ポルシェ代表取締役 ヴォルフガング・ハッツ氏 インタビュー─妥協なきニューモデルを語る|Porsche
第42回東京モーターショー2011 来日VIPインタビュー
ポルシェAG 代表取締役 ヴォルフガング・ハッツ氏
妥協なきニューモデルを語る(1)
リアエンジンという独特な基本設計を継承する、ポルシェ伝統の作、「911」がニュージェネレーションへと進化した。そのワールドプレミアは、地元ドイツのIAA=フランクフルトモーターショーにおいておこなわれたが、先日開催された東京モーターショーにおいても、もちろん新型911は、ポルシェブースの主役。このジャパンプレミアには、エンジニアリング部門の中枢ともいえる、ヴァイザッハ研究開発センターの最高責任者であり、またポルシェ社の取締役にもその名を連ねる、ヴォルフガング・ハッツ氏も登壇。日本市場への期待とともに、新型911のアンヴェールに立ち会った。
文=山崎元裕
すべてを一新する気持ちでのぞんだ新型911開発
新型911、あるいはこちらはロサンゼルスモーターショーで発表されていた、パナメーラGTSといったニューフェイスを揃えるポルシェブースには、プレスカンファレンスがはじまるかなり前から、つねに熱い視線が注がれていた。
その熱狂の渦から開放され、ポルシェブースの2階に用意されていたインタビュールームへと姿を現したハッツ氏と、会話を交わすことができる時間はわずか。現在のポルシェはフォルクスワーゲングループのメンバーであり、彼にはポルシェ社の取締役として、さまざまなスケジュールが組まれている。そうそれは、何かひとつが狂えば、すべてが破綻してしまうかのごとき緻密さをもつ、ポルシェ911なる世界最高の工業製品と、まったくおなじ事情でもある。
「ヴァイザッハで、991という社内コードを掲げて、新型911の開発がはじまったのは2006年のことでした。私自身は、まだこのときはアウディのエンジニアリング部門に在職していましたが、プロジェクトがスタートした段階から、ヴァイザッハにはリアエンジンという伝統的な手法を採用しつつ、つまりそもそもの911のコンセプトを継承しつつも、まったくあたらしい911を誕生させるという自由が与えられていました。そう、我われは911のすべてを一新する気持ちで、ニューモデルの開発に挑戦したのです」
1963年に初代モデルが誕生して以来、今回で第7世代となる新型911には、たしかにその言葉に証明されているように、さまざまな新技術が導入されている。たとえばリアに搭載される、こちらも伝統の水平対向6気筒エンジンの排気量は、新型では3.4リッターと3.8リッターがチョイスされている。
注目すべきは世界的なテクニカルトレンドともいえるダウンサイジングによって、あらたに3.4リッターの排気量が設定されることになったエントリーモデル。その直接の目的が燃費性の向上、そしてCO2排出量の低減にあることはまちがいのないところだが、ポルシェは194g/km(PDK仕様車)というCO2排出量を実現するとともに、これまでのエントリーモデルに搭載されていた3.6リッターエンジンを上まわる、350psの最高出力を発揮させることに成功しているのだ。
第42回東京モーターショー2011 来日VIPインタビュー
ポルシェAG 代表取締役 ヴォルフガング・ハッツ氏
妥協なきニューモデルを語る(2)
アルミニウムとスチールを理想的なバランスで組みあわせたボディ
「新型911でのテクニカルなトピックスは豊富ですね。私自身がそのなかでもとくに注目していただきたいと思うのは、軽量化技術へのあらたなアプローチでしょうか。新型911は、ホイールベースを100mm延長すると同時に、全長が56mm大きくなったことに象徴されるように、ボディサイズも拡大されています。ホイールベースの延長は、モータースポーツ部門からのリクエストというわけではなく、我われ自身がこれから先の時代を生きる911に何が必要なのか、を検討した結果でした。伝統的な911のパッケージングを継承しながら、よりグランツーリスモとしての魅力を高め、とくに高速域での安定性を向上させるために、それは最善の選択であったのです。
我われのエンジニアリングにおける最大の特長は、これらの素材を最適に選択し、そして最適な用途に使用しているということです。スチールとアルミニウムとでは、従来のような溶接による製法を用いることができませんから、それに代わるあらたな製法も開発しました。もちろんスチールにはスチールのメリットというものがあります。たとえばアクシデントが発生したときのリペア性などは、スチールのほうが圧倒的に有利であることは否定できません。衝突安全性というものを考えても、スチールという素材は捨てがたい。ウエイトとおなじように、剛性にも分布=バランスという概念が必要です。新型911では、その意味で理想的な素材を使いわけ、軽量で高剛性なボディを生み出したと評価できると思います」
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ポルシェAG 代表取締役 ヴォルフガング・ハッツ氏
妥協なきニューモデルを語る(3)
911が本来的にもつ優秀さの証明
アルミニウム素材を積極的に導入したという意味では、前後のサスペンションも同様だ。先に触れているとおり、新型911のホイールベースは、先代比でプラス100mmとなる2,450mm。さらに標準装着されるタイヤのサイズも、400psの3.8リッターエンジンを搭載するカレラSでは20インチ径が採用されるにいたっている。
「ホイールベースとトレッド、そしてタイヤサイズの拡大。さらに新型911では、4輪それぞれを独立してブレーキングし、それによってコーナリング性能を高める、PTV=ポルシェ・トルク・ベクトリングや、電子制御の可変スタビライザーでロールを抑制するPDCC=ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロールなど、さまざまな電子制御デバイスも採用されています。パワーステアリングの電動化も見逃せないトピックスではありますが、ここでもやはり各々が正確に機能し、そしてそのコンビネーションによって新型911の走りが理想化されているのだという事実に、ぜひとも注目していただきたいと思います。
ホイールベースの延長によって、キャビンスペースが拡大されるということは、我われが強く意識したところではありませんでした。ちなみに100mmという量は、ドライバーから見れば、フロント方向に30mm、リア方向に70mm拡大したものというのが、より細かい解説になるでしょうか。エアロダイナミクスもさらに向上していますが、それは半世紀ほど前に誕生した911のシルエットが、そもそも非常に優秀なものであったことの証明ともいえるでしょう」
新型911のセールスは、すでに日本市場でも開始されている。ラインナップはもちろん、カレラとカレラSの両モデル。各々に7段MTと7段PDKが設定され、基本的なバリエーションは4タイプということになる。
さらにポルシェは、東京モーターショーの直前に、はやくもあらたな追加車種としてカブリオレを発表。プラスチックパネルをソフトトップでサンドイッチした、軽量トップを採用するなど、こちらもそのテクニカル面でのトピックスは数多い。
4年ぶりに東京モーターショーへと帰ってきたポルシェ。そのエンジニアリング部門のトップたるハッツ氏の眼光からは、新世代の911を、一切の妥協なく生み出したことの満足感と、これから続ぞくと誕生するであろう、新型911のニューファミリーにたいする自信と期待というものが強く感じられた。そしてポルシェには、さらにいくつもの新型車のプランが存在する。2年後の東京モーターショーに姿を現すポルシェは、あるいは我われの想像をはるかに超える、独自の存在感を主張するメーカーへと成長を遂げているのだろうか。