「東京モーターショー2009」発信、電気自動車が未来を変える!? (第3回)
気鋭の自動車ジャーナリスト3人が緊急ミーティング
「東京モーターショー2009」発信、電気自動車が未来を変える?! (第3回)
海外メーカーの出品数が2社にとどまり、総来場者数も前回から43パーセント減の61万4400人になるなど、世界的大不況の煽りを食うかたちとなった第41回「東京モーターショー 2009」。しかし実際は各社、次世代車の展示に余念がなく、未来への提言も多かった。この激動の時代に、クルマはどこへむかうのか? 気鋭の自動車ジャーナリスト、小川フミオ、島下泰久、渡辺敏史の3人が「東京モーターショー」を通して、自動車界の今とこれからを斬る。
Text by OPENERSPhoto by MASAYUKI ARAKAWA
数少ない輸入ブランドのひとつアルピナ
オウプナーズ 小川さんは気になったクルマはありましたか?
小川 数少ない輸入車の展示車であり、またそういうくくりをはずして、いまおもしろいクルマということでもアルピナの「D3 ビターボ」。
島下 もともとBMWのディーゼルエンジンっていいですからね。
渡辺 おもしろいのは、ホンダのディーゼルはホンダならではの味があるし、アルファ ロメオはアルファ ロメオならではの味があるし、それぞれのテイストがディーゼルにも残っている。BMWのディーゼルは音とか回転フィールの高揚感がBMWならではですね。
小川 すごくいいクルマですね。アルピナがディーゼルエンジンのチューンナップを手がけるようになったのは1999年からだそうですが、じつにうまく特性を活かしていますね。2リッター4気筒エンジンと小さなユニットを選びながら、そこにターボをかけて2000回転でトルクは450Nm。V8ガソリンエンジンなみですよ。いまのご時世、高性能車にこういうソリューションもあるかなと思います。
オウプナーズ ヨーロッパではディーゼルが普及しすぎて軽油の価格が高騰したせいでディーゼル離れの傾向がありましたが、現在はどうなんでしょう?
島下 やっぱりディーゼルだろうと、あらためてヨーロッパメーカーは思ってるふしがありますよね。ディーゼルエンジンはバイオ燃料を使いやすいというメリットもありますし、軽油の価格がどうこうなっても雑食ですから。
小川 ディーゼルとか過給器技術とかデュアルクラッチシステムとか、欧州の骨太技術が燃費向上に貢献しています。実際に体験していないのですが、「ベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツ」はベントレー市場最速を謳いながら、エタノール燃料85パーセント混合のE85にまで対応すると言っています。このあたり、日本のメーカーは遅れているように思いますね。その場しのぎ的な優遇税制が逆に現場の開発意欲を殺いでいないといいのですが。
渡辺 日本が提案してヨーロッパで実用化されてる技術っていっぱいありますからね。バブルのときは日本の自動車メーカーもいろんな先行投資をして開発に費用を投じていましたけど、この20年、お金になりそうにないところには一切出さないという選択が目立ちますから。
小川 いまのヨーロッパ車に目を向けてみると、日本車あるいは日本メーカーの技術がいまどのへんの立ち位置にいるか見えてきますよ。モーターショーに話をもどすと、そういう世界基準で自動車の現状を見る場にならなかったのがやっぱり残念です。たとえばゴルフはハイブリッドでなくても、燃費はいいし静かだし、そして楽しいと、すごくよくできてるわけですから。
渡辺 とくにAからCセグメントくらいのクラスになるとちがいは明らかです。
オウプナーズ なぜそうなってしまうのでしょう?
渡辺 日本の自動車メーカーのコスト偏重意識と作り込みに対するキメのこまやかさのなさが原因ではないでしょうか。燃費が良くてアフォータブルでコストがかからない点以外でドライバーに満足感を与えようとする努力が見えない。
島下 たとえばヨーロッパメーカーはいいクルマや気持ちいいクルマを安くしましょうってロジックだと思うんですけど、日本の場合はまず安いクルマを作りましょうから入ってしまう。その順番を変えない限り本当の意味でいいクルマは出てこないと思いますね。
渡辺 全体的に一番の競争力がコストだと思っているのが致命的ですよ。
島下 トヨタは「プリウス」が売れていることで考え直してほしいですよね。価値があると思ったらそれだけのお金は出してくれるんだってことをプリウスは証明したじゃないですか。そういうことに目を向けてほしい。
小川 エコカー減税はなんだかな~ですね。エコカー減税の対象車を買おうという、ムードがクセモノ。それではいいクルマが出てこないでしょう。
島下 しかも現在のエコカー減税の基準だと重いクルマほど有利だったりする。要は「重いわりに燃費がいい」ってなるんですよね。トヨタ「アルファード」は2WDでは減税対象にならないのに、より重くて燃費の点で不利な4WDが対象になっている。でも一方で軽量化を真面目に頑張ったスバル「レガシィ」はエコカーに引っかからなかったりして。
渡辺 「メルセデス・ベンツ Eクラス」も適用されるゾーンに入れるために大径タイヤホイールやエアロパーツ、サンルーフなどの装備を加えて100キロ重くしていますよね。
「フランクフルト国際モーターショー」について
オウプナーズ ではこのあたりで東京モーターショーに先立って9月に開催された「フランクフルト国際モーターショー」についてお話をうかがいたいのですが。
渡辺 個人的な感想としてメルセデスの新型スポーツカー「SLS AMG」が好きでしたね。ロングノーズで「SLR」よりもバランスがいい。
オウプナーズ たしか、メルセデスのコンセプトカー「ヴィジョンS 500プラグインハイブリッド」は初日しか展示されていませんでしたね。
島下 性能は驚異的ですが、外観が旧型モデルだったので途中で下げようということになったのだと思います。FCとEVとプラグインハイブリッドの3種をメルセデスはすべて見せていましたね。結局はどれかひとつになることはないというのがヨーロッパメーカーの考えなのでしょう。「E-セルプラス」というのが今回の目玉でフロントにモーターが積んであるのですが、エンジンはレンジエクステンダーでリアの床下にはいっているという。電気だけの「Eセル」はフル充電で100キロしか走らないのと比べ、1リッターエンジンによる発電で600キロ走るんですよ。
オウプナーズ フォルクスワーゲンには世界一の環境性能を実現したという「L1コンセプト」が展示されていました。
小川 「L1」って1リットルの燃料で100km走行できるという意味ですよね?
渡辺 そうです。2013年には市販するって公言しているところがすごいですよね。
島下 実際にはこのままでは販売できないと思いますけどね。そういう意味では、「E-Up」のほうが現実的。
オウプナーズ ドイツでもEVの取り組みに力を入れているのでしょうか?
島下 どこのメーカーもはじめていますね。
渡辺 けれど、彼らはフランスから電気を買っているのが現状ですから、ドイツ国内だけの事情を考えれば、本格的にピュアEVという方向にもっていくつもりはないと思いますけど。
島下 電気自動車の生産台数が現在のポロのレベルに達するのは早くても2020年というのが彼らの未来予想図です。まだまだTDIやTSIが重要な高効率テクノロジーだという考えなんですね。
オウプナーズ ところで、「アバルト695トリビュートフェラーリ」はどう思います?
渡辺 CO2の排出量をメーカー単位で抑えるのにフェラーリがフィアットで出すというのは、商品企画としてはおもしろいですよね。ほかのメーカーからもおなじような企画は出そうな予感がします。フェラーリといえば「458イタリア」はひさびさに事件性の高いフェラーリでしたね。最高出力世界最高で環境への配慮もある。
2011年の「東京モーターショー」に期待
オウプナーズ では最後に、2年後の「東京モーターショー」に向けてみんさん一言。
渡辺 各社、真剣にアイデアをひねり出して内容をどうにかしてもらわないと。少なくとも会場を幕張から東京にもどすべきでしょうね。
小川 たとえば情報発信拠点は自社のディーラーだっていいわけです。そのほうが各地にあるから。そこでスクリーン使ってもいいし、ワンセグの技術で情報を携帯やテレビに配信したっていいし。カーナビでそんな「会場」に誘導したりしてはどうでしょう。大箱時代は終わったということで。なんのためにモーターショーを開くのか。そのへんを見つめなおすべきでしょうね。
島下 そうですね。今回はいろんなことがありましたけど目覚めのいい機会だったと思って前向きに捉えて、見に来たひともつまらなかったらつまらなかったと声をあげればいいと思います。
小川 今回のショーが成功なのか失敗なのか、主催者がどう総括しているかは知りませんが、参加者減、来場者減を、あいにく経済状況が悪かったから、という理由で片付けず、次回の有効なあり方に向けて頑張ってほしいですね。
島下 いまはブログなりで個々が自由に発信できる時代ですから。メーカーも、自分たちにアイデアがなければ世に求めて、新しいモーターショーを皆でつくりあげていけばいいんですよ。
全員 お疲れさまでした!
OGAWA Fumio|小川フミオ
フリーランスジャーナリスト。自動車誌『NAVI』『Motor Magazine』編集長を歴任。現在は『オウプナーズ』をはじめ、雑誌『GQ』『日経おとなのOFF』『EDGE』などで自動車の連載をもつ。個人的にはポルシェ993カレラに乗るが、電気自動車とかハイブリッドもクルマとしておもしろいと思っている。税金だけのために買うのではなくクルマの魅力の面からEVやHVの新しさが注目されればよいのだけれど。昨今ではそんなことを考えている。
SHIMASHITA Yasuhisa|島下泰久
モータージャーナリスト。走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論、運転などなどクルマを取り巻くあらゆる社会事象を守備範囲とした執筆活動のほか、エコ&セーフティドライブをテーマにした講演、インストラクター活動もおこなう。2009-2010日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。近著に『極楽ハイブリッドカー運転術』『極楽ガソリンダイエット』(いずれも二玄社刊)がある。ブログ『欲望という名のブログ』http://minkara.carview.co.jp/userid/362328/blog/13360020/
WATANABE Toshifumi|渡辺敏史
企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)にて2・4輪誌編集業務経験後、フリーライターとして独立。ジャンルを問わずに自動車のコンセプト、性能、専門的事項を説明し、時代に求められる自動車のあり方をユーザー視点で探し、執筆するライターとして活躍中。自動車専門誌のほか、『MEN’S EX』『UOMO』など多くの一般誌でも執筆し、人気を集めている。