フォルクスワーゲンのパワートレーンが向かう先|Volkswagen
Volkswagen Group|フォルクスワーゲン グループ
フォルクスワーゲンのパワートレーンが向かう先
いまや世界的な流れになりつつある、エンジンのダウンサイジング化。排気量を小さくするかわりに過給器で動力性能を補うことで燃料効率を高めるという、この大きな流れの牽引役となったのがフォルクスワーゲン グループだ。そのいっぽうで、以前お伝えしたとおり、Eモビリティ、すなわり電動化にも積極的な姿勢をしめしているのもじつに興味深いところ。彼らは、この先のクルマの動力源についてどう見ているのか。小川フミオ氏が、フォルクスワーゲン グループのパワートレーン開発担当に直接尋ねた。
Text by OGAWA FumioInterview Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko
電気モーター、プラグインハイブリッド、ダウンサイジングエンジン
いまクルマでもっとも重要なのはエンジンかもしれない。厳しさを増す欧州のCO2規制への対応が迫られているからだ。そこにあって、排気量ダウンサイジング化とハイブリッド技術の大々的な導入を断行したフォルクスワーゲンが注目を集める。同グループでパワートレイン開発を統括するドクター・ハインツ=ヤコブ・ノイサー開発担当取締役に、彼らの戦略を聞いた。
―― 欧州のCO2規制がより厳しくなってきています。2020年に走行キロあたり95グラムの排出量が許容最高値で、それを超えると罰金という新基準も定められました。
ノイサー CO2排出量規制は欧州にかぎったことではありません。米国でも似たような数値ですし、中国でも燃費の基準が5ℓ/100km(リッター20km)になるといわれています。
―― それをクリアするための方策は?
ノイサー エンバロメンタル フレンドリー ビークル、つまり環境にやさしいクルマとして、Eモビリティの開発に力を入れていくことになるでしょう。具体的には、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド(PHV)のラインナップ拡充です。
―― Eモビリティの重要性は理解できますが、先進国でも充電インフラがじゅうぶんに整っていないぐらいです。第三世界になると、ガソリンエンジンの需要はまだまだ減らないのではないでしょうか。
ノイサー そうですね。そこでは、ガソリンエンジンの効率を高めていきます。いまの目標は燃費を25パーセント向上させることです。すでにご存知と思いますが、排気量を減らしてダウンサイジング化するとともに、ターボチャージャーを組み合わせる方策は、これからも有効だと考えています。ターボで過給しながら、オイル潤滑系やシリンダーの低フリクション化などファインチューニングを施すことで、4シリンダーとおなじパワーを3シリンダーで得ることができるようにするのです。
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ダウンサイジングが絶対ではない
―― さきに4気筒と同等の3気筒という話が出ましたが、具体的な排気量はどのぐらいですか?
ノイサー 1.6リッター4気筒ノンターボエンジンなら、1リッター3気筒ターボエンジンに置き換えられます。
―― いっぽうで、おなじグループ内にベントレーやランボルギーニといった大排気量のクルマももっていますね。それらのエンジンはどうするつもりでしょうか。
ノイサー 開発をつづけて燃費をよくしていきます。気筒休止システム、フレキシブル バルブトレイン、より高効率化したターボチャージャーといったものも採用していきます。実際、新世代のV6エンジンとV8エンジンの開発が進行中です。
―― しかし気筒数の多さがステイタスと考えるオーナーがいるのも事実でしょう。
ノイサー 例に出されたブランドのオーナーは、V12やW16といった多気筒ユニットを好むし、大排気量がステイタスととらえがちです。そこに4気筒を出しても歓迎されないのは事実です。パリ自動車ショーで発表したランボルギーニ「LPI910-4アステリオン」はプラグインハイブリッドのコンセプトモデルです。このようなあたらしいシステムを採用することは考えられます。
―― 高効率化という点では、加速時のブーストや、減速時のエネルギー回生を電気モーターでおこなう、マイルドハイブリッドもポテンシャルの高い技術といえます。ただしそのためには、現在12ボルト(正確には12.6ボルト)の自動車用バッテリーを48ボルトに上げる対策も必要でしょう。フォルクスワーゲンは2011年に、48ボルト化の移行を表明したはずです。現状はどうなっていますか。
ノイサー たしかに重要な考えです。ただし、すべてのクルマを48ボルトで動かせるとは思っていません。エネルギーの貯蔵システムをはじめ、ステアリングやブレーキなど電気で動くシステムをすべて見直す必要もありますから。それらのコストを反映できるのは、(VWグループのラインナップでいえば)「パサート」から上のモデルになるでしょう。パサートが当落線上というかんじです。
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充電をしない自由もあるとかんがえる
―― 現在のTSI(ターボ/燃料直噴)エンジンに代わる技術も視野に入っていますか。
ノイサー 現在のパワープラントのラインナップは、VWグループのエンジン横置きモデルを例にとるなら、MQB(モジュラー トランスバース マトリックスのドイツ語)プラットフォームに搭載することを前提に設定されています。つまり、たんにエンジンを単体で開発することはなく、中国、メキシコ、南米など世界各国で生産されるMQBプラットフォームの計画と歩調を合わせる必要があります。このプラットフォームの利点は、ガソリンやディーゼルのみならず、プラグインハイブリッドやEVにも対応することです。
―― とはいっても、技術は日進月歩のいきおいで進化しています。
ノイサー もちろん、次世代、さらにその先まで見ながら開発を進める必要性は理解しています。周辺技術も重要なキーファクターです。EVでいえばテスラは、事実上100kWでの充電が可能になっているし、一般的にみて車載バッテリーの性能はこの2年間でより高効率化していきます。
―― 近未来の環境適合車はEVですか。
ノイサー 基本的には、インフラの整備にクルマが影響を大きく受けるのはよくないと考えます。充電をしない自由というのも、またドライバーにはあるはずです。現在のプラグインハイブリッドは、VWグループにとって、次世代パワープラントへとつながる橋渡し的なブリッジテクノロジーです。
―― その先にはなにがあるでしょう。
ノイサー ひとつの考えは、デュアルパワートレインです。ガソリンと電気モーター、水素と電気モーター、天然ガスと電気モーターなど、さまざまな組合せを用意していきます。実際、パサートでも、天然ガスや水素を燃料に使うパワートレインを搭載することは可能です。なにより、できるだけ多くの市場に対応できる技術こそ重要です。それによってコストの引き下げも可能になりますから。
Dr Heinz-Jacob Neusser|ドクター・ハインツ=ヤコブ・ノイサー
1960年生まれ。2013年7月に、フォルクスワーゲン ブランド開発担当取締役に就任。12年10月よりフォルクスワーゲン グループにおけるパワートレイン開発統括責任者を務める。内燃エンジンおよび自動車の技術開発サービスの提供を専門とするFEV Motorentechnikを経て、96年、プロジェクトマネージャーとしてポルシェAG入社。エンジン開発の統括責任者として、V型エンジンファミリーおよび新世代の水平対向エンジンの開発に大きく貢献。01年から11年までポルシェのドライブトレーン開発統括責任者としてあたらしい4輪駆動およびデュアルクラッチギアボックスの開発を推進。11年、フォルクスワーゲン本社にてフォルクスワーゲンブランドのパワートレイン開発統括責任者に就任。ヒストリックカーとWRC (世界ラリー選手権)の熱狂的なファンという。