BMWの新たなるフラッグシップクーペ「8シリーズ」に試乗|BMW
BMW M850i xDrive|ビーエムダブリュー M850i xDrive
“大人のクーペ”復活に期待大
2017年の「コンコルソ デレガンツァ ヴィラ デステ」でコンセプトモデルがお披露目され、2018年のル マン24時間レースでプロダクトモデルが発表された、BMW「8シリーズ」。新世代のフラッグシップクーペに、モータージャーナリストの九島辰也氏が試乗した。
Text by KUSHIMA TatsuyaPhotographs by BMW
“大人のクーペ”というカテゴリーに復活した8シリーズ
“大人のクーペ”という言い方がある。ある程度のサイズを持った2ドアクーペで、それなりの高級感も兼ね備えたものだ。かつての日本車でいえば、トヨタ「ソアラ」や日産「レパード」あたりが頭に浮かぶ。80年代に憧れられたモデルだ。
輸入車でいえばジャガー「XJS」やメルセデス「SL」、後の「CL」になる「SEC」あたりもそうだろう。そうそう、キャデラック「エルドラド」なんていうモデルもあった。スーパーカーとは異なる成熟した大人の世界。ツイードのジャケットをまとってステアリングを握るのが様になるクルマたちだ。
さて、今日そのカテゴリーはどうなっているかというと、それなりに充実したラインナップが顔を並べる。メルセデス・ベンツ「Sクラス クーペ」やアストンマーティン「DB11」、ベントレー「コンチネンタルGT」シリーズなどだ。
さらに、最近は2ドアクーペに実用性をもたらせた4ドアクーペも参入している。アウディ「A7スポーツバック」やメルセデス・ベンツ「CLS」、ポルシェ「パナメーラ」など。オーセンティックなスリーボックスにはない“艶”が魅力だ。
前置きが長くなったが、そんなマーケットに向けて新たに名乗りを上げたのが、このBMW「8シリーズ」だ。ところで、齢四十路以上の方であれば「復活!」と思うことだろう。90年代、リトラクタブルヘッドライトの8シリーズが存在したからだ。後にメジャーでも大活躍する某有名プロ野球選手が乗っていたのを記憶する。
今回、ついに8シリーズが蘇ったわけだ。といっても、BMWの現在のランナップの都合でそうネーミングされただけで、かつてのモデルとの関連性はない。7シリーズとも共有する最新のプラットフォームに最新のパワートレーン、そして最新のインターフェイスを搭載して登場した。
BMW M850i xDrive|ビーエムダブリュー M850i xDrive
“大人のクーペ”復活に期待大(2)
来年にはカブリオレ、続いてグランクーペも登場
11月の初めには日本でも銀座でお披露目されたが、ステアリングを握ったのはそのおよそ2週間前。ポルトガルのリスボンを起点とした国際試乗会である。BMWのお膝元であるミュンヘンはもうだいぶ寒くなってきたが、ヨーロッパ最西端のこの国はまだ初秋の陽気であった。
テストドライブしたのはBMW 「M850i xDrive」というモデル。4.4リッターV8ツインパワーターボエンジンを搭載した4WDで、最高出力は530psを誇る。ラインナップ的にはこの他に3リッター直6ディーゼルターボユニット搭載の「840d xDrive」もあるが試乗会場には用意されていなかった。
会場では今後の8シリーズの展開も発表されたのだが、その内容がすごい。来年にはカブリオレ、続いて4ドアクーペのグランクーペが早々にリリースされることが決まっている。おまけに2ドアクーペと4ドアクーペには最上級の「M8」が君臨するそうだ。こいつはかなりヤバそう。と同時に6シリーズで正式に残るのはグランツーリスモのみ。それ以外は売り切り御免となるらしい。
話をBMW M850i xDriveに戻そう。スタイリングは、かなりワイド&ローに見える。実際、既存の6シリーズクーペとサイズ比較すると、全長がやや短くなり全幅は広がり、高さは低くなっている。フロントとリアピラーの角度がさらに鋭角になったのは言わずもがなだ。
また、このモデルは“M”が付いていることからも察せられるように、フロントリップスポイラーやサイドのエアブリーザー、リアスポイラーなどスポーツ性能を高める装備も与えられる。つまり、迫力2倍増し。20インチの専用アロイホイールとそこから覗ける大径ローター、“M”のイニシャルが入るネイビーに塗られたキャリパーも合わせれば10倍増し!と言いたい。
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“大人のクーペ”復活に期待大(3)
かつてポルトガルGPの舞台であったエストリルでの走りは?
乗り込むと、エクステリアとは異なりスパルタンさより高級感が勝る気がした。レザーシートやトリムの扱いに決して派手さはないが、シックな印象だ。ダッシュパネルのスイッチ類はセンスよくまとまっていてモダン。全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出す。
目を落とすとクリスタルガラスのようなシフトノブがキラリと光る。これもいい。ドライバーズシートのスペースは十分。ヒップポイントが低いので、身長180cmオーバーの筆者でも天井高も気にならない。ただ、リアシートに関しては、まぁそれなりと考えていただきたい。
では、走らせた印象はどうか。じつは最初にサーキットでの試乗というプログラムが組まれていた。しかもかつてF1のポルトガルGPで使われていたエストリルサーキットでのテストである。一周4kmちょっとの本格的なレイアウトだ。
もちろんレーシングドライバーによる先導車ありきの走行だが、こちらの速度に合わせながらもつねにペースアップを仕掛けてくるのでなかなかの領域まで持って行った。
そんな状況でもクルマはつねに安定していて懐の深さを感じさせる。加減速しながらのステアリング操作にシャシーがしっかり対応し、いまドライバーが何をしたいのかを察するように動く。“M”の経験値を持つBMWならではの技術力の高さを感じる瞬間だ。
ただ、サーキット走行の過酷な状況では、ブレーキはレーシングカーのように一発でガツンというわけにはいかない。が、信頼性が高いのは確か。クールダウンまで含め5ラップ走ったが、最後までしっかり性能を発揮していた。それだけ発熱性と放熱性が優れているということだろう。
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“大人のクーペ”復活に期待大(4)
サーキットでの高いパフォーマンスと快適性の両立
サーキット走行後は、高速道路、ワインディング、市街地走行へ。そこではあえて日常使いを意識して走ってみた。ドライブモードを“COMFORT”メインにしてのテストドライブである。するとM850i xDriveは、サーキットでのド級のレーシングマシン的な面とは違う顔を見せた。どんな走行シーンでもとにかく快適なのだ。
電子制御ダンパーが優れた乗り心地をもたらし、パワーステアリングのセッティングもダイレクト感は残したままクイックさが姿を消す。もちろん、ワインディングでも気持ちいい。ガッツリ攻めるのではなくヒラリヒラリとこなす感覚で、次々とコーナーを駆け抜けていく。まさに“大人のクーペ”といった感覚である。
試乗会後のディナータイムで、そんな快適性についてチーフエンジニアに話したら、そこがこのクルマのポイントであり、実現させたかったことだと語った。サーキット走行で高いパフォーマンスを発揮するセッティングと快適性の両立だ。快適性については7シリーズですでに具現しているだけに、やはり両立がテーマだったように思える。結果からしてそれは達成されているといえよう。
試乗会で乗ったのはサンセット オレンジ メタリックというボディカラーだった。ポルトガルという地にはぴったりの色合いだ。日本では白、黒、シルバーが定番だが、そんなチョイスもあっていい。大人のクーペ選びはもっと自由でいいのではないかと。
というのが、今回ポルトガルで得た新たなる8シリーズのファーストインプレッションだ。日本の道で乗るとまた印象は変わるかもしれないが、8シリーズのようなクーペが存在することのインパクトは大きい。SUVもいいけれど、こんなクルマが街に増えると景色も変わるだろう。艶が増すというか、大人の余裕を感じさせるというか。とにもかくにも、“大人のクーペ”復活に期待大である。
BMW カスタマー・インタラクション・センター
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