フィアット パンダ 4×4を試乗する|Fiat
Fiat Panda 4×4 |フィアット パンダ 4×4
ツウ好みのコンパクト4WDモデル
フィアット パンダ 4×4を試乗する
小さめ4駆として世界的に貴重な存在といえるのが、フィアットの「パンダ 4×4(フォーバイフォー)」。日本には軽自動車カテゴリーがあるので、ジムニーやハスラーなど排気量660ccの4駆モデルも存在するが、こと「輸入車ブランドで」となると、パンダが最小モデル。プジョー「2008」やフォード「エコスポーツ」など、パンダより上のBセグメントにクロスオーバーモデルはあるがともにFFとなる。6段MTモデルのみのラインナップなので少々マニア向けながら、“欧州車はMT”というこだわり派にとって、その走りはなかなかに痛快である。
Text by SAKURAI KenichiPhotographs by TSUKAHARA Takaaki
意外に侮れないオフロード性能
現在日本に導入されているフィアット「パンダ」は、マルチエアと呼ばれる63kW(85ps)の最高出力をもつ、総排気量875ccの直列2気筒8バルブターボエンジンに、ATモード付き5段シーケンシャルのデュアロジック(ロボタイズドMT)トランスミッションを搭載した前輪駆動モデル1車種がカタログモデルとして販売されている。
そこにインポーターであるFCAジャパンは、5段MTモデルや4×4(フォーバイフォー)と呼ばれる4WDモデルを限定車として年に数回追加。欧州車ファンが好みそうな、こうした特別なラインナップを台数限定で発売するという手法は、ATが主流となって久しい日本市場では客層が限られるはずなので、ある意味正しいビジネスモデルといえそうだ。数は決して多くないが、欲しい人にとってはたまらない車種を正規モデルとして導入してくれるFCAジャパンは、そうしたニッチな欧州車ファンにとって、良心的なインポーターなのかもしれない。
今回紹介する「パンダ 4×4」は、FCAジャパンが正規モデルとして昨年末に340台の台数限定で販売を開始したモデル。その「パンダ 4×4」をベースに、今年1月30日にはスキーやスノーボードを装着できる「ベースキャリア」と荷室の汚れを気にすることなくガンガン使える「ラゲッジマット」のアウトドアアクティビティに向け装備を標準採用した特別モデル「パンダ 4×4 アドベンチャー エディション」を全国限定60台で発売し、さらにこの7月10日からは、フルオートエアコンやリアプライバシーガラスを標準装備した「パンダ 4×4 コンフォート」を、「タスカングリーン」のボディカラーで100台、「ベネチアンブルー」で20台、計120台の限定で発売している。
これはら装備のちがいで車名がことなっているだけで、基本的なメカニズムは同一である。ただし、これはと思ったら早めにアクションを起こさないと売り切れてしまうのが限定モノの定め。そこでこのレポートにも価値が出る――というのは、いつものように編集部サイドの勝手な独り言である。
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案外キビキビと走ってくれる
標準モデル(FF)に対して「パンダ 4×4」は、全長で30mm、全幅で25mm、そして全高で65mmサイズをアップしている。ボディデザイン見ればわかるとおり、これは前後のアンダーガード追加によるバンパーのデザイン変更や、フェンダーのモールの追加によるものである。わずかなちがいだが、ロードクリアランスの向上とあわせて、4WDモデルにふさわしいタフなイメージが出来上がってくる。
ホイールも「パンダ 4×4」専用アイテムとなり、タイヤは標準モデルの185/55R15から175/65R15サイズへと、こちらも変更されている。
エンジンは、前述のとおりフィアット「500」でもお馴染みの総排気量875ccの直列2気筒8バルブターボエンジンのツインエア。右ハンドル車の6段MTが唯一の仕様だ。低速ではツインエンジン特有のバタバタ感があるが、アクセルを踏むに従って吹けあがりは気持ちよく、エンジンは軽快に回る。最高出力63kW(85ps)/5,500rpm、最大トルク145Nm(14.8kgm)/1,900rpm。車輌重量1,130kgのボディには、必要じゅうぶんのパワーで、マニュアルトランスミッションを駆使すれば、案外キビキビと走ってくれるのだ。
ただし、5速以上は燃費向上のためのオーバードライブという設定であるため、街中では早めにギアチェンジをおこない、巡航速度に乗せるという走り方がこのエンジンにはマッチしているようだ。加速時にはエンジンノイズや車外からの音(主にロードノイズ)がそれなりにキャビンへと侵入してくるものの、目くじらを立ててこれをどうこう言うような価格帯のクルマではないだろう。むしろ、いま自分の手で目一杯のパワーを引き出して走っているという楽しさがわいてくるから不思議だ。
シフトレバーの手前には、「ECO」モードスイッチが用意されており、試しにこのスイッチを押すと、あからさまにパワーが抑えられる。最高出力が6kW(8ps)ダウンし、加速も吹け上がりも確実に鈍る。
今回の試乗では燃費向上にどれだけの効果があるのかはテストできなかったが、エンジンのスタート&ストップ機構との組み合わせなどで、それなりの効果は期待できそうだ。
ちなみにメーカー発表値の燃費消費率では、JC08モードでリッターあたり15.5kmというデータが公表されている。
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生活4駆として頼もしい
注目の4WDシステムは、電子制御によるトルクオンデマンドのフルタイム式。これまでのビスカスカップリングのトルクスプリット式からの変更である。通常はFFとして走行し、前輪が滑ったら後輪に駆動力を配分する、いわゆる「滑ったら4駆」と世間一般でいわれるシステムだ。これは前後にひとつずつのディファレンシャルギアを持ち、リアデフの前にそれらをつなぐ電磁クラッチが組み合わせられたシステムである。いまどきであれば、ITCC(インテリジェント トルク コントロール カップリング)というほうが、わかりやすいかもしれない。
速度が50km/h以下の場合であれば、センターコンソールにあるELDスイッチ(電子式ディファレンシャルロック)ひとつでデフロックもおこなえ、低速域でのグリップの確保、例えば泥濘路や雪道で轍からの脱出などのさいに効果的だ。同時にトランスミッションは1速の変速比が4.100という、いわゆるエクストラローともいえるギア比なので、こうしたシチュエーションでは電子制御4WDシステムとともに大いに頼もしい。
標準装着タイヤよりも細いタイヤサイズの設定もまた、オフロード性能を少しでも向上させようとする開発陣のこだわりだ。ただし装着はエコタイヤ系なのでオフロードユースには向かないが、設定という意味合いでのサイズ選択に、こだわりがあるのだ。
もしも雪道用にM+S(マッド+スノー)タイヤを履いたなら、プラスアルファのロードクリアランスやローギヤアード設定のマニュアルトランスミッション、ELD、そしてなによりも4駆でありながらFFにわずか60kgプラスでしかない軽い車重など、このパッケージングとメカニズムがもたらす悪路走破性はじゅうぶんに期待できる。つくづく雪道で試せなかったのが残念だが、生活4駆として頼もしいこと、この上ない。もちろん街中で使っても、これから多くなりそうなゲリラ豪雨などの悪天候時には安心感が格段にちがう。
オンロードでは、車高が65mmアップした弊害はほとんど感じられない。乗り心地も快適といえるレベルである。それどころか前方視界が良くなったことで、街中ではかえって走りやすいとさえ感じる。1速でスタートし、早めに2速にギアチェンジ。3速、4速とギアを上げるころには、じゅうぶん流れに乗れるスピード域に達する。1リッターに満たない排気量だが、低速トルクはじゅうぶんで、走り出してしまいさえすれば、3速-4速を行ったり来たりの、ずぼらな運転も許容してくれる。
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刺さるクルマ造り
いっぽうワインディングなど、しかるべきシチュエーションでは、多少ロールが多いとは感じるが、スタビリティの高いコーナリングが味わえる。背の高いSUVというキャラクターから想像するよりもなかなかスポーティ。アンジュレーション(うねり)のいなし方も、ばたつくことなくスッと収まり、ある意味で欧州小型車のお手本のようなマナーを見せる。マニュアルトランスミッションこそが欧州車の醍醐味と思える(数少ないニッチ指向の)ユーザーには、きっと理想的な走りが楽しめるはずだ。
4駆とはいえ、マニュアルトランスミッションだけで、このサイズ。しかもリアドアのウィンドウは今どき手動式。そんな「パンダ 4×4」の税込価格にして251万6,400円というプライスを高いか安いか判断するのはユーザーだが、マニュアルトランスミッションを楽しいと思える(希少な)人にとっては、高さがあって意外に使い勝手の良い荷室や、シートアレンジ、ちょっとオシャレな内装などはじゅうぶんに刺さるはず。どストライクといっていいモデルである。
もちろん、このクルマを好意的に受け止めることのできる絶対数は少ないだろう。ダメな人はもう、マニュアルトランスミッションというだけでNGだ。FCAジャパンもそれを見越しての、限定販売である。だが、いまどき(クルマにしては)常識外れの2気筒エンジンを実用化するという英断を下したフィアットの、4×4とこれまたいまどきにしてマニュアルトランスミッションを採用した「パンダ 4×4」というモデルは、大きい方が偉いというクルマヒエラルキーを無視できる貴重な存在でもある。
勝手な思い込みかもしれないが、BMWの「3シリーズ」のオーナーであれば横に「5シリーズ」が並べば気分は下がるし、5シリーズのオーナーでも、「7シリーズ」の横には置きたくないだろう。だが、このクルマに乗っていると、そんな世間の自動車カーストとは無縁でいられる(気がする)。たとえ、隣にメルセデスが並んできても、引け目を感じることのない所有欲を満たしてくれると思う。イタリアのメーカー、特にフィアットは、チンクエチェントの例でも分かるように、そうした個性あふれる“刺さるクルマ造り“が実に上手いのだ。
Fiat Panda 4×4 |フィアット パンダ 4×4
ボディサイズ│全長 3,685 × 全幅 1,670 × 全高 1,615 mm
ホイールベース│2,300 mm
トレッド 前/後│1,410 / 1,410 mm
車両重量|1,130 kg
エンジン│875 cc 直列2気筒SOHC インタークーラー付ターボ
最高出力│63 kW(85 ps)/5,500 rpm
(ECOスイッチON時)57 kW(77ps)/5,500 rpm
最大トルク│145 Nm(14.8 kgm)/1,9000 rpm
(ECOスイッチON時)100 Nm(10.2 kgm)/2,000 rpm
トランスミッション│6段MT
駆動方式│4WD
タイヤ│175/65R15
ブレーキ 前/後│ベンチレーテッド ディスク / ディスク
サスペンション 前|マクファーソン ストラット
サスペンション 後|トーションビーム
燃費(JC08モード)│15.5 km/ℓ
CO2排出量|150 g/km
トランク容量|225-870 リットル
ハンドル位置|右
価格│251万6,400円(パンダ 4×4 コンフォートは258万1,200円)
CIAO FIAT
0120-404-053(9:00-21:00、年中無休)