アウディのベイビーモンスター「S1」試乗|Audi
Audi S1 2.0 TFSI quattro|アウディ S1 2.0TFSI クワトロ
Audi S1 Sportback 2.0 TFSI quattro|アウディ S1スポーツバック 2.0TFSI クワトロ
スパイシーなホットハッチ
アウディ S1 & S1スポーツバックに試乗
今年2月、アウディのもっともコンパクトなモデル「A1」とその5ドア版「A1スポーツバック」に、スポーティな「S1」「S1 スポーツバック」が登場した。小さなボディに、最高出力231psというおおきなパワーを発生する4気筒エンジンや四輪駆動のクワトロを採用し、Sの名に恥じないスペックを誇る。国内への導入も見込まれるこのホットハッチに、大谷達 也氏がスウェーデンで試乗した。
Text by OTANI Tatsuya
小さいボディに231psの大パワー
ボディがちっちゃいからといって見くびってもらっちゃあ困る。
なるほど、ベースとなったのはアウディの末弟である「A1」だ。けれども、同社のスポーティラインである“S”の文字を与えられているからには、アウディ自慢のフルタイム4WDシステム“クワトロ”を装備しているのは当然のこと。さらにはスタンダードモデルでは1.4リッターとなるエンジン排気量を2.0リッターまでスープアップすることで、全長4メートル弱のボディに231psのパワーユニットを搭載した、いわば“ベイビーモンスター”が完成した。
けれども、このままではパワーとボディの関係がアンバランスなジャジャ馬になりかねない。そこでアウディは、まずリアサスペンションをスタンダードのトーションビームから4リンク式へとバージョンアップ。極太のトレーリングアームが、タイヤにくわわる前後方向の力をしっかり受け止める形式とした。
しかも、カットモデルを見ればわかるとおり、リアサスペンションと油圧多板クラッチ、リアデフなどをいかにも頑丈そうなサブフレームで囲んでいる。これだったら、231psの大パワーも余裕で受け止めてくれそうだ。
いっぽう、フロントサスペンションの形式はA1とおなじマクファーソン ストラット式ながら、ハブ側のピボット ベアリングの位置を標準仕様より25mm下げることで、ステアリングレスポンスを向上させ、より機敏なハンドリングを実現したという。
Audi S1 2.0 TFSI quattro|アウディ S1 2.0TFSI クワトロ
Audi S1 Sportback 2.0 TFSI quattro|アウディ S1スポーツバック 2.0TFSI クワトロ
スパイシーなホットハッチ
アウディ S1 & S1スポーツバックに試乗 (2)
3ドアと5ドアと
もっとも、いくらサスペンション形式を見直し、スプリングとダンパーの設定を変えた(ただ強化しただけでなく、ダンパーは減衰率を2段階に切り替えられる仕様を標準装備)としても、2WDのBセグメントカーに231psのパワーはいささか荷が重すぎるはず。
けれども、前述したように、S1にはクワトロが採用されている。フルタイム4WDは、滑りやすい路面でじゅうぶんなトラクションを得るのに有利なだけでなく、コーナリング中の駆動力を4輪に配分しているため、各輪からバランスよく横グリップを引き出すのに有利で、結果として2WDより高いコーナリング性能を実現できるというメリットがある。
つまり、S1のようなコンパクトなスポーティモデルにこそ、フルタイム4WD搭載の効果は大きいのだ。
もうひとつ、S1で特徴的なのが、ギアボックスにツインクラッチタイプATのSトロニックが用意されず、6MTのみとなる点だ。じつは、Sトロニックにするとフロント荷重が20kg増え、俊敏なハンドリングに仕立てにくくなるというのがその理由。これもコンパクトボディゆえに採られた判断といえる。
ところで、ここまで私はひと括りにS1と呼んできたが、これには3ドアモデルの「S1 2.0 TFSI クワトロ」と、5ドアモデルの「S1スポーツバック 2.0 TFSI クワトロ」の2タイプが含まれる。ただし、スタンダードなA1とA1スポーツバックの関係がそうであるように、S1とS1スポーツバックの全長は同一。車重もS1スポーツバックのほうが25kg重い(日本仕様のA1とA1スポーツバックの車重差は20kg)だけと、その差は思いのほか小さい。
ちなみに、0-100km/h加速はS1の5.8秒に対してS1スポーツバックでは5.9秒、ヨーロッパ式の燃費(複合モード)ではS1の14.3km/ℓに対してS1スポーツバックは14.1km/ℓと、性能面でもごくわずかな差が残っている。それでも、実際に運転したさいに感じるパフォーマンスの差は皆無といっていい。
ただし、ちがいがまったくないわけではなく、3ドアのほうがよりスポーティな外観に仕上がっているほか、着座位置も3ドアのほうが低めで、個人的にはこちらのほうが落ち着く。もちろん、5ドアの使い勝手も捨てがたいので、どちらにすべきかは悩ましいところといえる。
とはいえ、ここではとくに断らない限り、S1といえばS1とS1スポーツバックの両方を指すことにさせていただく。
Audi S1 2.0 TFSI quattro|アウディ S1 2.0TFSI クワトロ
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スパイシーなホットハッチ
アウディ S1 & S1スポーツバックに試乗 (3)
じつにいいバランスのセッティング
では、このベイビーモンスター、走らせるといったいどんなフィーリングなのか?
今回の試乗会はまだ春浅いスウェーデンのエステルスンドという街を起点におこなわれた。当然、道路のあちこちにまだ雪が残る、滑りやすいコンディションがほとんど。クワトロをためすにはうってつけの舞台といえるだろう。
路上に出てまずかんじるのは、意外なほどのフラット感であった。ホイールベースが2,465mm(ヨーロッパでの公称値は2,469mm)と短いうえに、231psのパワーを受け止めるべく足まわりを固めたとなれば、街中ではヒョコヒョコしたピッチングが起きたとしても不思議ではない。けれども、S1はボディをしっかりとフラットに保ったまま走っていく。
もちろん、乗り心地がソフトであるわけはなく、路面からの衝撃はそれなりのソリッド感を伴って乗員に伝えられるものの、ショックの“角”は取れているので決して不快ではない。ましてスポーティモデル好きだったら、きっと喜んで受け入れてもらえる設定だろう。
ハンドリングはなるほど俊敏だが、過敏でもなければ不安定でもない。まるでクルマ1台をそっくり手のひらに乗せてしまったかと感じるくらい、S1は思いのままに走らせることができる。
さらには、発進やコーナリングではクワトロがしっかりとその役割を果たし、1輪だけが空転したりクルマがとめどなくサイドに流れていってしまうことがない。機敏さと安定性でいえば、ちょっとだけ機敏さが優っているかなというくらいの、じつにいいバランスのセッティングだ。
Audi S1 2.0 TFSI quattro|アウディ S1 2.0TFSI クワトロ
Audi S1 Sportback 2.0 TFSI quattro|アウディ S1スポーツバック 2.0TFSI クワトロ
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アウディ S1 & S1スポーツバックに試乗 (4)
オトナも満足のスポーツハッチ
とはいえ、兄貴分の「S3」にくらべると、スタビリティは一段劣るかもしれない。ただし、S1にはS3を凌ぐすばしっこさがある。したがって、安定性をとるか、俊敏性をとるかで、S1とS3のどちらを選ぶかは変わってくると思う。
いっぽう、231psのパワー感はじゅうぶん以上。とりわけ、2.0リッターという排気量を生かし、低速域からパンチのある加速感をもたらしてくれる点は嬉しい。
6MTの操作感は、もう少し動きを軽くしてくれればいうことなしだが、リンケージ全体にしっかりとした剛性感が与えられているうえ、ゲートがわかりやすいのでシフトミスを犯す心配は無用。スポーツドライビングの楽しみをスポイルする恐れはないだろう。
考えてみれば、S1ほどスパイシーなホットハッチが登場するのは久しぶりのこと。しかも、ただジャジャ馬なだけでなく、質の高いテクノロジーを投入することでじゅうぶんなスタビリティと操る楽しさの両方を手に入れている。その点では、オトナをも満足させるスポーツハッチといえる。
日本発売は今秋以降、価格は400万円を少しオーバーすると予想される。
Audi S1 2.0TFSI quattro|アウディ S1 2.0TFSI クワトロ
ボディサイズ|全長 3,975 × 全幅 1,740 × 全高 1,417 mm
ホイールベース|2,469 mm
トレッド 前/後|1,474 / 1,452 mm
重量|1,390 kg
エンジン|1,984cc 直列4気筒 直噴DOHC インタークーラー付ターボ
最高出力| 170 kW(231ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|370 Nm/ 1,600-3,000 rpm
トランスミッション|6段MT
駆動方式|4WD
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|4リンク
タイヤ 前/後|215/40R17
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ベンチレーテッドディスク
トランク容量|210 リットル
0-100km/h加速|5.8秒
最高速度|250km/h
燃費(NEDC値)|7.0 ℓ/100km(およそ14.3km/ℓ)
CO2排出量|162 g/km
Audi S1 Sportback 2.0TFSI quattro|アウディ S1 スポーツバック 2.0TFSI クワトロ
ボディサイズ|全長 3,975 × 全幅 1,746 × 全高 1,423 mm
ホイールベース|2,469 mm
トレッド 前/後|1,474 / 1,452 mm
重量|1,415 kg
エンジン|1,984cc 直列4気筒 直噴DOHC インタークーラー付ターボ
最高出力| 170 kW(231ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|370 Nm/ 1,600-3,000 rpm
トランスミッション|6段MT
駆動方式|4WD
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|4リンク
タイヤ 前/後|215/40R17
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ベンチレーテッドディスク
トランク容量|210 リットル
0-100km/h加速|5.9秒
最高速度|250km/h
燃費(NEDC値)|7.1 ℓ/100km(およそ14.1km/ℓ)
CO2排出量|166 g/km