あなたのクルマ 見せてください 第1回 田中知之(FPM)× アストンマーティンDB7
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2015年4月15日

あなたのクルマ 見せてください 第1回 田中知之(FPM)× アストンマーティンDB7

第1回 田中知之(FPM)× アストンマーティンDB7(1)

王道感とマイナー感のバランスが魅力

独自の世界観で、街をおもしろく変えていくクリエーター。彼らは、モノをチョイスするとき、何を考え、どういう基準で選んでいるのか? そして、どんな愛着をもって接しているのか? クルマ好きのクリエーターのみなさんに、クルマのあるライフスタイルの魅力を語っていただく新連載。第1回は、FPM田中知之氏。愛車を選んだ理由や気に入っている部分、つぎに狙っている1台を語ってもらった。

文=松尾大写真= JAMANDFIX

最初のクルマはイエローのBMW

昔からクルマは好きで、ガソリンスタンドでアルバイトをしていたくらいだったという田中さん。現在の愛車であるアストンマーティンDB7を手に入れるまで、どのようなクルマ遍歴があったのだろう。

「憧れたクルマはあったけど、お金がなかったから、じつはそんなにいろいろは乗っていません。日本車を何台か乗り継いで、はじめて手に入れた輸入車がE21型BMW318i。初代の318iですね。年式は覚えていないけど、当時流行った黄色いボディカラーでした。7万円で手に入れて、登録書類も全部自分で作成しました。5、6年はそれに乗っていて、目立つ色だから、どこに遊びに行ってもバレましたね。ただ、その後は上京したので、長いあいだ自家用車を所有することはありませんでした」

田中知之(FPM)×アストンマーティンDB7 03

アストングリーンというカラーは深いグリーンにも、グレーにも見える不思議な色。

そんな田中さんがそろそろクルマを買おうと考え、探しはじめたのが2002年のこと。

「東京で生活するには本当はタクシーが一番いいと思っています。自分で運転する必要もなければ、駐車場の心配もない。でも、若いときにしか乗れないクルマに乗りたいと思ったんです。どんなクルマにするか、探しているあいだは楽しかったですよ」。

半年かけて探し出した1台

渋谷区に自宅があるから、なかなか空きがでないだろうと考え、先に駐車場の確保からはじめ、クルマを見つけるまでの半年くらい、空家賃を払っていた。全国からクルマを探し、候補となったのは、ジャガーEタイプ、マセラッティ3200GT、ジャガーXK。1965年式のC2コルベットなども考えた。そのなかから選んだのが、名古屋で見つけたアストンマーティンDB7だった。

「決め手となったのは、王道感とマイナー感のバランス。『007』シリーズで、僕にとっては長いあいだ憧れのメーカーではあったけど、DB7以前のモデルだと、クルマと付き合う根気と努力と経済力が必要でしょ。当時、新生アストンマーティンが日本の街でも少しずつ走り出だしたころで、みんなが乗っているわけでもなかった。飲みに行って女の子と話をしても、『マーチ?』とまちがえられる程度の認知度で、一般の子にはピンとこない。でも、クルマ好きの友だちにはとてもウケが良かった。1997年式で値段も底値かなと思い決断しました。総額で600万円くらいだったけど、ディーラーもののDB7って日本には10数台しかないということもあって、いまでも100万くらいしか値落ちしていないと思います。」

第1回 田中知之(FPM)× アストンマーティンDB7(2)

王道感とマイナー感のバランスが魅力

クルマはアガれるかどうかが重要

2003年に納車され、もうすぐ8年になるDB7。それだけ乗りつづけるほど気に入っている理由とはなんなのだろう。

「たいした故障もないし、機嫌よく、いつも一発始動でエンジンがかかる。それに3200ccのV6エンジンはそんなにパワーはないけど、普通によく走る。正直、そんなに派手じゃないデザインももちろんいい。ヴァンキッシュみたいに筋肉質ではなくて、スマートな印象。外装色のアストングリーンも光によっていろんな色に見えるし、フロントマスクもナマズのように見えるときもあれば、アビシニアンのようなカッコいいネコ科の動物に見えるときもある。さまざまに表情が変わるというのがいいですね」

賞賛の言葉は、ハードウェアからエクステリアの言及を終えると、インテリアへと向けられた。

田中さん曰く「ナマズのような、アビシニアンのようなフロントマスク」。

ステアリングも外装色に合わせたレザーでコーディネイトされる。

コノリーレザーがふんだんに使用されたインテリア。生産から10年以上になるがまだ香りが残る。

ドライブそのものがレジャー感覚

「それから、なによりインテリアがいい。使用されているレザーは、ちょうど倒産する直前のコノリー社のレザーなんです。天井にもなめらかなスエードが張られている。クルマに乗ったときの革の香りがすばらしい。洋服でも靴でも時計でも『手に入れてからもアガれるか?』というのが重要。そういう意味では、このクルマはコノリーレザーの香りのおかげでいまでもアガれます。まあ、外装色のグリーンに合せた革の色については、ハズシがなさすぎて、最初はエエ?とおもいましたけど、それは慣れました。不満なのは太すぎるCピラーくらいです。後ろが本当に見えない」

平日は都内のスタジオに篭り、週末には海外や地方でのDJというパターンが多い田中さんにとって、クルマは本来必要な道具ではないし、趣味人のようにクルマにかまっている暇もない。

「このクルマには無理して、朝に時間を作って乗っています。日常の足にはなっていない。昨日も意味もなく、仕事までの時間を高円寺あたりまでドライブしてきました。ドライブそのものが、レジャー感覚とでも言えばいいかな? クルマのなかでは、自分のMIXした音を聴いて『ゴキゲンになれるか?』というチェックをしますね」

エラそばれるけど、カジュアルなクルマ

そんな田中さんが今後乗ってみたいと思うクルマについて尋ねた。

「新車で気になっているのは、フェラーリ カリフォルニア。でも、形が好きになれない。ハードトップの出し入れができるフェラーリというのはいいんだけど。アストンマーティンも現行モデルは、マッシブすぎだし、かといってデザインのベース部分はDB7から大きく変わっていないから乗り替える気持ちにはならない。だから、結局旧車に目が行く。でも、旧車は時間的な余裕も必要だし、都会の真ん中に住んでいる人間には向かない。ただ、将来的に田舎に住んで、生活のスタイルが変わるようなことがあれば、アルファロメオ ジュリアGTAみたいなクルマがほしいと思っています」

今の自分の生活に合ったクルマがあれば買い替えようかなといつも考えつつ、今回も車検に出してしまったという田中さん。結局のところDB7を手放さない理由を「エラそばれるけど、カジュアルなクルマだというところ。それに、あれ以上高価なクルマだと普段乗るにも気も遣う。いろんな意味で中途半端なんだけど、それはある意味、絶妙のバランスを保っていると言い換えることもできる。僕にとっては、乗ってみてリアリティのあるクルマだということですね」。

田中知之(FPM)×アストンマーティンDB7 21

田中 知之 (FPM)|TANAKA Tomoyuki
1966年京都市生まれ。FPMとは田中知之のソロプロジェクト。DJをはじめ、プロデューサーとして国内外で活躍。世界三大広告賞でそれぞれグランプリを受賞したダンスミュージック時計「UNIQLOCK」「UNIQLO CALENDAR」の楽曲制作も手がけるなど多方面で活躍している。

           
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