6 シリーズ グランクーペに試乗|BMW
BMW 6 Series Gran Coupe|ビー・エム・ダブリュー 6 シリーズ グランクーペ
ライバルとの比較から探る その味わい
BMW 6シリーズ グランクーペに試乗
BMW「6シリーズ グランクーペ」は、ラグジュアリークーペ「6シリーズ」を4ドア化した、BMW初の4ドアクーペモデルだ。ジュネーブモーターショーで初公開され、6月に日本に導入されたことをOPENERSでもすでに報じているが、この「6シリーズグランクーペ」に、ついに日本で試乗する機会を得た。ステアリングを握ったのは、スポーツドライビングを愛する大谷達也氏。高い性能を誇るライバル4ドアクーペモデルとの比較から、BMWならではの魅力を解き明かす。
Text by OTANI Tatsuya
Photographs by ABE Masaya Porsche for Panamera
ARAKAWA Masayuki for Mercedes-Benz CLS 350
敵を知り、己を知れば?
ライバルを知ることは、ときにそのモデルを理解するのに大いに役立つ。
これまではいずれも2ドアとなるクーペとカブリオレがラインナップされていたBMW「6シリーズ」に、4つのドアを備える「グランクーペ」が追加された。そのライバルをBMWの広報担当者に訊ねると、ずばり、ポルシェ「パナメーラ」とメルセデス・ベンツ「CLS」との答えが返ってきた。
全長5mクラスのクーペライクな4ドアという意味では、両モデルの位置づけは6シリーズ グランクーペとぴったり一致する。とりわけ、スポーティな走りに重きを置いたパナメーラ、そしてメルセデスというブランドがラグジュアリー感を際立たせるCLSは、6シリーズ グランクーペが売り物とするふたつの要素をしっかりと強調する役割を果たしている。
では、アウディ「A7 スポーツバック」は? こちらも全長5mクラスで4ドアを備えるクーペライクなモデル。6シリーズ グランクーペの競合モデルとして数え上げていい気がするが、これにたいする広報担当者の答えは「ノー」。なぜなら、A7スポーツバックはテールゲートが与えられた5ドアハッチバックだから。
たしかに、それは事実だが、ハッチバックモデルながら流麗なスタイリングに仕上げられたA7 スポーツバックを6シリーズ グランクーペと比較検討するファンがいても不思議ではない。本当に大切なのは、こうしたライバルにたいして、6シリーズ グランクーペがどんな特徴を備えているかという点だろう。そこで、このリポートではライバルとの比較をまじえながら6シリーズ グランクーペの魅力を紹介することにしたい。
BMW 6 Series Gran Coupe|ビー・エム・ダブリュー 6 シリーズ グランクーペ
ライバルとの比較から探る その味わい
BMW 6シリーズ グランクーペに試乗(2)
デザインと居住性を探る
まず、スタイリングはどうか? BMW6シリーズといえば、1976年にデビューした初代を引き合いに出すまでもなく、その美しいデザインがつねに注目を集めてきた。この点は最新の6シリーズ グランクーペでも変わらない。ただし、パナメーラ、CLS、A7スポーツバックがいずれも優雅な曲線を多用しているのにたいし、6シリーズ グランクーペはシャープな直線で構成されたデザインとされた。この結果、6シリーズ グランクーペはキリリと引き締まった力強いイメージを手に入れることに成功している。ライバルにはない6シリーズ グランクーペの特徴といえる。
この直線的なデザインのなかに、6シリーズ グランクーペは大人4人が余裕をもってくつろげる室内スペースをつくり出している。前席で味わえるゆったり感は、贅沢な2ドアモデルとして誕生した6シリーズクーペゆずり。いっぽうの後席は、2ドアモデルにたいしてホイールベースを115mm延長することにより、リヤパッセンジャーのニールームを拡大している。たとえば、身長172cmの筆者が適切なドライビングポジションをとった後で後席に乗り込むと、膝周りには拳ひとつ半ほどのスペースが残る。
おなじような方法でリヤのヘッドルームを見ると、今度は横にした拳がすっと入った。こちらは流れるようなクーペフォルムのなかに充分なスペースを確保した巧みなデザイン処理と、緻密なパッケージングによって実現したものとおもわれる。また、後席の背もたれの角度が適切なので、リヤシートで長時間を過ごしても苦痛には感じないだろう。
こうした実質的な広さだけでなく、6シリーズ グランクーペの後席は明るく開放感に溢れていた。試乗車が電動グラスサンルーフを備えていたこともプラスに影響しているはずだが、これであれば、リヤパッセンジャーも狭苦しい場所に押し込まれたという印象を持たないはず。これらの点ではパナメーラを確実に凌ぎ、CLSやA7スポーツバックに比肩するレベルにある。
BMW 6 Series Gran Coupe|ビー・エム・ダブリュー 6 シリーズ グランクーペ
ライバルとの比較から探る その味わい
BMW 6シリーズ グランクーペに試乗(3)
BMWの面目躍如たるシルキー6
6シリーズ グランクーペのエンジンは3リッター直6ターボと4.4リッターV8ツインターボの2タイプ。前者は「640i グランクーペ」、後者は「650i グランクーペ」と呼ばれるが、650iグランクーペの納車は今年10月にはじまる関係もあって、今回は640iグランクーペにのみ試乗できた。なお、ギアボックスはどちらも8段スポーツオートマチックトランスミッションとなる。
シルキースムーズと称されるBMWのストレート6は、いまさら褒め称える言葉が見つからないほど完成度が高かった。ただし、回転バランスの優れた鼓動感を伝え、いかにも精度の高い機械であることを高らかに主張していた以前のストレート6にくらべると、最近はスムーズさがさらに磨かれ、もはや無振動と評しても構わないレベルに到達しているようにおもう。
エフィシエントダイナミクスを標榜するBMWが、このエンジンにも最新のダウンサイジングコンセプトを取り入れたことはいうまでもないが、たとえば低速域からポンポンと素早くシフトアップして効率の高さを強調するアウディにくらべると、BMWのほうがより息の長い加速感を伝えるような気がする。だからといって640iグランクーペの効率が低いわけでは決してなく、最高出力320psと最大トルク450Nmを発揮しながら、燃費はJC08モードで12.4km/ℓに達している。したがって、これはあくまでも演出の話といっても差し支えないのだが、自然吸気エンジンの魅力に慣れ親しんだドライバーにはA7スポーツバックやCLSよりも640iグランクーペのほうが好まれるかもしれない。
8段ATと絶妙なコンビネーションをしめし、どんな速度域、回転域からでも欲しいパワーをすぐに取り出せる3リッター直6ツインスクロールターボの出力特性にもまったく不満を抱かなかった。このため、トラクションを最大限いかしたい低速コーナーからの立ち上がりであろうと、スロットル操作によって微妙に姿勢をコントロールしたくなる高速コーナーであろうと、自由自在に操ることができる。“エンジン屋”BMWの面目躍如といったところだ。
BMW 6 Series Gran Coupe|ビー・エム・ダブリュー 6 シリーズ グランクーペ
ライバルとの比較から探る その味わい
BMW 6シリーズ グランクーペに試乗(4)
クルマと深く対話できる
段差を超える際の振動(ハーシュネス)の処理が巧みでゴツゴツ感を伝えない足回りは、うねった路面でも充分なロードホールディング性を発揮するしなやかさを備えながら、フロント:1600mm、リア:1665mmのワイドトレッドが効いているのか、ロール剛性は高めで、スポーティドライビング中にも無用な不安を抱かせない。ロール剛性の高さはハンドリングのレスポンス向上にも貢献しているのだが、この部分の味付けに、BMWの特色をはっきりと見ることができた。
スポーティなハンドリングとは、いったいどんなものか? その答えはひとつだけではなかろう。たとえばメルセデスやアウディは、ここ数年来、アジリティという価値観にこだわりを見せている。これは、ステアリングを切り始めた際に素早くノーズの向きが変わる特性を意味するもの。なるほど、近年、メルセデスやアウディのスポーティモデルはステアリングをちょっと操作しただけでターンインを開始する傾向が強い。
いっぽうのBMWは、ステアリングを切り込んでいく過程で起きる過渡的な姿勢変化によりこだわっているような気がする。つまり、ステアリングを切った結果として起きるターンインの素早さを競うのではなく、ドライバーにたいし、クルマの向きが変わっていく様子をつぶさに伝えてくるのだ。このため、クルマにいま何が起きつつあるのかを細大漏らさず知ることができる。クルマと深く対話できる、と言いかえてもいい。
ハードコーナリング中でもドライバーが余裕をもっていられるのは、このためだろう。試乗をはじめてまだ10分と経っていないのに、全幅およそ1.9mのボディを軽くスライドさせながら狭いワインディングロードを駆け抜けることができたのは、ステアリングを通じた筆者と640iグランクーペの対話がそれだけ濃密だったことの証明といえる。
いたずらにトレンドに追随することなく、独自の思想でドライビングダイナミクスを追い求めるBMW。スポーティモデルを長年、つくりつづけてきた彼らの経験は、640iグランクーペにも明確に息づいているようだ。
BMW 640i Gran Coupe|ビー・エム・ダブリュー 640iグランクーペ
エンジン|直列6気筒DOHC ツインスクロールターボチャージャー付き
排気量|2,979 cc
最高出力| 235kW (320ps)/5,800 rpm
最大トルク|450Nm (45.9kgm)/1,300-4,500 rpm
全長 × 全幅 × 全高|5,010 × 1,895 × 1,390 mm
ホイールベース|2,970 mm
トレッド(前/後)|1,600/1,665 mm
車両重量|1,860 kg
最小回転半径|5.5 m
最低地上高|125 mm
トランク容量|460 ℓ(後席を倒した場合、最大1,265ℓ)
トランスミッション|8段AT
乗車定員|5名
駆動|後輪駆動
燃費(JC08モード)|12.4 km/ℓ
BMW 650i Gran Coupe|ビー・エム・ダブリュー 650iグランクーペ
エンジン|V型8気筒DOHC ツインターボチャージャー付き
排気量|4,394 cc
最高出力| 330kW (450ps)/5,500 rpm
最大トルク|650Nm (66.3kgm)/2,000-4,500 rpm
全長 × 全幅 × 全高|5,010 × 1,895 × 1,390 mm
ホイールベース|2,970 mm
トレッド(前/後)|1,595/1,635 mm
車両重量|- kg
最小回転半径|5.5 m
最低地上高|125 mm
トランク容量|460 ℓ(後席を倒した場合、最大1,265ℓ)
トランスミッション|8段AT
乗車定員|5名
駆動|後輪駆動
燃費(JC08モード)|- km/ℓ