プジョー308 GTi by PEUGEOT SPORTを試す|Peugeot
プジョー308 GTi by PEUGEOT SPORTを試す
しなやか系ホットバッチ
最新のプラットフォームをもって登場したプジョー「308」に、ホットなモデル「308 GTi by PEUGEOT SPORT」が追加された。グループのなかでもスポーツを強調してゆくブランドとなったプジョーの最新ホットハッチに大谷達也氏がツインリンク茂木のショートコースで試乗。その実力をいかんなく試した。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki
ライバルと比較してもユニークな存在
プジョーのCセグメント・ハッチバックである「308」に初のハイパフォーマンスバージョンとなる308 GTi by PEUGEOT SPORTが追加された。
モータースポーツ好きであれば、PEGEOT SPORT(プジョー・スポール)の名にはきっと深い思い入れがあるだろう。1980年代には「205 ターボ16」で世界ラリー選手権を席巻。そして1990年代には「905」でルマン24時間を制し、2000年代に入ると「908」でルマン24時間に再挑戦。2009年に1-2フィニッシュを果たしてアウディの連覇を食い止めたことは記憶に新しいところである。
そんな数々の栄冠に彩られたグレード名を与えられた「308 GTi」は、日本仕様の「308」として唯一、直4 1.6リッター ターボエンジンを搭載(他はすべて直3 1.2リッター ターボ)。最高出力が250psと270psというふたつのスペックをラインナップしている。
ここで直接のライバルと目されるフォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」やルノー「メガーヌ R.S.」を俎上に上げて比較すると、308 GTiのユニークな位置づけが浮き彫りになる。
まず排気量はゴルフとメガーヌはいずれも2.0リッターなので、308だけが400cc小さいことになるが、最高出力はゴルフの220psを上回り、265psのメガーヌに匹敵。そして270ps仕様の308 GTiは、ゴルフ GTIよりもむしろ最高出力280psの「ゴルフ R」に近い存在といえるのだ。
いっぽうで最大トルクは排気量の大小関係がそのまま反映する形となり、ゴルフ GTIの350Nm、メガーヌ R.S.の360Nmに対し、308 GTiはいずれも330Nmに留まる。価格はゴルフ GTIの389万円、メガーヌ R.S.の369万円に対し、308 GTiは250ps仕様が385万円で270ps仕様は436万円。こうして見ていくと、270ps仕様の308 GTiは、ゴルフ GTIよりも539万円のゴルフ Rをライバル視しているようにさえ思えてくる(ただしゴルフ Rのみフルタイム4WDで、ほかはすべてFWD)。
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俊敏な加速に快適な乗り心地
308 GTiのスペックで忘れることができないのは、その軽さ。なんと、車重はゴルフ GTIの1,390kg、メガーヌ R.S.の1,430kgに対し、2台の308 GTiは1,320kgに留まるのだ。
したがってパワー ウエイト レシオは、ゴルフ GTIの6.32kg/ps、メガーヌ R.S.の5.40kg/psを凌ぎ、250ps仕様でも5.28kg/ps、270ps仕様に至っては4.89kg/psを記録する。ちなみに、ゴルフ Rでさえ5.36kg/psなのだから、308 GTiのパワーウェイトがいかに傑出しているかがわかるだろう(ギアボックスはいずれも6MTで比較)。
いっぽうで250ps仕様と270ps仕様を比較すると、メカニズム面では270ps仕様にのみトルセンLSDと専用サスペンションが装着されるとともに、タイヤサイズが250ps仕様の225/40R18から270ps仕様では235/35R19にインチアップされるものの、それ以外はほぼ同等。
そしてインテリア面では270psのほうがシートの仕様がワンランク上がるくらいで、大きな違いは見当たらない。「それにしては約50万円の価格差はちょっと大きすぎないかな」という気持ちを抱きつつ、2台を試乗することになった。
先に試乗したのは250ps仕様。1.6リッターで250psということは、いくらターボ付きとはいえリッターあたり156psのハイチューン エンジンである。けれども、新世代の4気筒エンジンは気むずかしい様子を見せるわけでもなく、スムーズに回転を上げていく。俊敏な加速にも、もちろん不満はない。
1速でレブリミット近くまで引っ張って2速に入れると、ギアボックスのステップアップ比がやや大きいせいか、一瞬躊躇してから加速を再開する傾向が見られたけれど、その程度はごく軽い。個人的には、排気音が無用に大きくないことと、ゴルフGTIやメガーヌRSよりいちだんとソフトな足回りによる快適な乗り心地が強く印象に残った。
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ハンドリングを決定づける足回り
続いて270ps仕様を試す。こちらは特設のハンドリングコース内のみでの試乗となったが、250psと比べても足回りのしなやかさに大きな差は感じられない。これは実に新鮮な感覚だ。
スポーティモデルといえば、ガチガチに固めたサスペンションを自動的に期待する向きもあるだろうが、ポイントになるのは自分好みのハンドリングに仕上がっているかどうかであって、同じハンドリングであればむしろソフトなほうが乗り心地としては快適で好ましいはずと個人的に信じてきたからだ。
このしなやかな足回りは308 GTi by PEUGEOT SPORTのハンドリングを決定づけているといっても過言ではない。
主要コンポーネンツのレイアウトが優れているせいか、ソフトな足回りでもステアリング レスポンスが鈍いとは思わなかったが、攻め込んでいけば当然のことながらフロントのロールは深くなり、これにつられてイン側のリアタイヤも浮き上がり気味となって、最後には路面から完全に離れてしまう。
こうなるとリアの荷重を支えるのはアウト側のタイヤ1本となるから横グリップは減少。結果としてテールがほどよくアウト側にスライドし、それまでの軽いアンダーステアをカバーしてニュートラルステアから軽いオーバーステアを示すようになる。
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スポーツモデルに対する考え方の違い
まあ、ホットハッチに昔からよくあるセッティングといえばそれまでだが、どこまでもアンダーステアを貫き通すのではなく、攻め込んでいけば自然と曲がりやすくなっていくという意味ではコントロール性が高いともいえる。
こうしてロールが深まるとフロントタイヤでも内輪の接地性が薄れ、トラクションが抜け気味になっても不思議ではないのだが、そこはトルセンLSDが絶妙にトラクションをコントロールし、「踏んでも踏んでも前に進まない」という状況を回避してくれる。
また、20psのパワー差はほとんど体感できなかったものの、250ps仕様で指摘した1速と2速のギャップは、270psでは気にならなかった。ふたつのモデルはギア比も最終減速比も同一なので、ひょっとするとエンジン特性の違いがその原因だったのかもしれない。
ところで、イン側のリアタイヤを浮き上がらせるセッティングでは、ハードコーナリング中は3本のタイヤでグリップすることになるので、クルマ全体としての横グリップが低下する傾向は否めない。つまり、速いコーナリングスピードを保つのは難しくなるわけだ。それでもプジョーはコントロール性と常用域での乗り心地を重視した。これはこれでひとつの見識というか、スポーツモデルに対する考え方の違いといってもいい。
よくあるガチガチ系とはひと味違う“しなやか系”の登場は、ホットハッチ選びをさらに幅広いものにしてくれそうだ。