Jaguar XF|ジャガーXF|山中俊治 vs ジャガーXF(3)神様のクルマのデザイン
Vol.3 山中俊治 vs ジャガーXF
Chapter3 神様のクルマのデザイン
自動車デザイン経験のある山中さんが語る、ひとが美しいと感じるクルマとは? 「ジャガーXF」をめぐる自動車デザイン論、いよいよ大詰め。
──おそらくジャガーにしてみれば、「XF」は新しいチャレンジなのだと思います。そうして伝統的なブランドが変わっていこうとするとき、どういう道筋なら成功にたどり着けるのでしょうか?
実はかなりの確率で、トラディショナルなスタイルを維持するだけでは、ブランドは長生きできないんです。
──それは意外ですね。多くの人はトラディショナルを愛でるんじゃないですか?
伝統を残そうというときに、多くの企業が新しい機能やレイアウトを、古いスタイルで包もうとします。しかし、それではカタチだけのブランドになってしまう。最新の機能じゃなきゃ競争できない、でもブランドの伝統が……という迷いがそうさせてしまうのでしょう。
ではどうすれば古いブランドが生き残れるかといえば、仕組みは伝統的なままで、表面的には思い切って新しくしてしまうことです。
──見た目は旧来のイメージを捨ててしまえ、ということですか? であれば、多くのひとはそれが伝統的なブランドとは思えなくなってしまいますよね。
そこが勘違いされているポイントです。伝統というのは表面的なスタイルではなく、設計思想に宿ります。生活におけるモノの位置づけや、ひととマシンの関わり方についての信念がブランドを確固たるものにするのです。
スタイルは設計思想に忠実なものしか生き残れません。設計思想が変わるときはスタイルもスパッと変えてしまう方がいいんです。
アウディがそうだったでしょう。少なくともエクステリアデザインは一新させた。でも、伝統的なアウディの設計思想は生きているから支持を集めることができた。
──思い返せば、「アウディTT」がその分岐点だったでしょうか。
ジャガーであれば、昔ながらの思想が現代にも通用するポイントが必ずあるはずです。特にタイトな運転席まわりのレイアウトやシルキーなエンジンの感触、繊細な操作性など、技術的な素性がひとに伝わる部分においてすばらしい財産をもっている。そういう設計思想を生かして、まったく新しいスタイリングを乗せてみるといい。
──それは斬新なご意見だと思います。
ひとが美しいと感じるクルマのデザインは、自動車に100年以上の歴史があっても、実はそんなに変わっていないんです。デザインスケッチで重要なのは、タイヤの位置と大きさです。ホイールベースはタイヤの直径のおよそ4倍。機能的なバランスからほぼそうなっていて、1対5でも1対3でもない。
クルマって、そういう根源的なところで決まってゆくものなんです。設計思想で全体のレイアウトが決定され、そのクルマらしい立ち方があらわれます。それを生かしたスタイルを施すことで、クルマの存在感はより明確になるのです。
──この話をジャガーが聞きつけて、もしデザインを依頼されたらどうしますか?
神様のクルマをデザインさせていただけるなら、それはもうよろこんでお引き受けします(笑)。