ゴルフ blue-e-motion、来日|Volkswagen
Volkswagen Golf blue-e-motion|フォルクスワーゲン ゴルフ ブルーe-モーション
これがフォルクスワーゲンのEV
ゴルフ blue-e-motion、来日
フォルクスワーゲン グループ ジャパンは、フォルクスワーゲンの「eモビリティー戦略」にかんするプレゼンテーションと電気自動車版のゴルフ、「ゴルフ blue-e-motion」の試乗会を開催した。いまだプロトタイプの段階にとどまる「ゴルフ blue-e-motion」を日本に持ち込むとともに、フォルクスワーゲンAGで現在は電気駆動部門の担当執行役員をつとめる、ルドルフ・クレープス博士も来日するというビッグイベントから、大谷達也氏によるリポート!
Text by OTANI Tatsuya
Photographs by Volkswagen Japan & OPENERS
なぜEV?
「なんで、いまさらゴルフに電気自動車(EV)なの?」
そうおもう気持ちはよくわかる。三菱「iーMiEV」や日産「リーフ」が発売されて1年以上。もはやEVは未来の乗り物でもなんでもなく、普通のクルマとおなじようにディーラーに行ってお金を払えば(たとえすぐ払わなくてもローンを組めば)、明日にでもそのオーナーになれる。それなのに、なんでフォルクスワーゲンがいまさら?
私自身もそんな疑問を抱いていなかったわけではない。けれども、今回の試乗会にあわせて来日したフォルクスワーゲンのルドルフ・クレープス博士のプレゼンテーションを聞いて、少しだけその謎が解けた。
世界中の自動車メーカーが次世代自動車としてEVや燃料電池車を開発していることはご存知のとおり。その最大の理由は地球規模の気候変動を抑制することにある。ちょっと難しい話になるが、地球温暖化問題に取り組む国際的機関のIPCCは、2050年までの気温上昇を2℃以下に抑えるには、自動車のCO2排出量を現在の1/10程度まで削減する必要があると説いている。CO2排出量は燃費とほぼイコールの関係にあるので、CO2を1/10にするには燃費を10倍よくしないといけない。かりに、現在の自動車の平均燃費が12km/ℓだとしたら、それを120km/ℓにしなきゃいけない、という話である。
これは、たとえどんなに技術が進歩しても、普通のガソリン・エンジンやディーゼル・エンジンでは実現できない相談だ。じゃあ、どうするか? 基本的にCO2を発生しないエネルギー源の利用が、おそらく唯一の解決方法だろう。各自動車メーカーがEVや燃料電池車の開発を進めている理由も、ここにある。
Volkswagen Golf blue-e-motion|フォルクスワーゲン ゴルフ ブルーe-モーション
これがフォルクスワーゲンのEV
ゴルフ blue-e-motion、来日(2)
30年先を見越して
「だから、i-MiEVとリーフで十分なんじゃない?」
いやいや、別にi-MiEVやリーフが悪いとはいわないが、残念ながらそれだけでは十分ではない。なぜなら、i-MiEVやリーフがCO2を排出しなくても、それらが使用する電力を生み出すとき、発電所ではCO2を発生しているからだ。つまり、本当にCO2を削減するには、EVだけでなく、風力や太陽光で電気を生み出すクリーン発電が必要なのである。そして、それらが実用レベルに達するのはいまから30年くらい先のこと、つまり2050年が近づいてからのことだろうと予測されているのだ。
じゃあ、それまで何もやらなくていいかといえば、そんなことはない。バッテリーやモーターの技術開発は日進月歩。それをどう組み合わせて1台のクルマとして仕上げるかという課題も一朝一夕では乗り越えられない。2050年の本格普及に向けて、いまから一歩ずつ取り組んでいく。現在の自動車メーカー、さらにいえば電力メーカーや各国政府に求められるのは、そうした長期ビジョンに即した取り組みなのだ。
では、フォルクスワーゲンの場合はどうなのか? 今回、日本に持ち込まれた「ゴルフ blue-e-motion」がはじめて公開されたのは2010年5月のこと。場所はドイツのベルリンだった。その後、おなじ年の10月には日本でもお披露目がおこなわれた。けれども、驚くべきことに、10月に日本で公開されたときには、すでに第2世代になっていたという。
それからさらに1年半を経ているのだから、たとえ外観になんの変化がなくとも、内部にさまざまな新技術が投入されているのは間違いない。その証拠に、今回の試乗車は車重1,545kgで、1年半前に公開されたときより10kg単位で軽量化されている。バッテリーなどは随時、あたらしいものが投入されているというので、おそらくはその成果なのだろう。こうして、つねに最新の技術を取り込んでいくことで、いつでも最高水準のEVを商品化できる力をフォルクスワーゲンは養っているのだ。
Volkswagen Golf blue-e-motion|フォルクスワーゲン ゴルフ ブルーe-モーション
これがフォルクスワーゲンのEV
ゴルフ blue-e-motion、来日(3)
ほとんどゴルフ
ここで、今回の試乗車について少し紹介しておくと、ベースとなったのはヨーロッパで普通に売られている現行ゴルフ。したがってハンドル位置は左側となる。エンジンの代わりに搭載されたモーターの最高出力は85kw(115bhp)、最大トルクは270Nm。180セルを組み合わせたリチウムイオンバッテリーの容量は26.5kwh、電圧は324Vである。車重は前述のとおり1,545kg。リーフのデータをおなじ順番にならべると、80kw、280Nm、24kwh、360V、1520kgとなる。こうして見ると、両者のスペックが驚くほど似ていることに気づくだろう。ただし、航続距離だけはゴルフ blue-e-motionの150kmにたいしてリーフは200kmとしている。もっとも、航続距離は計測方法によってデータが大きく変わるので、これをそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。
内外装の仕上がりは、ゴルフ blue-e-motionと普通のゴルフとでほとんど差がない。
EV化にともなっていままでなかったメーターやスイッチが追加され、ナビゲーション部にはエネルギーの流れをグラフィッカルに表示する「パワーフロー」機能が追加されているものの、そうしたちがいは最小限に留められている。少なくとも、いままでゴルフを運転したことのあるドライバーであれば、戸惑うことはないだろう。
キャビンやラゲッジルームを眺めても、EV化の痕跡はほとんど見当たらない。バッテリーはセンタートンネル、後席下、ラゲッジルームの床下などに分散して搭載されているが、荷室容量が350リットルから275リットルに減っただけで、実質的な差はほとんどない。つまり、普通のゴルフとほとんどおなじように使える、ということだ。
イグニッションスイッチ(正しくはシステムスイッチ?)をひねってシフトレバーでDレンジを選び、スロットルを踏み込んで発進させるという手順も普通のゴルフと変わらない。ちがうのは、エンジン音の代わりに、i-MiEVなどにも採用されている“車両接近通報装置”の人工的な音が「ブロロロロロ……」と軽く響くだけである。ちなみに、ゴルフ blue-e-motionはモーター出力を制御するインバーターの音が低く抑えられており、ほとんど耳に届かない。しかも、前述の車両接近通報装置は40km/hに達すると停止するので、そこから先は、エンジン車では味わうことのできない「無音の世界」となる。
Volkswagen Golf blue-e-motion|フォルクスワーゲン ゴルフ ブルーe-モーション
これがフォルクスワーゲンのEV
ゴルフ blue-e-motion、来日(4)
フォルクスワーゲンのEV、という重み
けれども、ゴルフに乗っている印象からどうしても逃れられないのは、なぜだろう? インテリアのデザインがゴルフそのものだから、というのは、もちろんその理由のひとつだけれども、それだけではない。乗り心地、ステアリングの感触、さらにいえばスロットルを踏み込んだときのパワー感などが、普通のゴルフと極めて近いのだ。そういえば、いかにも剛性感の高いボディに守られているという安心感も、ゴルフそのものである。
この感覚は、偶然から生まれたものではなく、意図してつくられたものである。そんな、思い込みに近い推測に突き動かされてクレープス博士に質問を投げかけてみた。「EVが当たり前になったとき、フォルクスワーゲンの個性と価値はどのように打ち出されるのか?」と。
すると、博士はこう答えたのである。「乗ってみていただければ、これが間違いなくフォルクスワーゲンの製品であるということを実感していただけるはずです。EVになってもフォルクスワーゲンはフォルクスワーゲン。おなじ自動車としての価値を持ちつづけることでしょう」
自動車がモーターとバッテリーで走るようになれば、既存の自動車メーカーの優位性は失われ、家電メーカーでも参入できるようになる。ある専門家はしたり顔でそう語ったが、どうやらそんなことはなさそうだ。動力がなにに変わっても、自動車が自動車でありつづけるかぎり、そこにはメーカーごとの明確な個性と思想が生きつづける。自動車好きのひとりとして、そうなることを願わずにはいられない。
ゴルフ blue-e-motionは、今秋デビューする次世代ゴルフをベースとして2013年に商品化される見通しである。