ミドルクラス新型スポーツサルーン、ジャガーXEにスペインで試乗|Jaguar
Jaguar XE|ジャガー XE
ミドルクラス新型スポーツサルーン、ジャガーXEにスペインで試乗
久方ぶりにジャガーから投入されるミドルクラスのニューモデルとして、話題の集まる「XE」。新設計のアルミニウムシャシーに、直4ターボ、V6スーパーチャージドにくわえ、新型ディーゼルエンジンを搭載し、真正面からドイツの3強に挑む。大谷達也氏がいちはやくスペインで試乗した。
Text by OTANI Tatsuya
シャシーもディーゼルエンジンも新設計
しばらく空白になっていたDセグメントに再進出するにあたり、ジャガーはいっさいの妥協をしなかった。全体の75パーセント以上をアルミで作り上げたボディは完全な新設計。サスペンションもこれにあわせて作り直したものだし、ジャガーの伝統に則って縦置きエンジンで後輪を駆動(今後AWDが追加される予定)するドライブトレインにはゼロから自社開発した新世代エンジン「インジウム」直列4気筒2.0リッターディーゼルターボを採用。
さらに現行「XF」に搭載されている直列4気筒2.0リッターガソリンターボやV型6気筒3.0リッターガソリンスーパーチャージドも用意して充実したラインナップを作り上げた。
ギアボックスは最新の8ATと6MTの2種。自動ブレーキを含む最新セーフティデバイスやネット接続にかかわるコネクティビティも抜かりなく採り入れ、メルセデスベンツ、BMW、アウディの強豪3ブランドに真正面から挑むニューモデル「XE」を作り上げたのである。
日本での発表に先立ち、私はスペインでXE R-スポーツ(180psのディーゼルターボを搭載。サスペンションはスポーツ パッシブとスポーツ アダプティブの2タイプ)、XEポートフォリオ(240psのガソリンターボを搭載。サスペンションはコンフォート パッシブ)、XE S(340psのガソリンスーパーチャージ。サスペンションはスポーツ アダプティブ)に試乗。その魅力をたっぷり味わってきたのでここで紹介しよう。
XEの最大の魅力は、ほかのジャガーとまったくおなじように、ハンドリングと乗り心地の卓越したバランスにある。基本的なスタビリティをしっかり確保しているのはもちろん、ミリ単位の操作にも的確に反応する正確なステアリングを備えていながら乗り心地は決して硬すぎることなく、ハーシュネスの吸収は良好なのにフラットな姿勢を崩すことがない。ひとことでいえば100点満点。
おなじクラスではBMW「3シリーズ」がかなり近い傾向にあるものの、ステアリングの中立点からわずかに切り始めたときのレスポンスやそこからの優れたリニアリティ感でいえば、私はXEに分があるようにおもう。
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人の感性に寄り添うチューニング
とりわけ高く評価したいのが、コンフォート パッシブとスポーツ アダプティブというふたつのサスペンションセッティング。逆にスポーツ パッシブはこのふたつに比べると低速域でのゴツゴツ感が強く、快適性の点でやや劣る。それでも、ステアリングの正確さ、そして路面にあおられても姿勢を乱さないフラット感はうっとりするくらい素晴らしいものだった。
こうしたハンドリングと乗り心地のバランスの高さは、不快なバイブレーションの原因となる路面からの入力は大容量のゴムブッシュ、正確なハンドリングを実現するのに必要なタイヤの位置決めにかかわる部分には比較的硬めのゴムブッシュといった具合に、目的や用途によって特性がまったくことなるゴムブッシュを配置できるインテグラルリンク リアサスペンションを採用した効果が大きいとおもう。さらに、フロントサスペンションをぜいたくなダブルウィッシュボーン式とすることで秀逸なシャシーが完成したのである。
もっとも、ここでどんなに言葉を尽くしてその味わいを説明しても、XEの本当の姿を理解していただくのは難しいような気がする。なぜなら、そういった話はハーシュネスとかフラット感とかいう個々の評価項目の集合体に過ぎないからだ。しかし、私が今回の試乗を通じてもっとも感銘を受けたのは、足回りによってジャガーが表現しようとした世界のほうである。
前述した評価項目には様々なものがある。でも、それらはあくまでも血の通わない冷たい数字でしかない。もちろん、工業製品としての完成度を高めていく過程ではそういった客観的評価も必要だろうが、物理的・医学的に正しいものだけを積み上げていって人間の感性にぴったりとあう理想のクルマができあがるとは限らない。私たちが乗って本当に気持ちいいと感じられるクルマは、個々の特性で最適値を追求したうえで、最後は人の感性に頼ったチューニングをすることで生まれるのではないか。
おそらくジャガーは、この頃合いが本当にうまいのだとおもう。だから、乗り心地にギスギスとした硬さがない。ハンドリングには妙な過敏さもなければスタビリティを重視しすぎた結果としての鈍感さもない。あるのは、人の感性に徹底的に寄り添ったハンドリングと乗り心地なのである。
おもうに、これこそイギリス人が伝統的に抱きつづけてきたクルマ作りの理想像なのだろう。
しかし、1970年代の英国病で財政面が蝕まれて以降、他国の自動車メーカーによる買収の歴史を繰り返してきたイギリスの自動車メーカーが安住の地にたどり着くまでには本当に長い歳月を要した。
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ミドルクラス新型スポーツサルーン、ジャガーXEにスペインで試乗 (3)
イギリス人が本当に作りたいクルマ
ところが、ジャガー・ランドローバーはインドのタタ グループ、ベントレーはVWアウディ グループ、そしてロールスロイスはBMWグループという「金は出すけど口は出さない」理想的なパトロン(といったら親会社に怒られるかもしれないが――)に見いだされたおかげで、ようやくイギリス人が本当に作りたいクルマが作れる環境が整ったようにおもえる。
ちなみに、ジャガー・ランドローバーはXEのボディやエンジンを生産する工場をあらたに建設するために数百億円単位の投資をおこなっている。言い換えれば、ジャガーのエンジニアたちの知性や情熱とタタの資本力が組み合わさって、初めてXEは完成したのである。
話はやや横道に逸れたが、注目の新エンジン「インジニウム」はディーゼルとはおもえないほど、キンキンとしたノッキング音が小さいだけでなく、エンジン回転数に比例した澄んだ周波数帯の音を心地よく響かせてくれるので実に心地いい。
しかも回転数の上がり下がりはスムーズだから、ガソリンエンジンに近い感覚でスポーツドライビングを楽しめる。個人的には、もう少しボトムエンドのトルク感があったほうが扱い易いような気もするが、そうするとこのガソリンエンジンに通ずるドラマ性を表現できなくなるので痛し痒しといったところか。
ちなみに、このエンジンは日本にも導入されるというからディーゼルファンには楽しみだ。
おなじ直4 2.0リッターでもこれがガソリンターボとなるとさらに静粛性が高まるしスムーズさも増す。240ps仕様であればトップエンドのパワー感にも不満はない。逆にちょっと優等生過ぎて個性が薄いなんて声が挙がるのではないかと心配になるくらいよくできたエンジンである。
これが340psのV6 3.0リッタースーパーチャージドになるとトップエンドに向けてのドラマ性がさらに高まり、「うわぁ、いいクルマに乗っているなあ」という感動はさらに深まる。
ちなみにこのエンジンを搭載するSと呼ばれるスポーツモデルにはナヴァラ サーキットで試乗する機会にも恵まれたが、乗り心地は硬くないのにサーキットで限界まで追い詰めてもアゴを出さない強靱な足回りに仕上げられていて大いに驚かされた。しかも、スタビリティだけを重視するのではなく、スロットル操作で姿勢を整える楽しみが残されている点に強い共感を覚えた。
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ミドルクラス新型スポーツサルーン、ジャガーXEにスペインで試乗 (4)
モダンであり知的なスタイリング
イアン・カラム氏の手によるクリーンなスタイリングは、モダンでスポーティなセダン像を提案していながら、優雅さや知的さも表現されていて魅力的だ。実は、これまでショー会場で何度かXEを目の当たりにしてきたが、そのときは、あまりエッジが効いてない「ぼんやりとしたデザイン」という感想しか残らなかった。けれども、スペインの眩しい日の光の下で眺めると、そうした印象は一掃され、なかなかシャープで肉感的にさえおもえたのだから面白いものだ。
インテリアデザインも最新のジャガーの文法に則ったものだが、クォリティ感はもうちょっと高くてもいいだろう。もっとも、インテリアの印象はフェイシアの素材やカラーなどによって大きく変わることもあるので、この点は即断を避けたい。それより、キャビンの静けさはこのクラスでも最上級に位置するとおもった。これは優れた遮音性に依るところが大きいようで、その証拠に、クラクションを鳴らしても車内ではその音がほとんど聞こえないのは驚きだった。
今回の試乗会ではスペイン北部のワインディングロードを2日間で500km近くを走ったが、4本のタイヤがいかに路面とコンタクトしているかを細大漏らさず伝えてくるハンドリングは実に心地よく、どんなに走っても飽きることがなかった。
Dセグメント セダンには様々な選択肢があるが、シャシーのもたらす味わいに興味のあるエンスージャストは、ぜひ一度XEを試してみていただきたい。
Jaguar XE 2.0 Diesel R-Sport
ジャガー XE 2.0 ディーゼル R-スポーツ
ボディサイズ|全長 4,672 × 全幅 1,850 × 全高 1,416 mm
ホイールベース|2,835 mm
トレッド 前/後|1,602 / 1,603 mm
重量|(AT)1,565 (MT)1,550 kg
エンジン|1,999 cc 直列4気筒 ディーゼルターボ
ボア×ストローク|83.0 × 92.4 mm
圧縮比|15.5 :1
最高出力| 132 kW(180 ps)/ 4,000 rpm
最大トルク|430 Nm / 1,750-2,500 rpm
トランスミッション|8段AT / 6段MT
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|インテグラルリンク
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ディスク
0-100km/h加速|7.8 秒
最高速度|228 km/h
燃費(EU combined)|4.2 ℓ/100km(およそ23.8 km/ℓ)
CO2排出量|109 g/km
トランク容量|450 ℓ
※ディーゼルエンジンモデルは認証中のためヨーロッパ仕様の諸元。日本での価格は549万円
Jaguar XE 2.5 Portfolio
ジャガー XE 2.5 ポートフォリオ
ボディサイズ|全長 4,680 × 全幅 1,850 × 全高 1,415 mm
ホイールベース|2,835 mm
トレッド 前/後|1,600 / 1,605 mm
重量|1,640 kg
エンジン|1,998 cc 直列4気筒 ターボ ガソリン
ボア×ストローク|87.5 × 83.1 mm
圧縮比|10 ± 0.5 : 1
最高出力| 177 kW(240 ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|340 Nm / 1,750rpm
トランスミッション|8段AT
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|インテグラルリンク
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ベンチレーテッドディスク
燃費(JC08モード)|12.5 km/ℓ
トランク容量|415 ℓ
価格|642万円
Jaguar XE 3.0 S |ジャガー XE 3.0 S
ボディサイズ|全長 4,680 × 全幅 1,850 × 全高 1,415 mm
ホイールベース|2,835 mm
トレッド 前/後|1,600 / 1,585 mm
重量|1,710 kg
エンジン|2,994 cc V型6気筒 スーパーチャージャー
ボア×ストローク|84.5 × 89.0 mm
圧縮比|10 ± 0.5 : 1
最高出力| 250 kW(340 ps)/ 6,500 rpm
最大トルク|450 Nm / 4,500 rpm
トランスミッション|8段AT
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|インテグラルリンク
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ベンチレーテッドディスク
燃費(JC08モード)|10.4 km/ℓ
トランク容量|415 ℓ
価格|769万円
ジャガーコール
0120-050-689 (9:00~18:00、土日祝日を除く)