ホンダの5人乗りFCV、クラリティ フューエル セルに試乗|Honda
Honda Clarity Fuel Cell|ホンダ クラリティ フューエル セル
ホンダの5人乗りFCV、クラリティ フューエル セルに試乗
びっくりするほどの出来のよさ
ホンダが満を持してリリースした5人乗りFCVセダン「クラリティ フューエル セル」。3月10日より販売が開始された同モデルに試乗した。
Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki
V6エンジンと同等サイズのパワートレーン
本田技研工業が燃料電池自動車「クラリティ フューエルセル」を2016年3月に発売。4月に試乗会が開かれた。燃料の水素を分解して電気を取り出すのが燃料電池車(FCV)。「本格普及を目指し、クルマとしての「普遍的価値」である実用性の高さ」を追求したと広報資料で謳うモデルだ。全長4,915mmという堂々たるボディは5人用の座席を備える。初年度は自治体や企業へのリースが中心で、ある期間モニタリングを実施した後、個人への販売を行う予定という。
結論的なことをまず書くと、出来のよさにはびっくりするほどだった。燃料に水素を使う電気モーター車として、プラグインハイブリッド車や電気自動車のいいところはちゃんとある。すぐに最大トルクが得られるモーターならではのスムーズな走行感覚に加え、補機類の音がほとんど聞こえない静粛性の高い室内は上質感がたっぷり。加えて、ハンドリングのよさと快適な乗り心地が際立っていた。新設計のプラットフォームを使うなど、本田技研の本気度が光るモデルである。
本田技研はじつは20世紀からFCVに取り込んでいるメーカーだ。これまでにも「FCX」と名づけたモデルを2003年から役所や民間企業に提供するなど、開発に熱心だった。一時期は屋久島の水力発電を利用して水素を作るプロジェクトも研究していたほどだ。2006年になると電池を含めた動力源の小型化からパッケージングの大幅な見直しを行い、スタリングもそれまでの2ボックスの「FCX」から、いっきにスタイリッシュな方向へと転換。07年11月に「FCXクラリティ」を発表したのだった。このクルマもスムーズで静かでよく出来た印象がある。現在のクラリティ フューエルセルの原型ともいえる「FCVコンセプト」が発表されたのは2013年11月だ。
クラリティ フューエルセル(766万円)は燃料電池スタックを含めた燃料電池パワートレインを小型化してフロントボンネット内に搭載。「世界初」と本田技研では謳う。モーターは搭載方法見直しで高さを従来比で34パーセント低く抑えている。燃料電池スタックは発電性能を従来の1.5倍まで引き上げることで小型化。FC昇圧コンバーター、水素供給システム、空気供給システム、電動ターボ型エアコンプレッサー、それに燃料電池スタックと駆動ユニットからなるパワートレインは、はたして従来のV6エンジンと同等サイズになったそうだ。
水素タンクの使用圧力は従来の35MPa(メガパスカル)から今回は70MPaに引き上げられている。タンクの容量は小さくなっても、貯蔵量は4kgから5kgへと増量。それにより一充填走行距離が約750kmになったのも特筆点だ。「毎日の使用からロングドライブまで、日常のクルマとしての実用性が大幅に向上」(広報資料)と本田技研では言う。たしかに、クラリティ フューエルセルのドライブは先にも少し触れたように楽しいのだ。
Honda Clarity Fuel Cell|ホンダ クラリティ フューエル セル
ホンダの5人乗りFCV、クラリティ フューエル セルに試乗
びっくりするほどの出来のよさ(2)
期待以上にクイックなハンドリング
クラリティ フューエルセルのギア選択はボタンで行う。ドライブやパーキングなどを選ぶセレクターのデザインは独特だ。リバースは手前に引くようにボタンを押すなど、後退という感覚と操作が一致するような設計思想が採用されている。Dボタンを押して走り出すと、瞬時に300Nmの最大トルクが出るだけあって、1,890kgの車重をいっさい感じさせず、軽快に発進する。
中間加速も鋭い。電気モーターの利点が生かされていて、ごくわずかなアクセルペダルの踏み込みに敏感に反応する。瞬時の遅れもなく加速していく感覚は内燃機関のクルマとは違う。アクセルペダルの速度コントロール性は正確で、デジタル表示の速度計を見ていると1km/h単位で寸分狂わず自分の望んだ速度を保つことも容易である。技術者は「そこも腐心したポイント」という。
レーンチェンジなどのさいの車体の動きは正確だ。カーブを曲がるさいのハンドリングも大型セダンなのに決してダルでない。むしろ期待以上にクイックで、操縦者の感覚に忠実な操縦を可能にしている。総じていうと、ドイツ製のプラグインハイブリッド(の電気モーターの領域)に通じるところもあるが、軽快な動きは内燃機関を持たない独自の強みといっていいかもしれない。ドライブモードセレクターでスポーツモードを選択すると、加速性がよりよくなり、ひときわスポーティに走れる。新世代の大型セダンなのだ。
乗り心地は快適。突き上げや細かい凹凸による振動もほとんど感じられない。いっぽうダンピング不足もなく、丁寧なセッティングが際だっている。技術者によるとサブフレームを使っているのも乗り心地の快適性に寄与しているはずとのことだった。まずは官公庁で(の送迎などに)使われるというが、2,750mmというロングホイールベースも生かされて、後席乗員は出来のよいリムジンに乗ったように気分よくいられるだろう。
乗っていると、あまりに快適で離れられなくなりそうだ。
Honda Clarity Fuel Cell|ホンダ クラリティ フューエル セル
ホンダの5人乗りFCV、クラリティ フューエル セルに試乗
びっくりするほどの出来のよさ(3)
他に類のないデザイン
クラリティ・フューエルセルに乗りこんだときに違和感はほとんどない。「意図的に従来の乗用車と変わらないような造型にした」とインテリア担当のデザイナーが言っているとおりだ。違うのは液晶メーターにパワーチャージメーターや燃料電池発電モニターというガソリン車にはない表示があることだ。
快適性の面で感心したのは高圧燃料ポンプの音が抑えられていること。キーンという高音の室内への侵入はごくわずかなのだ。モーターの室内伝達音は従来型より25パーセント低減したと開発者の説明にあるように、室内の静粛性を上げるのも開発における重要な課題だったそうである。補機類の音をはじめ、路面からのタイヤの擦過音、それにウィンドシールドのびびり音まで徹底的に抑える努力をしたと試乗会場で開発担当者から説明があったが、じつに静かである。
室内はパーフォレーテッド加工をしたレザー張りのシートなど上質感が高い。造型的には、BMWのiのように、あえて先進性を強調してくれると面白かったが、官公庁や企業での使用ということではこの辺りが限度なのだろうか。ユーザーを低く見てはいけないが。個人用に販売されるときは、欧州の高級セダンのように、もっと素材にも凝ってくれるといいかもしれない。Apple CarPlayに対応したりとインフォテイメント面でも現代的だが、官公庁のドライバーはApple CarPlayを使わないのではないか。一般市販化に向けて技術的蓄積が目的だろう。
スタイリングは個性的だ。プロファイルで見ると前後のオーバーハングがかなり長く感じられる。大型バンパーに細い幅のヘッドランプが組み合わされたフロントグリルにはじまり、ルーフラインもリアのホイールハウスも、あらゆるところの造型が他に類のないものとなっている。リアはファストバックのようなスタイルだけれどトランクは独立式。ひと時代前のシトロエンを思わせるところもある。当初は違和感をおぼえるのは事実だけれど、見慣れてくると個性が魅力に感じられるようになる。水素ステーションの数や水素を作るときのコストなどいくつかの問題などが解決されれば、一般に普及する速度は速いかもしれないと感じられた。未来がそこまで来ているのだ。
Honda Clarity Fuel Cell|ホンダ クラリティ フューエル セル
ボディサイズ|全長 4,915 × 全幅 1,875 x 全高 1,480 mm
ホイールベース|2,750 mm
トレッド 前/後|1,580 / 1,585 mm
車両重量|1,890 kg
モーター|交流同期電動機
最高出力|130 kW(177 ps)/4,501-9,028 rpm
最大トルク|300 Nm(30.6 kgm)/0-3,500 rpm
燃料電池スタック種類|固体高分子形
燃料電池スタック最高出力|103 kW(140 ps)
燃料種類|圧縮水素
使用圧力|70 MPa
燃料タンク容量|(前)24 ℓ (後)117 ℓ
タイヤ 前/後|235/45R18
サスペンション 前|マクファーソン式
サスペンション 後|マルチリンク式
バッテリー|リチウムイオン電池
最小回転半径|5.7 メートル
最低地上高|135 mm
価格|766万円
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