自分だけのフェラーリをテーラーメイドする、458 スパイダー 武士道|Ferrari
CAR / IMPRESSION
2015年7月2日

自分だけのフェラーリをテーラーメイドする、458 スパイダー 武士道|Ferrari

Ferrari 458 Spider BUSHIDO|フェラーリ 458 スパイダー 武士道

自分だけのフェラーリをテーラーメイドする

昨今、ラグジュアリーブランドのトレンドはパーソナリゼーション、つまり自分だけの愛車を仕立てるという方向へと進んでいる。それはフェラーリも例外ではなく、かつてオーナーの希望に合わせ車両をつくっていたように、現代のフェラーリもさまざまなオーダーが可能だ。今回用意された「458スパイダー」も、世界に一台だけの特別なモデル。フェラーリがあらたにローンチした「テーラーメイド・プロジェクト」によってつくられた特別な跳ね馬だ。

Text by OTANI Tatsuya Photographs by NAITO Takahito

どこまでを自分仕様にするか

目の前にあらわれたフェラーリ「458スパイダー」は、落ち着いた紺にペイントされていて、フロントフードには2本の白いストライプが描かれているものの、それ以外にとりたてて目につく部分はなかった。それどころか、この外装色はむしろ458の彫刻的なスタイリングにしっくり馴染んでいるようにさえおもえた。

しかし、この458こそは世界にこれ1台だけしかない、純粋なオリジナル仕様なのである。そしてそれを可能にしたのが、先ごろフェラーリが立ち上げた「テーラーメイド・プロジェクト」なのである。

名のあるラグジュアリーブランドがすべからくそうであるように、フェラーリも充実したパーソナリゼーションプログラムを用意している。そもそも458スパイダーに標準で用意されているボディカラーだけでも26色あり、さらにホイールのサイズやカラー、インテリア、エアロパーツなどが選択できるので、標準のままでもかなりの部分まで自分好みの1台に仕上げることは可能だ。

けれども、それでもまだ満足できない場合、選択できるカラーや素材がぐんと広がる「カロッツェリア・スカリエッティ」というプログラムが用意されている。もっとも、いくらカロッツェリア・スカリエッティの選択肢が多いとはいっても、所詮は既製品に過ぎない。

そうではなく、自分が独自におもいついたカラーや素材を既存のプログラムとは関係なく選びたい場合にはスペシャルオーダーというシステムが用意されている。これであれば、理論上は技術的に可能なことであれば何でも実現できるので、それこそ、自分のわがままをおもう存分発揮できることになる。

もっとも、ここまで幅広い自由が許されたとき、むしろ問題になるのはオーダーするあなた自身の感性、そして美的センスである。なにしろ、極端にいえばどんなボディカラーでもオーダーできるのだから、できあがったフェラーリが本当に美しいかどうかは完成してみるまでわからない。

いくら自分のセンスに自信をお持ちの方でも、これではいささか不安だろう。

そんなフェラーリファンにお勧めなのが、カロッツェリア・スカリエッティ、スペシャルオーダーに続く第3のパーソナリゼーション・プログラム、「テーラーメイド・プロジェクト」なのである。

Ferrari 458 Spider BUSHIDO|フェラーリ 458 スパイダー 武士道

自分だけのフェラーリをテーラーメイドする (2)

自由の侵害か、それとも神の言葉か

では、テーラーメイドとスペシャルオーダーのちがいはなにか。選択肢が無限に近いほど豊富に用意されているという点ではテーラーメイドもスペシャルオーダーも大きな差はない。

ただし、技術的に可能であれば基本的にどんなオーダーでも受け付けてもらえるはずのスペシャルオーダーに対し、テーラーメイドではオーダーされた内容を専任のデザイナーが精査。このうち、フェラーリに似つかわしくないとおもわれる発注に関してはデザイナーが、たとえば「お客様、この色の組み合わせは生憎フェラーリに似つかわしくないとおもわれます」とアドバイスし、それに代わるアイデアを提案してくれるのだ。

さて、これを皆さんは自由の侵害と見なすだろうか? それとも、ありがたい神の言葉として受け入れるだろうか? どちらと考えるかはもちろん個人の自由だが、ひとつだけ間違いないのは、テーラーメイドであれば確実に美しいフェラーリが仕上がるという保証がついている。

また、テーラーメイドを担当する専任デザイナーは誰もがフェラーリのアイデンティティを熟知した者ばかりだから、フェラーリらしくない1台が仕上がってしまう危険も排除できる。

実は、フェラーリのオフィシャルディーラーであるコーンズはこの点を重視しており、たとえば下取りする場合でも、テーラーメイド・プロジェクトで製作されたもののほうをより高く買い取ることを検討しているという。

つまり、自分勝手な組み合わせの集合体ではなく、フェラーリ公認のセンスで統一されたひとつの作品としてその価値をみなす、というのだ。その意味からも、テーラーメイドは一般的なオプションやパーソナリゼーションとは一線を画したものといえるだろう。

では、このテーラーメイド、どういった手順で作られるのだろうか?

Ferrari 458 Spider BUSHIDO|フェラーリ 458 スパイダー 武士道

自分だけのフェラーリをテーラーメイドする (3)

そのコンセプトは「武士道」

基本的には、テーラーメイド担当デザイナーとの打ち合わせはフェラーリの本拠地であるマラネロでおこなわれる。顧客は専用のアトリエと呼ばれる部屋に招かれ、そこでさまざまなサンプルを見ながら、自分のおもい描くコンセプトをデザイナーに説明することになる。

もちろん、それがそのまま受け入れられることもあれば、前述のとおり別のプランを提案されることもある。そうやって1台の仕様を決めるまでには、まる1日を要することが多いようだ。

ここでコンセプトが固まると、オーダーした顧客のもとにデザインスケッチが届けられる。これが最初の打ち合わせの、およそ3週間後のこと。これがイメージどおりであればそれでよし、もしもそうでない場合には修正をおこなうことになるが、その場合はもう1度、3週間を要するのではなく、だいたい1週間程度で変更を受けたデザインスケッチが仕上がるという。

そうして仕様が確定した段階でいよいよ生産に入るのだが、テーラーメイドでは個別の作業がくわわるほか、特別な素材を用意するケースも出てくるので、通常の生産工程+2ヵ月
程度の時間を要する。たとえば458スパイダーであればオーダーから生産まで4ヶ月ほどかかるので、テーラーメイドであれば4+2ヵ月で半年ほどかかる計算になる。とはいえ、この時間もまた顧客にとっては楽しみな月日ということになるのだろう。

今回、私が試乗したのは、フェラーリ・ジャパンでオーダーした458スパイダーのテーラーメイド仕様である。そのコンセプトは「武士道」で、たとえば剣道着が深い藍色に染められていることからもわかるように、紺はサムライを象徴する色なのだそうだ。サムライブルーもここに語源がある、なんて豆知識も今回初めて知った。そしてフロントフード上の白い2本のストライプは日本刀をイメージしてデザインされたそうだ。

インテリアも、シートは紺をベースとして白いストライプが入り、これを赤のステッチで縫い合わせているほか、センターコンソールにはサムライをイメージしたマスコットが取り付けられている。そのデザインは、いかにも欧米人が日本のイメージをビジュアル化したという感じだったが、これもマラネロのお墨付きとなればありがたみも一層増すというものだ。

Ferrari 458 Spider BUSHIDO|フェラーリ 458 スパイダー 武士道

自分だけのフェラーリをテーラーメイドする (4)

工業製品という枠組みを超えた領域

しかし、いくらテーラーメイドとはいえ、ただ眺めているだけではもったいない。せっかくなので箱根までドライブしてみることにした。

およそ1年ぶりで試乗した458スパイダーは、以前乗ったものよりボディが一段としっかりしており、乗り心地も快適。そしてワインディングロードでは狙いどおりのラインを易々とトレースできるハンドリングを示した。しかし、なんといってもその白眉はエンジンだ。

排気量4.5リッターのV8ユニットは過給器の助けを借りることなく9,000rpm(!)で570psを、そして6,000rpmで540Nmを発揮するが、さすがに排気量が4.5リッターもあるから低速でトルク不足に陥ることもなく、それでいて回転を上げれば上げるほどリニアにパワーが立ち上がる自然吸気エンジンの美点を最大限引き出した仕上がりとなっていた。

そして、そのサウンドを聞くと、やはりフェラーリは唯一無二の存在であるとの認識をあらたにすることになる。たとえば4,000rpmとか5,000rpmくらいの領域でも、ひとつひとつのシリンダーが発する排気音は滑らかな1本の調べとして吸い込まれていき、全体としてまるで弦楽器が奏でる艶やかな音色のようなサウンドを響かせるのだ。

この音を聞いただけでフェラーリの虜になったとしても不思議ではないし、この音を聞きたいがためにフェラーリを走らせるという人の気持ちもよくわかる。その美しさはすでに工業製品という枠組みをはるかに超え、芸術品の領域に入っているような気がする。

そう、フェラーリはもはや芸術品なのであって、ハンドリングがどう、エンジン特性がどうなどと分析して論じることはバカバカしいとさえいえる。いや、そのひとつひとつも素晴らしい水準にあるのだが、ひょっとしたら個別に比較するとライバルに劣る部分があるかもしれない。

けれども、ひとたびフェラーリに乗れば、そんな些末なことはどうでもよくおもえてくる。

なにしろ、この美しくも速い芸術品は、なによりも人の心に強く訴えかけることを目指して、イタリアのアーティストたちが精魂込めて作り上げた“作品”なのだから――

Ferrari 458 Spider BUSHIDO|フェラーリ 458 スパイダー 武士道

自分だけのフェラーリをテーラーメイドする (5)

自分だけのフェラーリをつくる意義と価値

そういった視点で見ていくと、たとえパーソナリゼーション・プログラムとはいえ“フェラーリらしさ”を守ってくれるテーラーメイドは理想的なシステムのようにおもえてくる。言い換えれば、それは芸術家が自分の作品を守るためにおこなう、ささやかな主張というべきものなのだ。その意味において、芸術品の価値を高めることはあっても、決して貶めることにはつながらないと信じる。

最後に価格の話をしようとおもっていたが、テーラーメイドというだけあって選択の余地があまりに広く、それに応じて費用も大きく変わってくるため、ここでご紹介できるような数字は残念ながらいっさい持ち合わせていない。

ただし、最近オーダーがあったあるケースについて“概略”を教えてもらったところ、マラネロのアトリエを訪れて専任デザイナーと1日打ち合わせをおこない、さらにその後の細かい調整まで対応してくれることを考えると、個人的にはむしろ割安なような気がした。

もう少し具体的にいうならば、フェラーリにぜいたくにオプションを装着すれば、すぐに数百万円、場合によっては1,000万円を超えることだろう。その総額に比べれば、テーラーメイドに要する料金はほとんど無視できる範囲のようにおもえた。残念ながら私には間違っても支払えないが、自分だけのフェラーリを作ろうとするファンにとっては微々たる金額といえるのではないか?

ちなみに、フェラーリの究極のパーソナリゼーションはボディのスタイリングからまったく別物を作り上げてしまう“ワンオフ”だが、その直下に“フューオフ”といってオリジナル・デザインのクルマを数台(a few)製作するプログラムもあるそうだ。

そしてこのテーラーメイドはフューオフのすぐ下に位置するプログラムだという。テーラーメイドによって自分だけのフェラーリを作る意義と価値の高さが、このことからもわかっていだけるだろう。

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458 スパイダー
ボディサイズ|全長4,527×全幅1,937×全高1,211mm
ホイールベース|2,650 mm
トレッド 前/後|1,672 / 1,606 mm
重量|1,430 kg
エンジン|4,499cc V型8気筒
最高出力| 570ps/ 9,000 rpm
最大トルク|540Nm/ 6,000 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ
駆動方式|MR
タイヤ 前/後|235/35R20 / 295/35R20
最高速度|320 km/h
0-100km/h加速|3.4 秒未満
0-200km/h加速|10.8 秒未満
0-400m加速|10.9秒 @ 216km/h
燃費|11.8 ℓ/100km
CO2排出量|275 g/km
燃料タンク容量|86 ℓ(リザーバータンク 16 ℓ)

問い合わせ先

フェラーリ・ジャパン コミュニケーション

Tel. 03-6890-6200

           
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