Porsche 911 Story─5代目996型
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2014年12月12日

Porsche 911 Story─5代目996型

Porsche 911|ポルシェ911

Porsche 911 Story──5代目996型

911新時代

ポルシェ 911の歴史を振り返る『Porsche 911 Story』。第5回は、996型。エンジンは水冷化し、スタイリングにも大きな変更がくわった。物議をかもした911だ。

Text by OGAWA Fumio

水冷方式の採用

1998年に発売された996型。911史上、もっともエポックメーキングなモデルだった。エンジンがこれまでの空冷方式を廃して水冷方式となったこと、そして、張り出したフェンダーを強調するスタイリングから脱却して、流麗なボディスタイルが採用されたことが特筆すべき点だ。

3.4リッターの排気量をもつ水平対向6気筒エンジンは、これをリアに搭載するレイアウトこそ、それまでの35年間ポルシェがこだわりつづけたものだが、996型において水冷となり、4バルブヘッドを与えられた。

水冷方式は、ライバルに伍するハイパワーと、時代の要請に応じる燃費効率を両立させようとした結果だ。軽量の空冷式に固執する時代は、ついに終わりをつげたのだった。

Porsche 911 Story─5代目996型|Porsche 02

スタイリングの変化も、燃費を念頭においた空力的洗練が求められたためだった。ボディ幅は大型化したものの、フェンダーの張り出しを控えめにした結果、空力抵抗値は先代の993型が0.34であったのにたいして、996型は0.30を実現。

ホイールベースは993型より83mm延長され2,355mmに。全長は90mm伸びて4,435mmと大型化。その背景には、空力的理由にくわえ、衝突安全性の強化、そして室内寸法の拡大による快適性の向上など、これもまた時代の要請に対応しようとする理由があった。

ボクスターの登場

現代的な水準にエンジニアリングを引き上げる──996型でポルシェが敢行した数かずの改良は、おおいに称賛すべきものだが、その裏で、ポルシェは販売不振にあえぎ、すわ倒産か? というほど大きな財政危機に陥っていた。

経費削減が求められたポルシェがそのとき採択したのは、モデルバリエ-ションを増やすことだった。下位モデルを開発して裾野をひろげ、同時に911のラインナップを拡充した。なかでも話題になったのは、ミドシップの本格ライトウェイトスポーツ、「ボクスター」の発表だった。996型ではこのボクスターと部品を共用化し、おなじヘッドランプを採用するという「英断」が実行された。


Boxster|ボクスター


Carrera4 cabriolet|カレラ4カブリオレ

ひとつのケースのなかに、メインビーム、ハイビーム、ポジションランプ、ウィンカー、ヘッドランプウォッシャーなどの機能を一括しておさめるこのヘッドランプの採用は、コスト削減が最大の目的だった、と当時、開発責任者は語った。しかし自動車の表情を形成するもっとも重要なヘッドランプが、いまひとつ洗練されていないボクスターとおなじデザインになったのは、911ファンの不興を買った。


内装デザインにも同様のことがおこった。機能的なレイアウトになりスイッチ類が大きくなって操作性が向上したことはよいとしても、合成樹脂の使用が目立つようになったことと、ボクスターとの類似性が強くなったことには否定的な意見が集中した。

おなじポルシェファミリーとはいえ、価格が倍ほどもちがうモデルで印象が近い。それも自動車のアイコン、911においてなのだから、ファンとしては納得しがたい部分があったのは充分理解できることだ。

しかし変えるべき点はあえて大きく変え、デザインやイメージの陳腐化にはあえて眼をつぶる──これはポルシェ経営陣のすぐれた決断だったと、現在では評価できる。審美的な価値の追求を甘くするいっぽう、エンジニアリングに投資することで、スポーツカーとしての地位を守ろうという経営陣の考えが、いまにつづくポルシェの興隆へと結びつくのだから。

Porsche 911|ポルシェ911

Porsche 911 Story──5代目996型

911新時代(2)

レースと一体化した進化

1997年に「カレラ2」が発表されたことからはじまる996型のバリエーションは基本的に993型と同様だ。駆動方式では、後輪駆動モデルと4輪駆動モデル(「カレラ4」は99年に登場)の2本立て、トランスミッションは6段マニュアルと、マニュアルモード付き5段AT「ティプトロニックS」の2本立て。その組み合わせだ。ボディバリエーションとしては、98年にフルオープンの「カブリオレ」、2002年に大きなスライディングルーフをもった「タルガ」が追加されている。

水平対向6気筒エンジンは、当初3.4リッターで300psを発生した。2002年には排気量が3.6リッターに拡大され、最高出力は320psに引き上げられた。このときエンジンのパーツはなんと80パーセントが刷新された。排気量が大きくなって、よりパワーとトルクは増したが、そのいっぽうで燃費は初期のエンジンと同水準を維持した。これには、バルブのリフト量を自動で変える「バリオカムプラス」の採用が寄与している。


turbo|ターボ


targa|タルガ

2000年に420psの最高出力を持つ「ターボ」が登場。993型と同様、フルタイム4WDシステムを搭載していた。PCCBと呼ばれるセラミックブレーキがオプションで用意されたのも、996型の特徴のひとつ。これは、サーキット走行をしても耐フェード性にすぐれるブレーキシステムで、ポルシェの「進化」はつねにレースでのパフォーマンスを考慮しておこなうという、従来の図式は継承されたのだった。

ハイパフォーマンスモデルの充実

先述したように、このころからポルシェはバリエーションを増やすことに熱心になり、とりわけ収益率の高い高性能モデルの開発に心血を注いだ。

2005年に、馬力を450psまで引き上げた「ターボS」が発表されたのも、その戦略にのっとったものだ。また、快適性と高性能を両立すべくターボモデルにATであるティプトロニックSを搭載したのは、ポルシェでは初めてのチャレンジだっため注目を集めた。

1999年には、サーキット走行を前提とした、「GT3」が登場。より軽く、より低く、より硬く、よりスポーティに、を目指して開発されたモデルだ。軽量化により1.4トンを切るボディに、360psの3.6リッターノンターボエンジンを搭載していた。

03年にはホモロゲーションスペシャルと呼ばれる限定生産モデルで、さらに軽くなった車体に、よりパワフルになった380psエンジンを搭載した「GT3RS」も発表された。

また、2001年にはターボをベースに、サーキット走行を目的としたドライバー向けの「GT2」パッケージも登場。カタログモデルではなく、ポルシェの開発センターにオーダーする形式で販売された。

GT2は、ひとことで説明するならば、レースでつちかったポルシェの技術を楽しめる、街乗りできるモデルだ。シャシー、サスペンション、ブレーキといった、サーキット走行を楽しむために重要な部分の性能が大幅に強化され、エンジンにも手が入れられた。

当初は462psだった最高出力は、4年間のモデルライフの終盤には、483psまで引き上げられた。GT2の最高速度は319km/hと発表されていた。

2002年にはカレラ4にワイドボディの「カレラ4S」もくわわっている。2003年には「ターボ」にカブリオレが追加。細かくファンの要求に応えるべくモデルラインナップを拡充するやりかたは、以降、ポルシェの専売特許のようになっていった。

           
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