OPENERS CAR Selection 2014 西川淳 篇
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2015年3月20日

OPENERS CAR Selection 2014 西川淳 篇

OPENERS読者におくる2014年の5台

OPENERS CAR Selection 2014 西川淳 篇

2014年も終わりつぎの1年も見えてきたこの時期だからこそ、あわてずじっくり振り返った「OPENERS Selection 2014」。昨年登場した数おおくのクルマのなかでも、西川淳氏が注目したモデルはこれだ。

Text by NISHIKAWA Jun

ただ乗りたいがために乗る

とにかく子供のころからスーパーカーが大好きで、そのまま自動車ライターになったような人間なものだから、いくら世の中の興味が、燃費性能や次世代パワートレイン、便利なテレマティクス、安心の自動運転、なんかに集まったとしても、そこに自身の活動を特化することなど、まったくもってありえない。実際、エコカー記事執筆による収入は3パーセントにも満たなかった(2014年)。

もちろん、スーパーカーにだって、今ではハイブリッドシステムも活用されているし、燃費向上に重要なエアロダイナミクスやマテリアルミックスといった興味深い最新テクノロジーがいっぱいある。なかにはいつしか実用車の領域へ還元される技術もあるだろうから、今から学び取っておくことは大事なのだけれども、そういうことだって、まぁ二の次。

技術は手段でしかない。大切なのは、乗ってわくわくドキドキしたか、そこにスリルはあったか、乗ったあとでも気分が高揚していた、といった気持ちの方だ。古くさいけれども、それが主題でありつづけている。ずーっと。昔から変わらず。

ここに挙げた5台はみな比較的あたらしいモデルで、今年乗ってみて、心から感動し、真にスーパーだと思ったクルマばかり。なかにはもうずいぶん前にデビューしたモデル(ヴェイロン)もあるけれど、それでも21世紀の、エコ全盛の世の中にあえて生まれでてくれた、ボクにとっては頼もしいヒーローのような存在だ。彼らのおかげで、何はともあれボクは失業せずにすんでいるのだから!

2014年は、スーパーカーにくわえて、クラシックカーにもどっぷりとハマった一年だった。念願叶って、あのイタリア・ミッレミリアにも出場することができたし、日本のクラシックカー イベントにもずいぶん参加した。

世界的な“旧車ブーム”。週末ともなれば日本中でギャザリングやラリーが開催されるようになった。今あえて、古いクルマに乗る理由は何かと問われれば、そこに、“機械を操って走る”という、根源的な楽しさ=欲望の達成、があるからだとこたえる。現代のクルマが移動の手段としての性能を発展させたがゆえに徐々に失ってきた、人の本能をゆさぶる“運転の魅力”を、昔のクルマは、たとえ実用車であっても、持っている。だから、苦労や苦痛や苦難を乗り越えて、ただ乗りたいがために乗る、のだ。

運転したいから運転する、なんて贅沢が許される時代も、この先、そう長くはない。であればいっそう、今のうちに楽しんでやろうと思うのが人情というもの。2015年の今年も、クラシックとスーパーの二本立てでドライブするつもりでいる。

西川淳による2014年の5選

Pagani Huayra|パガーニ・ウアイラ

Pagani Huayra|パガーニ・ウアイラ

走るアート、パガーニ。製造工程からパフォーマンスまで、すべてが芸術だ。レオナルド・ダ・ビンチを崇拝してやまない創始者オラチオ・パガーニの、それは哲学でもある。ウアイラ用V12ツインターボは長年のパートナー、メルセデスAMGからの供給品で、ナカミは専用設計。今となっては“並み”のパワースペックに思われるかも知れないが、“美しい”レーシングカーのようなシャシーと考え抜かれた軽量設計により、走りは思いのほかスパルタンだ。それでいて、街乗りの辛抱にも耐えうる柔軟性をもあわせ持つ。ウアイラを駆っていると、宝石をまき散らしながら走る風の神になったような気分に。

Koenigsegg Agera R|ケーニグセグ アゲーラ R

Koenigsegg Agera R|ケーニグセグ アゲーラ R

走る最先端文明。パガーニとは好対照をみせるハイパーカー、それがケーニグセグだ。創始者クリスチャン・フォン・ケーニグセグは当代屈指のアイデアマン。タイヤ以外、ほぼすべてのパーツを自社開発し、驚くべきことにその多くを社内で製造する! パガーニ社と同様、CFRP技術では世界最高峰だ。「アゲーラ R」に乗ってまず驚くのは、意外にフレキシビリティの高いこと。段差も難なくクリア。硬いがしなやかな乗り心地で安心感も大きい。そして、踏みこめばイッキに凶暴へ。そのくせハンドリングは正確だから、よっぽどシャシー&ボディのデキがいい。夢中でドライブし、無事に戻せて、ホッとした。

McLaren P1|マクラーレン P1

McLaren P1|マクラーレン P1

空力モンスター。世界一のレーシングカー コンストラクターによるハイパーカーの印象をひと言で表現すると、そうなる。とにかく、乗っていて“空気を切る感覚”が、これまで乗ったスーパーカーとはまるでちがう。あえて言うなら、フォーミュラマシンの感覚にちかい。空気が身体のまわりを正確かつ稠密に流れていく。実際にはボディパネルと床下が空気を切っているわけだけれども、それを肌で感じてしまうほどである。つまり、空気を上手く使って、速く走っているわけだ。だから、速度感はあまりない。調子に乗って加速していると、びっくりするような数字になっている。EVでかなり走れるのも凄い。

Bugatti Veyron 16.4 Grand Sport|ブガッティ ヴェイロン 16.4 グランスポール

Bugatti Veyron 16.4 Grand Sport Vitesse|ブガッティ ヴェイロン 16.4 グランスポール ヴィッテス

世界最速の乗用車。走り出せば半端なくタンク(このうえなくラグジュアリィでもあるが)を操るような感覚なのに、ひとたびアクセルを踏み込むと、すべての世界を葬り去るかの如き異次元の加速をみせた。なにせ、体中の血が後頭部や背中や腰に、ざざーっと移動するような感覚に見舞われる。視界も一瞬、ボーッと白くなる。加速の強烈さはヴェイロンがイチバンだ。そして、音。小型の戦闘機に追い立てられるような爆発&金属&吸排気サウンドが、開け放たれた頭上から猛烈な勢いで流れ込み、豪華な室内を満たす。最新モデルの常で、それでも普段はゆっくり転がせる。街では、とびきり豪華なVWに。

Mercedes-Benz G 63 6X6|メルセデス・ベンツ G 63 6×6

Mercedes-Benz G 63 6X6|メルセデス・ベンツ G 63 6×6

目立ったという点で、2014年最高。ありとあらゆる人の興味をかき立て、呼び込む力では、フェラーリやランボルギーニの敵じゃなかった。とにかく、見物人が最も多かったクルマ。乗っていて、最初こそ気恥ずかしかったけれども、だんだんと快感になっていった。某地方都市の繁華街で、どうみても地元の反社会勢力とおぼしき連中から、笑顔で手を振られたときには、勝ち誇った気分にさえなった。こう見えて、ドライブフィールは良好だ。後輪の安定感を利用すれば、ワインディングだってガンガン飛ばせる。前が相対的に軽いから、自由に操っている気分にもなれる。さすがベンツ。遊びも、マジメに極めた。

 

OPENERS Car Selection 2014

           
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