Text by KANEKO Hirohisa
Photographs by McLaren
独自の技術と考え方でグランドツーリングカーを革新したかった
南フランスのニース空港では、ヘリコプターサービスが充実している。
到着ロビーに出て左に進むと、複数の業者がカウンターを並べている。シーズンオフならば待たずに乗れて、料金もタクシー並みだ。
以前に、ここからモンテカルロまで利用した時には、到着後ホテルまでのミニバンの送迎サービスまで付いて、陸路で1時間は覚悟しなければならないタクシーとほぼ同じ値段だったのに驚かされた。ヘリコプターならば10分弱の飛行時間だ。
今回は、モンテカルロとは反対方向のサントロペへ向かった。「ヘリ・セキュリテ」というヘリコプター運航会社は高級版で、“タクシー”というよりは“リムジン”だ。特別待合ロビーもラグジュアリーな設えで、壁には超高級腕時計のリシャール・ミルのポスターが貼られている。
7月のイギリスの「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で実車を披露したばかりの「マクラーレンGT」のライフスタイルメディア向け試乗会のために、マクラーレンが借り切ったのだ。
サントロペから戻ってきたヘリコプターは点検作業を終えると、すぐに僕らを乗せて飛び立った。スーツケースはキャビン後端部のハッチを開けた専用のトランクへ。
右手に陸地を眺めながら、海岸線よりも海側を一直線に西に飛んで行く。対向するヘリコプターと、ものスゴい速さでスレ違う。パイロットは若い男性で、左腕にガーミンのパイロット用スマートウオッチを付けている。計器パネルにはアナログタイプのメーターがびっしりと埋め込まれているが、端の方にはタブレット端末も設置してある。おそらく専用アプリなのだろう、飛行中のリアルタイムでの航路を示している。
陸地の奥の方に見えるのは、セザンヌが描いたサント・ヴィクトワール山ではないだろうか?
アンティーブ、カンヌを眼下に眺めながら進んでいくと、すぐにサントロペの入り江が眼の前に見えてきた。入り江の左手が港で、右手に僕らが泊まるホテル「Le BEAUVALLON(ル・ボーヴァロン)」の建物が見えてきた。
ヘリコプターはレンガ色の建物にどんどん近付いていく。ヘリポートが敷地内にでもあるのかと思ったら、なんとそのまま芝生の庭に着陸した。ヘリコプターに乗ったことは何度もあるけれども、ホテルの庭に降り立つなんて初めてだ。アメリカの大統領みたいだ。
ル・ボーヴァロンは100年以上の歴史を誇るリゾートホテルで、エレベーターや廊下の壁にはその頃の様子を写したモノクロ写真が何枚も額装されている。
建物や空間の取り方などからは歴史を感じるけれども、インテリアの色や素材遣いのセンスがとてもモダンだ。庭やロビー、客室内に置かれたオブジェも現代的で、モダンアートミュージアムにいるようだ。
「由緒あるこのホテルは10年前に全面的に改装され、その際にモダンなアートピースを設置したり、現代的なセンスに改められました」(マクラーレンでヨーロッパのライフスタイルメディア担当責任者を務めるアメル・ボーバヤさん)
ここを選んだのには理由があると、アメルさんは言う。
「グランドツーリング(GT)カーには長い歴史があります。それらをリスペクトしつつ、マクラーレンは独自の技術と考え方でグランドツーリングカーを革新したかったのです。それが、今回、皆さんに試乗していただくマクラーレンGTです」
なるほど!
マクラーレンほどのスーパーカーメーカーともなると、クルマのメカニズムやデザインだけでなく、その世界観を共有できるホテルを探し出してくるのだ。それはホテルだけのことではなく、パートナー企業であるリシャール・ミルや前出の「ヘリ・セキュリテ」などとも通底している。