ニューヨーク タクシーに東京で乗る|Nissan
CAR / IMPRESSION
2014年12月29日

ニューヨーク タクシーに東京で乗る|Nissan

Nissan NV200 NewYork TAXI|日産 NV200 ニューヨーク市タクシー

ニューヨーク タクシーに東京で乗る

ニューヨークのタクシーことイエローキャブが日産製になる──そんなニュースをお伝えしたのは2012年4月のこと。それから2年後、東京の街で当のニューヨークタクシーに試乗する機会を得た。日本の法令に適合させる都合で若干の装備が省略されているものの、車両は本物だ。普段のプロダクションモデルのインプレッションとは趣を異とする、ちょっと変わった試乗に小川フミオ氏が思ったことは──

Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki

都市のアンサング ヒーロー

タクシーは便利で好きだというひともいれば、乱暴だから好きではないというひともいるかもしれない。でも、タクシーをクルマとして見る機会は少ない。

かつて1976年に、ニューヨーク近代美術館では、キュレーターにイタリアの建築家エミリオ・アンバースをたてて、「The Taxi Project」展を開催した。これは、フォルクスワーゲン、アルファロメオ、ボルボなど5社が、オリジナルのタクシーのプロトタイプをつくって出展して、かなり注目を集めた。

タクシーについて考えることとは、じつはなかなかエキサイティングな作業である。なぜかというと、タクシーは、目的が明確なので、解にいたるまでの過程を読みといていく楽しみがあるからだ。以前「ENGINE」誌でロンドンタクシーに試乗したとき、僕はその「The Taxi Project」展のためにアンバースが寄せた序文中の「タクシーはアンサング ヒーローだ」という一文を引用させてもらった。

「アンサング ヒーロー」とは、戦功にもかかわらず評価の低い兵士を称える言葉だが、タクシーはこれだけ都市内で重要な役割を果たしているのに、誰もまともに存在を認めようとしない、とかつてアンバースは書いたのだった。

日産自動車が2014年秋からニューヨーク市のタクシーを手がけることで、ひさびさに、僕にタクシーという存在に目を向けるきっかけになってくれた。

Nissan NV200 NewYork TAXI|日産 NV200 ニューヨーク市タクシー

ニューヨーク タクシーに東京で乗る (2)

日本仕様とはことなる

OPENERS編集部が用意してくれた車両は、いまだけ広報車としてプレス向けに用意されていたものだ。前席と後席のあいだのパーティションに、ダミーか本物かわからないが、ニューヨーク市交通局発行のタクシードライバーのライセンスもはめこんである。USB端子も設けてあるのが今っぽい。一部装備が(おそらく)省略されているが、プロスペックスなので、妙に気分がアガる。

しかも日産ではいま、このニューヨーク タクシーをはじめ、世界各国の都市のためのタクシープロジェクトを進めている。ひとつは、日本向けの「NV200 バネット タクシー」。また、ハックニーキャリッジ(いわゆるロンドンタクシー)とおなじスペックをもつロンドンタクシーを先日発表したし、このあとバルセロナ向けが控えているという。

ニューヨーク タクシーは、2リッター4気筒エンジンに、無段変速機が組み合わされている。ベースは「NV200」だが、日本向けの「NV200 バネット タクシー」と比較すると、車体寸法は全長186.3inch(4,732cm)で、4,400cmのバネットタクシーよりけっこう長い。バネットタクシーでもじゅうぶんすぎるほど室内スペースに余裕あるが、ニューヨーク タクシーの広々感はたいしたものだ。大きな荷物も足元に置けるから、使い勝手はかなりよさそう。

走らせると、1,645kgの車体にたいして、131psの最高出力と、139Nmの最大トルクは、可もなく不可もなくといった印象だ。めざましい加速感もなければ、目立つほどの力不足感もない。最大トルクは4,800rpmでという高回転型なので、なるべくエンジンをまわしたほうが活発なドライブができる。が、タクシーなので、そういう運転をする機会はまずないだろう。日本では、NV200バネットタクシーに、LPGとガソリン、2つの燃料を使える一種のハイブリッド仕様があるぐらいで、商用車の世界は燃費がより重要なファクターのはずだ。

Nissan NV200 NewYork TAXI|日産 NV200 ニューヨーク市タクシー

ニューヨーク タクシーに東京で乗る (3)

広びろした後席

僕たちに縁があるのは、運転席より、ぶ厚い黒のビニールで張られたシートのある後席だ。機能主義的で座り心地は悪くないし、足元もヘッドルームも広々していて、パッケージングに感心した。ただし乗り心地は、サスペンションのアーム長の関係だろうか、堅くて、路面段差からの突き上げが大きく、極上の乗り心地ではなかった。

トヨタ自動車も、2013年の東京モーターショーに、「JPN Taxi Concept」という、コンフォートをベースに新型タクシーの提案を展示した。日産自動車のこのニューヨーク タクシーのほうがスタイリッシュである。実務的でジーンズのようなシンプルさが特徴となっている。

これから、本格的に東京タクシーが出てくるとしたら、必要なのは、短いオーバーハング、高齢者にもやさしい乗降性、静粛性、さらに乗車運賃の合理性──さまざまなものが思いつく。

タクシーは都市の景観の一部なので、スタイルも大事なのはいうまでもない。公共交通機関のデザインがいい街は、知的で魅力的である。だからタクシーには興味がつきない。そうあらためて思うようになった。

           
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