アストン V8 ヴァンテージ N430を英国で試乗する|Aston Martin
Car
2014年12月29日

アストン V8 ヴァンテージ N430を英国で試乗する|Aston Martin

Aston Martin V8 Vantage N430|アストン マーティン V8 ヴァンテージ N430
スポーツカーと一線を画す存在

V8 ヴァンテージ N430を英国で試乗する

今年3月のジュネーブショーデビューし、先日、日本にも上陸を果たしたアストンマーティンのニューモデル「V8 ヴァンテージ N430」。同社のV8ヴァンテージをベースに、よりレーシーな出で立ちとなった生粋のスポーツカーとは如何なるものか。アストン本社のお膝元、イギリス・ゲイドンを舞台に小川フミオ氏が試乗した。

Text by OGAWA Fumio

よりスポーティなドライビングを志向するユーザーへ

ニュルブルクリングの頭文字をつけたともいわれるN430は、アストンマーティン「V8 ヴァンテージ」の高性能仕様。2014年7月にアストンマーティン・アジアパシフィックが日本発売を開始した、このモデルに英国で試乗した。

アストンマーティン V8 ヴァンテージ N430は、 同社のV8ヴァンテージをベースにチューンをあげた仕様として開発されたもの。2007年に400馬力のN400パッケージとして設定されたのがはじめで、2011年には420馬力に引き上げた「N420」が発表されて、かなりの人気を得てきた。

N430は、さらに出力を436psに高めた4.7リッターV8エンジンをフロントミドシップしている。ベースになったV8 ヴァンテージに対して、高出力と、20kgの軽量化で、よりスポーティなドライビングを志向するユーザーへの訴求を強めている。実際に2014年のニュルブルクリング24時間レースでクラス優勝と、みごとな成績を収めている。

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日本での発表と同時期に僕は英国でN430を試乗していた。

場所は、英国イングランド。アストンマーティンが本社を持つゲイドンという場所の周囲のカントリーロードだ。村と村を道路がつなぐのは欧州大陸と同じで、村内の走行は厳密に時速30マイル(約48km/h)が義務づけられている。

しかしそこを出れば、その倍の60マイルが許される。丘陵地帯独特の、アップ&ダウンおよびカーブの多い道と、少ない交通量とが、一般道とはいえ、スポーツカーの操縦を十分に楽しませてくれるのだった。

Aston Martin V8 Vantage N430|アストン マーティン V8 ヴァンテージ N430
スポーツカーと一線を画す存在

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カラースキームに見えるアストンマーティンのこだわり

夏の光に満ちた英国で接したN430クーペは、アストンマーティンが維持してきた洒落っ気もきちんと身につけていた。僕が乗ったのは、ダークブルーのボディに、フロントグリル、Aピラー、リアビューミラー等が赤で塗装された「ヘリティッジ」という仕様だった。ちょっとしたスタイリング上の遊びだが、これだけ嬉しくなる。

しかもN430シリーズは、くわえて、セイジグリーンにイエローの「レース」や、ブラック基調でまとめた「ステルス」、さらにその名もスカイフォールシルバーに白のアクセントが効いた「スピードウェイ」など、全部で5色の設定がある。ボディラインの美しさにくわえて、レースとの関連性を感じさせる仕様もいいが、いっぽうで、やや控えめだが、あきらかに他人とはちがう選択をしている喜びをオーナーに与える仕様もよい。

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カラースキームに凝るのは、ボディのバランスと作りと、それに面と線との組み合わせで美を表現すべきという、スタイリングの本質論から逸れてしまうかもしれない。しかし僕は嫌いではない。そもそもアストンマーティンは、工場の作業員が着るワークウェアから、レターヘッドにいたるまで、徹底的にデザインの統一性を追求している。

今回のカラースキームの凝りかたも、そんなアストンマーティンもこだわりだと考えればいいようにおもう。少なくとも、心躍るかんじがある。それがほかのスポーツカーメーカーと一線を画す背景にもなっている。

トランスミッションは、6段マニュアルか、7段のセミオートマチックが選べる。僕のクルマはステアリングの後ろに設置されたパドルで変速する、クラッチペダルをもたない「スポーツシフト2」仕様だった。日本ではこちらを選ぶひとが多いかもしれない。そのいっぽうで、マニュアルには、レース場で走るためのローギアード仕様の設定があるなど、アストンマーティンはつねにレースとシティの両方を見ていることがわかる。そこも魅力なのである。

センターダッシュボード上部のスロットに差し込んだキーの頭を押すスターターはアストンの常である。するとはじけるような、エンジン音が響き渡る。ハイトーンとミドルトーンがうまく組み合わされてチューニングされた、よい音だ。

アクセルペダルを踏み込むと、一瞬というかんじで回転計の針がはねあがり、N430は、5,000rpmで490Nmの最大値に達するという太いトルクの恩恵をたっぷり感じさせながら、はじけるように加速する。

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あまりにもスムーズ

「N430はレースのヘリティッジを強く感じさせるスポーツカーです」とは、アストンマーティン本社の広報の言葉だ。細い道、広い道、大きなカーブ、小さなカーブが連続する英国のカントリーロードを走らせると、その言葉が実感としてよくわかる。すべてにダイレクトな感覚が強く、自分とクルマとが一体になったすばらしい楽しさがあるのだ。

道の作り上、加速と減速の繰り返しがあるので、ロングツーリングでの快適性と街中での取り回し以外の、さまざまなキャラクターを味わうことができる。村を抜けて、眼の前に比較的長いストレートが現れたとき、すかさずアクセルペダルを踏み込むと、姿勢変化もなく、たちどころにすさまじい加速を見せる。足回りはやや硬めだが、その見返りがちゃんとあるわけだ。

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エンジンは4,000rpmからいっそうの力強さで加速を感じさせ、レッドゾーンがはじまる7,000rpmまでの間に、N430のもっともすばらしい部分を堪能することができる。スポーツシフト2はあくまでドライバーの意思を尊重する設定なのもとてもよい。2ペダルの安逸性と同時に、痛快なスポーツドライビングを堪能できるようになっているのである。

パドルでギアを選ぶスポーツシフトの反応は速い。高回転まで回して引っ張っていき、シフトアップするときのスムーズなつながりは見事だし、きついカーブに入るときブレーキペダルを強めに踏んでバンパンっとギアを落としていくときも、変速はすばやい。ドライバーの意思のとおりなのだ。あまりにもスムーズなので、ゲーム感覚すらおぼえるほどだ。女性を例に出しては失礼だが、誰でも乗れるスポーツカーである。

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スポーティな印象は、シフトスケジュールなどが変わるスポーツモードをダッシュボードのボタンで選択すると、いっそう強くなる。

アクセルペダルに載せた足の微妙な動きのとおりの瞬時の加減速はみごと。しゃれていて、ファッションピープルにも愛されるし、機能性は高いし、いまの製品でいうと、すぐれたニューバランスのスポーツシューズを連想させる。

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V8 ヴァンテージ N430を英国で試乗する (4)

アストンマーティンに、ミドシップは必要か

アストンマーティンはずっとフロントエンジン/後輪駆動という、伝統的なレイアウトを守っている。VHというアルミニウムを中心に複合素材を接着剤で組み合わせ、軽量化と強度をともに追求するシャシーが知られているが、あたらしいレイアウトのためにシャシーを開発するには多額の資金が必要になる。そんなことも背景にあるかもしれない。

もちろん、アストンマーティンに、ミドシップは必要ではないですか?と訊ねれば、「その必要性は感じていません」という答えが返ってくる。そのためにも、ニュルブルクリング24時間レースや、ル・マン24時間レースにつねに挑戦して、クラス優勝という成績を出し、それを現在のシャシーの優秀性の証明としているのである。

たしかに、N430のように趣味的というか、よりダイレクトな感覚が強く、ピュアなスポーツカーを操縦すると、アストンマーティンの主張は正しいとおもえてくるのだ。

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ステアリングはすなおで、4.7リッターのV8エンジンはサイズ的にけっして小さくないが、曲率の小さなカーブへ入っていくときの動きは、その影響をいっさい感じさせず、じつにスムーズ。かつカーブの途中から出口めがけて加速に移ったときに後輪に大きな力がかかり、ドライバーの背中をどんっと強く押す感覚にいたるまで、安定感のある走りとともに、みごとなできである。

夏の高い空の下、イングランドの道を行くとき、ドライバーの顔には、大きな笑みが浮かんでしまう。いやそれは僕のことだが。そんな幸福な気分にしてくれるのだから、N430はなみいるスポーツカーと一線を画す存在だとおもわれてくる。

その優秀性を証明するためにアストンマーティンはレースを続けているともいえるが、ミドシップとフロントエンジンとどちらがスポーツカーにはいいだろうと頭で考えているより、ドライブを体感すれば、N430がすぐれたスポーツカーであることがすぐわかるはずだ。僕がおもうに、自分が気に入るのが、もっとも重要なことなのだ。

Aston Martin V8 Vantage N430|アストンマーティン V8 ヴァンテージ N430
ボディサイズ|
(クーペ)全長 4,385 × 全幅 2,022(ドアミラー含む) × 全高 1,260 mm
(ロードスター)全長 4,385 × 全幅 2,022(ドアミラー含む) × 全高 1,270 mm
ホイールベース|2,600 mm
重量|(クーペ)1,610 kg  (ロードスター)1,690 kg
エンジン|4,735 cc V型8気筒 DOHC
圧縮比|11.3
最高出力| 321 kW(436 ps)/ 7,300 rpm
最大トルク|490 Nm/ 5,000 rpm
トランスミッション|6段MT / 7段AT(Sportshift II オートメテッドマニュアルトランスミッション)
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後|245/40R19 / 285/35R19
ブレーキ 前/後|φ380mm ベンチレーテッドディスク / φ330mm ベンチレーテッドディスク
0-100km/h加速|4.8 秒
最高速度|305 km/h
燃費(欧州値)|(6MT)8.7 km/L  (Sportshift II)9.3 km/L

           
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