キャデラックATSに試乗|Cadillac
Cadillac ATS|キャデラック ATS
真のコンパクトキャデラック
キャデラック ATSに試乗
キャデラックがエントリー ラグジュアリー スポーツセダンと位置づける「ATS」は、メルセデス・ベンツ「Cクラス」、BMW「3シリーズ」、アウディ「A4」といったドイツプレミアムブランドの中核車種が競う、Dセグメントに真っ向から切り込む、キャデラック渾身の1台だ。日本での発売も、いよいよ迫った、この「ATS」に、ひと足早く櫻井健一氏が試乗した。
Text by SAKURAI Kenichi
Photographs by NAITO Takahito
ライバルはメルセデス・ベンツ CクラスやBMW 3シリーズ
遡ること今からちょうど1年前となる2012年1月、デトロイトモーターショーでワールドプレミアを飾り、もっとも小さいキャデラックとして北米の話題を独占した「ATS」が、いよいよ日本でも販売を開始する。
過去キャデラックには、主に欧州向けとしてとしてDセグメント、いわゆるメルセデス・ベンツの「Cクラス」や、BMW「3シリーズ」のカテゴリーに属する、FFのキャデラック「BLS」が存在していたものの、それはいわゆるバッジエンジニアリングで、キャデラックの純血モデルとは言いがたかった。
グローバル企業らしくかつてGM傘下にあったサーブ「9-3」、もっといえばオペル「ベクトラ」を祖に持つ「BLS」は、東京モーターショーにも参考出品されていたのでご記憶の方もいらっしゃるかも知れないが、それとはことなり、「ATS」は白紙から開発されたキャデラックのDNAを100パーセント受け継いだ“真のキャデラック”だ。
そう、コンセプトがまったくことなっている。
ゼロから開発されたFRシャシーを持つDセグメントモデルというあたりで、その本気度が理解できるというものだ。
キャデラック自身は「デザイン」、「パフォーマンス」、そして「テクノロジー」の3つにフォーカスした、まったくあたらしいキャデラックのエントリー ラグアリー スポーツセダン、と「ATS」を紹介するが、その触れ込みに偽りはない。
Cadillac ATS|キャデラック ATS
真のコンパクトキャデラック
キャデラック ATSに試乗(2)
“アート&サイエンス”を凝縮した「デザイン」
北米で販売される歴代ラインアップのなかで、もっともコンパクトなボディを採用する「ATS」は、ひとめで「今のキャデラックだ」と理解させる、統一感の取られた個性的なルックスをもっている。
そのデザインをキャデラックでは、“アート&サイエンス”というキーワードで表現している。
わかりやすく言えば、未来的で高品質、美しさと技術力の具現化である。他のブランドとの意匠的差別化を明確にはかった、アメリカが世界に発信するラグジュアリーの世界観がそこにある。
ボディスタイルは、スポーティでエレガント。これは、現行モデルのキャデラック「CTS」や「SRXクロスオーバー」、そしてSUVの最高峰である「エスカレード」にも共通したものだ。そこに一切のぶれはない。
どこからみてもこれらのモデルはどれも全身でキャデラックをあらわし、キャデラックというデザインキューを成立させている。
もちろんエントリーレンジを担う「ATS」でも、これは変わらない。特に質感の高さは、欧州高級車の代名詞であるメルセデス・ベンツやBMW、アウディと比較してもまったく引けを取らないものだ。
一見3ボックスのオーソドックスなデザインに見えるATSだが、高速になると自動的にフラップを閉じ空気抵抗を低減させる「アクティブ エアロ グリルシャッター」や、空気の流れを整えるカバーパネルをボディ下部に備えるなど、エクステリアでは最先端の空力デバイスを数多く採用している。
特徴的なリアストップランプは、スポイラーとしても働くようにデザインされ、「ATS」の空気抵抗係数(Cd値)は0.299と非常に優秀な値をしめす。
個性溢れるデザインの採用を“アート”だとすれば、燃費にも最高速にも有利なボディデザインをもつこのあたりは、“サイエンス”の部分かもしれない。
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キャデラック ATSに試乗(3)
直感的に操作可能なインフォテイメントシステム「CUE」
そうしたエクステリアだけでなく、クラフトマンシップが息づく緻密でモダンなインテリアも「ATS」の見所だ。クラスを超えた質感は、ラグジュアリーブランド“キャデラック”の持つイメージを裏切らない。
インストルメントパネルは、ドア部分まで回り込み、室内に一体感をもたらす。そうした少しタイトな運転席まわりは、このクルマがドライバーズカーであることを知らしめるのだ。
中央のインストルメントパネルと一体化された8インチマルチタッチディスプレイやステアリングホイールからも操作可能となる「CUE(キャデラック・ユーザー・エクスペリエンス)」は、タブレットPCやスマートフォン感覚で使用できる最新の電子デバイスだ。
これは、いかにもIT先進国のアメリカ的ともいえるもので、ブルートゥースによるオーディオ、ハンズフリー電話の接続、空調、車両設定などを直感的操作でコントロールできる未来的なシステムだ。ただし残念ながら、セールスポイントとなる先進デバイスも、実は完璧ではない。CUEのナビは日本市場に未対応で、別途ダッシュボード上に電動格納式ナビが備わることになる。
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キャデラック ATSに試乗(4)
2リッターの4気筒エンジンとはおもえない「パフォーマンス」
内外装の高いクオリティが自慢のATSは、しかし、これだけが見所ではない。
新開発のFRシャシーと可変バルブタイミング機構付2リッター直列4気筒DOHC 4バルブ直噴ターボエンジンのもたらす走りも、忘れてはいけない「ATS」のハイライトだ。203kW(276PS)の最高出力と力強くフラットな最大トルク(353Nm)を1,700rpmから5,500rpmにわたって生み出すレスポンスに優れたエンジンは、「直4」や「2リッター」ということを忘れさせるものだ。
6段ATとの相性も良く、どの速度域から踏み込んでも、タイムラグなしに求める加速感を得られる。知らずに乗れば、誰もこのクルマを「たかだか2リッターの直4」だとはおもうまい。
だが、その“スポーティ”と紹介したいほどのパフォーマンスをもたらす陰の立て役者こそ、実は捻じれ剛性で29 kNm/度を達成しながらホワイトボディ単体重量がたった301kgしかない、強固で軽量なボディなのだ。
ボディはさらなる軽量化のために、パワートレインとサスペンションシステムにアルミを多用し、エンジンフードやサブフレーム、サスペンションなどにもアルミが使われた。結果、ATSの制止重量配分は理想的とされる50:50を達成。トータル1,580kgのウェイトとともに、スポーティな走りに貢献する。
ボディのシッカリ感は、乗り心地の良さにも現れている。不快な振動や揺れが少ないからだ。エンジン音が適度にキャビンに侵入してくるのは、スポーティモデルとしての演出だろう。うるさいというほどではない。少し硬めにも感じるが、欧州車をイメージさせる締まった足まわりは、悪くない。
軽快感あるハンドリングも、ATSの美点だ。操作にシンクロするように追従する動きを、スポーティだと表現しないわけにはいかない。簡単そうだが、ドライバーの意思や、操作に遅れることなくクルマを動かすことは難しい。人間の感覚と違和感なく機械の動作を保つのは、実はかなり高度な作業である。細かいことだが、こうした点に技術力の高さを見いだせる。
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真のコンパクトキャデラック
キャデラック ATSに試乗(5)
安全装備は全部のせ 欧州車だけではない最新「テクノロジー」
試乗車は、先に市場投入された“ラグジュアリー”グレードで、17インチのオールシーズンランフラットタイヤを履くが、マッチングに違和感はなかった。かつてオールシーズンタイヤやランフラットといえば、乗り心地やハンドリングに駄目タイヤの烙印を押されたものだったが、今どきの出来はその印象を覆す。
ちなみに上級グレードの“プレミアム”では、ハイグリップタイプの18インチサマーランフラットタイヤになるという。残念ながら、右ハンドルモデルの導入はなく、全車左ハンドルのみの設定だ。
その“プレミアム”には、前方衝突事前警告機能や車線逸脱警告機能、全車速追従のオートクルーズやオートマチックブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)のほか、現状実装可能なセーフティデバイスがほとんど「全部のせ」状態で装備される。
キャデラックはこれを「車両の周囲に探知バリアのようなシールドを張り巡らした」と表現するが、採用装備を眺めてみれば、それはけして大げさなコメントではないことに気づく。「安全」というキーワードでは、ボルボやメルセデス・ベンツが真っ先に思い浮かぶ。しかし「ATS」も、ぶつからない、あるいは、ぶつけないための対策と乗員保護対策は、世界トップのレベルにある。
「豪華でふかふかなアメ車」というイメージは、すでに過去のものだ。
欧州車は確かに世界の高級自動車マーケットをリードするメインストリームである。「走りも品質も欧州車がトップレベルにある」と、そう信じて疑わない人にこそ、キャデラック「ATS」を見てもらいたい。「アメ車はこんなもの」という先入観を消し去るのと同時に、世界における「プレミアムDセグメントのトップレベル」というデータを上書きするのに十分なモデルだからだ。
きっといい意味で、これまでもっていた「アメ車」観は裏切られるはずだ。
Cadillac ATS|キャデラック ATS
ボディサイズ|全長4,680×全幅1,805×全高1,415 mm
ホイールベース|2,775 mm
重量|1,580 kg
エンジン|1,998cc 直列4気筒 直噴DOHC インタークーラー/ターボチャージャー付
最高出力| 203kW(276ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|353Nm(35.9kgm)/ 1,700-5,500 rpm
トランスミッション|6段オートマチック
駆動方式|FR
サスペンション 前|マクファーソン ストラット式(ダブルピボット / スタビライザー付)
サスペンション 後|マルチリンク式(スタビライザー付)
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ベンチレーテッドディスク
価格|(ラグジュアリー)439万円 (プレミアム)499万円