そこは東洋のトリノだった|Auto China 2018
CAR / FEATURES
2018年6月20日

そこは東洋のトリノだった|Auto China 2018


Beijing International Automotive Exhibition 2018|北京モーターショー 2018


コンセプトカー編


そこは東洋のトリノだった


今年の4月25日から10日間にわたり開催された北京モーターショーでは、64台と数多くのコンセプトカーが発表された。近年欧州や北米で開かれるショーではその数が激減している事を鑑みれば、それだけでもエキサイティングなモーターショーであることがうかがえる。特に地元中国のメーカーは、多角的なアプローチで次々とコンセプトカーを発表しているのが特徴的だ。そんな、かつてのトリノ・ショーを彷彿とさせる会場の賑わいを、大矢アキオ氏がレポートする。


Photographs & Text by Akio Lorenzo OYA



ドイツ勢も世界初公開のコンセプトカーを出展




北京モーターショーが2018年4月25日から5月4日まで開催された。


同ショーは今年で15回目。展示面積22万平方メートルと、参加国/地域の数14は2年前の前回と同じである。


いっぽう出展者数は約1,600から約1,200に、出展車両数も1,179台から1,022台へと減少した。



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それでも恐るべきは、コンセプトカーの数である。こちらは前回の46台から64台に増えた。近年その数が激減しているヨーロッパや北米のショーと対照的だ。


ドイツ勢からは2つのプレミアムブランドが、世界初公開となるコンセプトカーを発表した。


BMWは「コンセプトiX3」を出展。BMWグループのコアブランドとしては、初のEVである。


量産型「X3」をベースにしながら、モーター、トランスミッション、そしてパワーエレクトロニクスを一体化させて搭載している。設計と生産におけるフレキシビリティを実現するこの方式を、BMWはほかのモデルにも応用させる考えだ。



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いっぽうメルセデス・ベンツ「ビジョン・メルセデス・マイバッハ・アルティメート・ラグジュアリー」は、究極のSUVの提案である。


モーター4基によるAWDで、最高出力は550kW(750hp)に達する。デザインはエクステリアを中国、インテリアをドイツのスタジオが担当した“独・中合作”だ。


SUVでありながら3ボックススタイルが採用されているのは、依然セダンに根強い支持がある現地市場を意識したものである。




Beijing International Automotive Exhibition 2018|北京モーターショー 2018


コンセプトカー編


そこは東洋のトリノだった (2)



コンセプトカーに注力する中国ブランド


地元中国ブランドは、とくに概念車(コンセプトカー)に積極的だ。


トレンドとしては、Cピラーすべて、もしくは大部分をブラックのパネルで埋めて屋根を浮かして見せるいわゆる“フローティングルーフ”、そしてEV化により消滅したラジエターグリルの代わりに埋め込まれたディスプレイなどである。



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いっぽう、JAC(江淮汽車)は3Dプリンターで制作したコンセプトEVを展示。テクノロジー的アプローチも果敢だ。


既存メーカーによる新サブブランドのイメージリーダー役を担ったコンセプトカーも数々みられた。


たとえば、「オーシャン」は長安汽車の、「ジェットゥアー」は奇瑞汽車の新ブランドである。



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こうしたコンセプトカーのラッシュを眺めていて頭に浮かんだのは、1970-80年代のイタリア・トリノにおけるモーターショーである。


当時ピニンファリーナ、ベルトーネ、そしてミケロッティといったカロッツェリアたちは、アヴァンギャルドなコンセプトカーを次々と放ち、世界の注目を浴びていた。


今年の北京で展開されていたさまは、さながら「東洋のトリノショー」であった。




Beijing International Automotive Exhibition 2018|北京モーターショー 2018


コンセプトカー編


そこは東洋のトリノだった (3)



真に「トリノ」たり得るか


それは筆者の印象ばかりではない。実際に近年トリノのカロッツェリアたちは、さまざまな形で中国ブランドに深く協力している。


筆者が到着翌日、北京市内のホテルで朝食をとろうとすると、そこにはカロッツェリア関係者の姿が何人も見られた。


トリノを代表するカーデザインハウス「ピニンファリーナ」の幹部に会場で話を聞くと、今では業務のうち実に35パーセントが中国のクライアントに関するものであるという。



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また別のカーデザインハウスの社長は、筆者に「もはやトリノにいても仕事はない」とはっきり語った。「中国ビジネスが最優先。(イタリア・コモで5月に行われる)ヴィラ・デステのコンクール・デレガンスをのぞくことができるかは微妙」と苦笑した。


中国のコンセプトカーで残念なのは、トリノショーで発表されるクルマのように、自動車史上その名を残すと思われるものが目下みられないことだ。


しかし彼らは、電動化や自動運転を、国や地方政府の強力なバックアップのもと、その広い国土で世界に先駆け実現しようとしている。いずれも構想段階だが、多くのコンセプトカーは5G通信を視野に入れている。


あと数年で、後世に残るコンセプトカーが、この国から登場しても不思議ではない。そう思わせる中国ショーは、世界で最もエキサイティングなカーエキシビジョンである。