「東京モーターショー2009」発信、電気自動車が未来を変える?! (第2回)
気鋭の自動車ジャーナリスト3人が緊急ミーティング
「東京モーターショー2009」発信、電気自動車が未来を変える?! (第2回)
海外メーカーの出品数が2社にとどまり、総来場者数も前回から43パーセント減の61万4400人になるなど、世界的大不況の煽りを食うかたちとなった第41回「東京モーターショー 2009」。しかし実際は各社、次世代車の展示に余念がなく、未来への提言も多かった。この激動の時代に、クルマはどこへむかうのか? 気鋭の自動車ジャーナリスト、小川フミオ、島下泰久、渡辺敏史の3人が「東京モーターショー」を通して、自動車界の今とこれからを斬る。
Text by OPENERSPhoto by MASAYUKI ARAKAWA
ハイブリッド全盛の今こそ未来を見据えるべき
オウプナーズ ところでドイツのメーカーもハイブリッドを投入してきました。たとえば、メルセデスの「Sクラス ハイブリッド」。乗ってどう思います?
渡辺 ハードウエアとしてはよくできていると思います。欧州での交通環境には適しているのかな。
島下 高速を走らせるときにどこまでモーターが受け持ち、どこまでエンジンが受け持つかについての考え方が、トヨタのハイブリッドとは根本的にちがいますよね。メルセデスは高速域でモーターを高回転させるのは無駄だからその領域ではエンジンに任せましょうというロジック。
渡辺 ドイツのメーカーはトヨタが1997年に世界初のハイブリッドであるプリウスを出したときに「クレイジー」くらいの言い方をしていたのに、いまでは各社ハイブリッド車を出してきているわけですよね。
小川 高速では電気モーターが動かないのでかえって燃費を悪化させる、と言われてましたね。実際使用環境がドイツと日本とではちがいすぎます。200km/hで走っている国では内燃機関とか変速機の改良で燃費をよくしたほうがいいわけです。
渡辺 今年のフランクフルトモーターショーでは、欧州のメーカー勢も後れ馳せながらこぞってハイブリッドカー戦線に顔を揃えていました。だけどそこでトヨタをはじめとする日本の自動車メーカーが満足していたとしたら、あとでまたしっぺ返し食らうのは目に見えてます。ハイブリッドカーの先というのが彼らには絶対ありますから。
オウプナーズ ハイブリッド全盛のいまという時代に満足していてはだめだと。
渡辺 そう。たとえばトヨタはハイブリッドに依存しすぎてると思うんです。それはいろいろなメディアで言われているし、僕自身も思うところですけど。トヨタとしては、ハイブリッドカーはEVなりFC(燃料電池車)なりの次世代の自動車につながる基礎技術をすべてもってるから、現状のベストソリューションだと主張していますが、マツダやダイハツのような内燃機関の高効率化への取り組みをおざなりにしてると、あとでそれがすごい重石になる可能性はありますね。
オウプナーズ EVやプラグインハイブリッドの登場によって、現在の内燃機関からモーターと電池に構造変化を起こすような動きがありますが、それには結局は充電インフラの整備が必要不可欠になってくるじゃないですか。そう考えると、この2~3年間は普通のハイブリッドしか走ることができないんじゃないかと思いますが。
小川 EVはまだバッテリーの性能の問題があるので都市内、いっぽうハイブリッドは中長距離と言われていますが、よく考えると2台必要という結論になりますよね(笑)。
島下 そう、そこが問題になってくる。
渡辺 そのへんの考え方がミクスチャーされてきてますよね。スズキが出したスイフトのハイブリッドはプラグインハイブリッドというよりレンジエクステンド的な考え方ですし。エンジンが発電機になってるんですよ。だから、EVがあってハイブリッドがあって、そのあいだにプラグインハイブリッドがあってという考えが曖昧になってきてますよね。航続距離が短いというEVの欠点を克服するためには当面何かしらの発電機能を積むしかないのは前提になっているでしょうし。それを駆動にも使わせるのか、あるいはもっと一歩進めて発電だけにしか使わせないのか。
島下 さっきの1.4%という話がまさにそれで。当面はハイブリッド化やプラグイン化ということになる。つまりまだ何十年かはエンジンが必要なのは確実ですよね。
小川 今回FC(燃料電池車)の展示が少なかったですよね。FCは水素ガスと空気を化学反応させて発電させるさいにレアメタルが必要になってくる。でも、希少金属材料の資源問題を考えたら、そのあたりについてはFCが次世代のクルマのスタンダードにはならないって説もあるじゃないですか。どう思います?
オウプナーズ バッテリーに使われているリチウムですら不足すると言われていますからね。
小川 あとは電源をふくめたコネクタの形状もいまは特許取得合戦とか。新しい技術だから、特許を多くとって、自動車のヘゲモニーを握ろうという国なり企業なりが出てきてもおかしくない。日本は携帯電話でも失敗していますからねえ。新世代の技術やデファクトスタンダードの確定をめぐって、いま自動車メーカーや日本の役所は各国政府へのロビー活動とか一所懸命やってるんでしょうね。
渡辺 テレマティクスにおいては日本が技術的にリードしてるのはまちがいないとおもうんですよ。ただその規格によっては、培ったものもはじき出される可能性がある。たとえばトヨタがデフェクトにこだわっているとするならば、海外と電波の規格が異なっていたことで、当初、海外での通話ができなかった携帯電話のような事態にならないよう考えてほしいですね。
島下 各社考えているんでしょうけど、近未来のことには不明瞭なことが多すぎて言わないというか、探りの状況なんじゃないですかね。
二気筒エンジンと燃料電池に着目したダイハツ
オウプナーズ このあたりで、今回の「東京モーターショー2009」で印象に残ったクルマについてお話いただきたいと思います。
渡辺 さっきも言いましたが、ダイハツの2気筒エンジンはとうとう来たかという感じでしたね。クルマではありませんが。
島下 2気筒直噴ターボですね。3気筒に較べて部品も熱損失も機械損失も減るし、その上EGR、つまり排ガス再循環を従来の5割増しにしているそうです。排ガスを燃焼室にもどすと燃焼温度が下がってNOxを減らせるんですよね。振動問題さえクリアできれば良いことづくめです。
オウプナーズ 内燃機関の在り方も追及しているという意味ではマツダもそうでした。
島下 マツダは「清」というコンセプトカーを出展していましたね。ハイブリッドを使わずに、軽量化と高効率エンジンとアイドリングストップだけでリッター32キロの低燃費を実現したんです。それって必ずしもハイブリッドやEVでなくても実現できるリアルな未来。
渡辺 マツダは次世代技術について内燃機関の基本構造の見直しで腹をくくっている感じがします。エンジンに対する考え方で言えば今後が楽しみなメーカーですね。
島下 僕はダイハツの燃料電池「PMfLFC(Precious Metal-free Liquid-feed Fuel Cell)」が良かった。貴金属フリーでしかも液体燃料。いままで燃料電池って水素を高圧タンクで車載していたんですけど、あれって高額だし大きいし軽自動にはとてもじゃないけど載せられない。それに対して、「PMfLFC」はガソリンとおなじ液体燃料なので取り扱いが容易で、燃料タンクの形状もいままで同様なんですよ。
オウプナーズ ということは、FCの主流が液体燃料になるポテンシャルも秘めてるということですか?
島下 あるかもしれないですよね。小さいクルマにも積めるとなれば。あとポイントは、燃料電池の電極とイオン交換膜が今の燃料電池のように酸性ではなくアルカリ性になるので、錆びないからプラチナなどの貴金属材料を使わなくていいということ。これもコストを大幅に削減しますよね。小さい、安いクルマにだって使えるかもしれない。ちなみに、ダイハツのブースにあったミニカーはそれを搭載して走っていたんです。
小川 やっぱり次世代の動力はどうなるか。そこが今回のショーの目玉でしたね。僕も技術者と会えば、そういうことを聞いていましたから。お金をかけていないので地味な展示が多いのですが、あのダイハツの燃料電池のように、新しい取り組みには充分アピールするものがあります。そこをショーの主眼にできなかったのでしょうかね。まあ、どう考えても一般向けには地味なのですが……。
エコとクルマの楽しさの両立を提案したトヨタとホンダ
島下 クルマなら、トヨタの「FT-86コンセプト」に惹かれました。豊田章男社長のプレゼンテーションって聞かれました? 「トヨタにもかつて多くのスポーツカーがありましたが、今は姿を消してしまいました。クルマを愛するひとりとして、これはさみしいことだと思っています。若者のクルマ離れと言われますが、本当にクルマから離れていたのは、われわれ自動車メーカーかもしれません」という。自動車メーカーのトップの発言として、これはとても勇気がいるものだったと思います。クルマ自体も相当話題になってますし、応援したいなと。今のクルマを取り巻く議論って、まずエコありきじゃないですか。でもそれだと究極は乗らなくていいってことになっちゃう。本当は、クルマって楽しかったり役に立つからエコにして長く乗りつづけたい、という話ですよね。「FT-86」のようなクルマが、クルマがあるうれしさの再発見に繋がれていいなと思ってます。
オウプナーズ そういう意味では、ホンダの「CR-Z CONCEPT 2009」もエコとクルマの楽しさの両立を提案していました。
島下 それも素晴らしいなと思います。マニュアルトランスミッションを用意するって宣言していたじゃないですか。マニュアルって、高回転までまわすためじゃなくて、いいところを引き出すためであるべき。いかに低回転で効率良く走るかということがマニュアルだったらできて、楽しいしエコだし、言うことないと思います。
渡辺 ホンダは1970年代の後半から80年代の初頭は自動車部門が経営的に厳しかったけど、復活へのターニングポイントになったクルマは初代の「CR-X」なんですよ。それはそもそも、燃費のいいコミューターとして登場したんですよね。
島下 トヨタの「FT-86コンセプト」も軽量化に力をいれているんですよ。軽量化されると要素技術や基本技術で楽しさとエコが両立できるんです。そこを狙っているのだとしたら期待したいですね。
渡辺 ただ「FT-86コンセプト」はエンジンが2リッターっていうのがトゥーマッチかなと。
島下 1.3リッターくらいがちょうどいいのにとは、僕も思っています。見た目ももっとシンプルでいいのになと。
ついに市販モデルがト登場したレクサス「LFA」
オウプナーズ デザインという点ではレクサス「LFA」はいかがでしたか? 前回モーターショーに出展されていたコンセプトカーと今回の市販型では、やや印象が異なりますね。
渡辺 だいぶ市販のための要件が入ったかんじでしたね。
小川 ミラーやフロントまわりの形状もだいぶ変わりましたし。
オウプナーズ ところで、次世代の提案として「LFA」でEV仕様があればいいですよね。スーパースポーツが存続していくためにも。
島下 僕はそれは日産で思ったんですよ。日産こそ電気GT-Rを出してほしい。
オウプナーズ 日産は今年のジュネーブショーで「エッセンス」というハイブリッドのスポーツカーを出展していますからね。
島下 それこそアウディにはEVの「R8」があったり。メルセデスはフランクフルトショーで「SLS AMG」をベースとしたEV仕様出すって発表したじゃないですか。日産は「GT-R」でEV仕様を出せばリーフとつながってメーカーとしての一貫性を打ち出せる。“EVの日産”としてのイメージを有効活用すべきですよね。
OGAWA Fumio|小川フミオ
フリーランスジャーナリスト。自動車誌『NAVI』『Motor Magazine』編集長を歴任。現在は『オウプナーズ』をはじめ、雑誌『GQ』『日経おとなのOFF』『EDGE』などで自動車の連載をもつ。個人的にはポルシェ993カレラに乗るが、電気自動車とかハイブリッドもクルマとしておもしろいと思っている。税金だけのために買うのではなくクルマの魅力の面からEVやHVの新しさが注目されればよいのだけれど。昨今ではそんなことを考えている。
SHIMASHITA Yasuhisa|島下泰久
モータージャーナリスト。走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論、運転などなどクルマを取り巻くあらゆる社会事象を守備範囲とした執筆活動のほか、エコ&セーフティドライブをテーマにした講演、インストラクター活動もおこなう。2009-2010日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。近著に『極楽ハイブリッドカー運転術』『極楽ガソリンダイエット』(いずれも二玄社刊)がある。ブログ『欲望という名のブログ』http://minkara.carview.co.jp/userid/362328/blog/13360020/
WATANABE Toshifumi|渡辺敏史
企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)にて2・4輪誌編集業務経験後、フリーライターとして独立。ジャンルを問わずに自動車のコンセプト、性能、専門的事項を説明し、時代に求められる自動車のあり方をユーザー視点で探し、執筆するライターとして活躍中。自動車専門誌のほか、『MEN’S EX』『UOMO』など多くの一般誌でも執筆し、人気を集めている。