まったく不満のない乗用車

インサイトは４～５人乗りのクルマとしては車格もコンパクトだし車重も軽い。その点をみれば新型プリウスとはクラスがちがうという見方もできる。内装も、デザインはともあれファンクションは努めてシンプルだ。が、必要とされるものはあらかたが標準装備となり、オプションも勘どころはしっかりおさえている。小さくて軽くてシンプルで安い。ハイブリッドという付加価値を活かすべく、迷いなく清廉であるところは好感がもてる。

その小ささの弊害があるとすれば、後席の居住性だろうか。前後ディスタンスは及第ながら、とくにヘッドルームは大柄の大人にはやや厳しい。日米欧で売ることを考えるとこれは厳しくないか……と思ったが、ホンダとしては空力向上による燃費低減や、低重心化による走行性能向上とのトレードオフで、妥協できるギリギリに設定したということだった。ともあれ、そこまで突き詰めて設計されているということだ。

日中の都心という燃費には不利なシチュエーションでの試乗。一般道でも首都高でもところどころ渋滞に遭いながら乗るかぎり、インサイトはまったく不満のない乗用車だ。転がりの軽さはフィット級に近く、それゆえ乗り心地も若干腰軽な印象もあるが、ステアリングフィールや静粛性はそのクラスよりは一枚上手のところを確保している。高速走行での安定性にも問題はなく、パワーは必要充分なところは確保されていた。総じて、1.3リッターのフィットと肩を並べる動力性能は確保しているといえる。

日中の都心を試乗して、燃費は17km/ℓ

ちなみにインサイトにはハイブリッドのメリットを普通のひとでもしっかり引き出せるようにと、燃費走行をアシストする数々のギミックが装備された。速度計の周囲は３色のＬＥＤを間接点灯することによって走行状況を直感的に知らせ、色によって燃費走行を促してくれる。そして日々の運転パターンは10段階のリーフ型アイコンによって評価され、運転に向上心という目的をもたせる……など、この辺りは燃費走行をゲームのように楽しませる効能をもったプリウスを意識しての工夫だろう。

極力燃費を意識せず、日中の都心を周囲の状況に合わせて１時間ほど走ってみての、インサイトの燃費は17km/ℓ 強といったところだった。同排気量のコンパクトカーよりは確実に燃費はいい。が、おなじシチュエーションでおなじ乗り方をした場合、現行プリウスならば恐らくもう少し数字が伸びるだろうか。モーターアシスト領域が広いプリウスは、こういったシチュエーションでの燃費低減をもっとも得意とする。反面、高速領域ではモーターの助力が効きづらいだけでなく、その複雑なシステムが重荷にもなってしまい、燃費が伸びないという欠点も抱えていた。それもあって新型プリウスはエンジンを1.8リッターに拡大し、低回転域のトルクを増強することで高速域の燃費向上を目指したわけだ。

プリウスとインサイト。姿は似ているものの考え方はちがうこの両車が、仮に合わせて１万台の月販台数をマークすれば、それは軽自動車やコンパクトカーのトップ銘柄と肩を並べることを意味する。その意義は非常に大きい。現在の、ややヒステリックにも受け取れる環境型社会に対する意見はひとそれぞれあるだろう。が、個人の移動という贅たくな自由に費やされるエネルギーは、やはり少ないにこしたことはないわけである。

ホンダ・インサイト

ボディ｜全長4390×全幅1695×全高1425mm
エンジン｜1.4ℓ 直列4気筒＋電気モーター
最高出力｜エンジン：65kW[88ps]/5800rpm　モーター：10kW[14ps]／1500rpm
最大トルク｜エンジン：121Nm[12.3kgm]/4500rpm　モーター：78Nm[8.0kgm]/1000rpm
駆動方式｜FF
トランスミッション｜無段変速オートマチック
価格｜189万（Gタイプ）　205万円（Lタイプ）　221万円（LSタイプ）

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