オートマチックのジョン・クーパー ワークスでサーキットを走る|MINI
MINI John Cooper Works|ミニ ジョン・クーパー ワークス
ATモデルが追加された
ミニ ジョン・クーパー ワークスをサーキットでイッキ乗り
MINIには、ONE、COOPER、COOPER Sにくわえて、サーキット走行も充分想定して徹底的にチューニングを施したジョン・クーパー ワークスというグレードが存在することは、すでにOPENERS読者には説明するまでもないだろうか。そのジョン・クーパー ワークスにオートマチックモデルが追加され、ぞくぞくと日本に導入されている。今回は、袖ヶ浦フォレストレースウェイを舞台に開かれた、このジョン・クーパーワークス ATモデルの試乗会に参加した大谷達也氏のリポート。また、路上最速のミニ、「ジョン・クーパー ワークス GP」を試す機会も得た。
Text by OTANI Tatsuya
Photographs by ARAKAWA Masayuki
ジョン・クーパー ワークスにATなんて必要なの?
「ミニ・ジョン・クーパー ワークスにあらたに追加された6ATモデルでサーキットを走ってきた」
我ながら、なんとも“座り”の悪い文章だとおもう。だいたい、ミニのジョン・クーパー ワークス(以下、JCWと略す)なんて、よっぽどの好き者じゃなきゃ買わないでしょ? それに、1.6リッターターボエンジンをカリカリにチューンして211psを絞り出すのはいいにしても、値段のスタート地点が390万円というのはいくらなんでも高すぎる。なにしろ、ほとんどおなじ金額でBMWブランドの「120i M Sport」なんて魅力的なモデルが手に入るのだから。
とはいえ、確かにミニはオシャレなコンパクトカーだから、1シリーズというやや手堅い選択肢よりもウケがいいのはわからなくもない。弾けるような速さが自慢の1.6リッターターボエンジン、そして“ネズミ花火”のようにすばしっこいJCWのハンドリングに惹かれてしまうのもなんとなく理解できる。
でも、そこまで“攻め”のチョイスをしておきながら、ギアボックスが6ATはないでしょ? と、これまで自分のために買ったクルマはすべてMTだった私はおもわず突っ込みを入れたくなる。
しかも、ミニのJCWの6ATという“振れ幅”の大きなモデルの試乗会を、なんと袖ヶ浦フォレストレースウェイという立派なサーキットで開こうというのだから、BMWジャパンが何を考えているのかトンとわからなくなってしまった。果たして、これは歴史的なミスキャスティングなのか? それとも、私の頭があまりに硬くて古くさいのか? OPENERS編集部のSが運転する初代ミニ(といってもBMW製のほう)の助手席で、私はこの日の試乗会の狙いを理解しようとして賢明に努力していた。
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むしろATのほうが楽しいかもしれない
結局、疑問は解消されないままサーキットに到着したのだが、実際に6ATのJCWで袖ヶ浦フォレストレースウェイを走りはじめた途端、謎はたちどころにして解けた。というか、それまで悩んでいた自分の不明を恥じた。なぜなら、これがとびきり痛快な体験だったからだ。
まず、心配のタネだった6ATは反応が速く、エンジンパワーが途切れている時間はなきに等しいので、サーキット走行でもネガティブな要因とならないことがわかった。当日は6MTのJCWも比較用に用意されていたが、シフトに気をとらわれずステアリングとスロットルの操作に集中できる分、むしろ6ATモデルのほうが楽しいとおもえたほどである。
JCWとサーキットは相性抜群
それにしても、JCWでサーキットを走るのは掛け値なしに刺激的な体験だ。最高出力211psにたいして6AT JCWの車重は1,250-1,310kg(ボディ形状による)。つまり馬力荷重は5.9-6.2kg/psなのだから、いくらサーキットといってもパワー不足を感じることはない。
しかも、このあり余るパワーが前輪を通じて確実に路面に伝えられる。つまり、トラクション性能が優れているわけで、だからコーナーからの立ち上がりでも確実に加速できるのだ。ひょっとすると、「エンジンパワーが駆動輪から路面に伝わって加速するなんて、当たり前のことじゃん」と、あなたはおもうかもしれない。けれども、この当たり前がサーキットでは意外と難しいのである。
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なぜ小気味いいのか
特に、ハンドリングのレスポンスを上げながらトラクション性能を高めるのは至難の技。でも、ミニJCWは見事にそれをやり遂げている。おかげで、すぱっとハンドルを切ってバビューンと立ち上がるという、実に小気味のいいドライビングが可能なのだ。
もうひとつ、ミニJCWのようなハイパワーFWDカーで難しいのがアンダーステア対策である。前輪は路面に駆動力を伝える役割を果たしているため、タイヤは前後方向の仕事を多くこなさなければならない。この場合、横方向の仕事(つまりコーナリング)をあまりこなせなくなってしまうのが、タイヤの宿命的な特性である。急ブレーキをかけたときにハンドルが効きにくくなるのとおなじ原理だ。
このため加速時はステアリングの効きが低下する、つまりアンダーステア傾向になるのがハイパワーFWDモデルの特性だった。これを多少でもバランスさせようとしてリアのグリップレベルを下げれば、ブレーキングや高速コーナーなどでリアが落ち着かず、不安定な挙動に陥る。したがって、ハイパワーFWDモデルではスタビリティを優先してアンダーステア傾向に躾けるのがこれまでの定石となっていた。
ところが、ミニJCWはキレ味のいいステアリングレスポンスを残しながら、ブレーキングや高速コーナーでも必要十分なスタビリティを確保している。
しかも、フロントに適切な荷重をかけながらステアリングを切り増せば、大きなヨーモーメントが発生してリアのグリップを打ち負かすこともできる。この場合、グリップが失われたリアは前車軸を中心にしてぐるっと大きく回り込む格好となり、Rの小さなコーナーでもコンパクトにまわれるようになる。
しかも、ミニJCWはそうした小気味よさも残しながら基本となるスタビリティも確保しているのだ。この二律背反をクリアしたミニのエンジニアたちには本当に頭が下がる。
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状況は変わった
ところで、今回6ATが追加されたのはミニJCWの全モデル。ということは、ハッチバックもクラブマンもコンバーチブルもクーペもロードスターも、すべて6MTと6ATの両方から選べるようになったわけだ。これまでJCWには6MTしか用意されていなかったのだから、まるで正反対の状況といっても過言ではない。
しかも、試乗会の直前にはクロスオーバーにもJCWを追加するとの発表があった。こちらも6MTと6ATが用意されるのはもちろん、JCW初の4WDモデルとなるほか、最高出力は他のJCWよりわずかに大きい218psとなる。残念ながら今回の試乗会には間に合わなかったものの、早くステアリングを握ってみたい1台である。
モデルごとの性格の差
いっぽう、これだけ多くのボディバリエーションを揃えたJCWだが、ハンドリングには微妙なちがいがあった。よく曲がって、トラクションも良好で、スタビリティが高いという基本線に変わりはないのだが、その範囲内でわずかに味付けを変えているのだ。
まず、“トールボーイ系”に属するハッチバック、クラブマン、コンバーチブルの3台はしっとりした乗り味で、ハンドリングはより落ち着いているように感じられた。
いっぽう、“ローダウン系”のクーペとロードスターはキビキビ感が強調されたハンドリングが特徴。リアを振り出す傾向もより強いように感じられた。
不思議におもってこの点をBMWジャパンに確認したところ、クーペとロードスターの2台はサスペンションの設定が他のモデルに比べて5パーセントほど硬くなっているとのこと。あわせてボディの補強をおこなうことで、乗り心地の悪化を最小限に留めているようだ。
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最速のロードゴーイング ミニ JCW GPも試した
最後に紹介しておきたいのが、全世界で2,000台が生産される「ミニJCW GP」という限定モデルである。前述したJCWがサーキットと一般公道の両方で使えるハイパフォーマンスカーを目指したのにたいし、JCW GPはよりサーキット走行に重点が置かれており、内外装はよりスポーティにお化粧直しされるほか、後席は取り払われ、ここに頑丈そうなストラットタワーバーが装着されていた。なお、エンジン出力は“普通のJCW”を7ps上まわる218psとなる。
このクルマもおなじ袖ヶ浦で試乗したが、サスペンションはさらに締め上げられてボディの無駄な動きを抑制しているのが印象的だった。しかも、ヘアピンの進入でステアリングを切り込んでいったところ、あっという間にリアがアウトに向かってスライドを開始したのには驚いた。
このときは、ステアリングをほぼ180度切るカウンターステアを当てて難を切り抜けたが、「こりゃスタビリティプログラムのDSCが装着されていないのか?」とおもって調べると、なんと一応キャンセルできるようになっていた。つまり、DSCはついていたのである。
DSC(もしくはESP)がありながら、ここまでテールアウトの態勢をとるモデルもめずらしいが、一種のセーフティネットであるDSCを作動させたままオーバーステアを経験できることは、「これから腕を磨きたい」とおもっているドライバーにとっては素晴らしい特色といえる。
ちなみに、このJCW GPほどではなかったが、ほかのJCWも「軽いオーバーステアを許すDSC」のセッティングとなっていたので、こちらも練習用として最適である。
なお、日本で200台だけが発売されるJCW GPのギアボックスは6MTのみで、460万円のプライスタグがつけられている。
MINI John Cooper Works|ミニ ジョン・クーパー ワークス
ボディサイズ|全長3,745×全幅1,685×全高1,430 mm
ホイールベース|2,465 mm
トレッド 前/後|1,455 / 1,460 mm
最小回転半径|5.1メートル
トランク容量|160-860リットル
重量|1,230 kg
エンジン|1,598cc 直列4気筒 DOHC ツインスクロールターボ
最高出力|155kW(211ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|260Nm / 1,750-5,500 rpm (オーバーブースト時280Nm)
トランスミッション|6段オートマチック(ステップトロニック)
駆動方式|FF
タイヤ|205/45R17
0-100km/h加速|6.5 秒
最高速度|236km/h
燃費(JC08モード)|13.0 km/ℓ
価格|403万円
MINI John Cooper Works Roadster|ミニ ジョン・クーパー ワークス ロードスター
ボディサイズ|全長3,745×全幅1,685×全高1,385 mm
ホイールベース|2,465 mm
トレッド 前/後|1,455 / 1,460 mm
最小回転半径|5.1メートル
トランク容量|240リットル
重量|1,260 kg
エンジン|1,598cc 直列4気筒 DOHC ツインスクロールターボ
最高出力|155kW(211ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|260Nm / 1,750-5,500 rpm (オーバーブースト時280Nm)
トランスミッション|6段オートマチック(ステップトロニック)
駆動方式|FF
タイヤ|205/45R17
0-100km/h加速|6.5 秒
最高速度|235 km/h
燃費(JC08モード)|13.0 km/ℓ
価格|464万円
MINI John Cooper Works GP|ミニ ジョン・クーパー ワークス GP
ボディサイズ|全長3,775×全幅1,685×全高1,420 mm
トランク容量|723リットル
重量|1,180 kg
エンジン|1,598cc 直列4気筒 DOHC ツインスクロールターボ
最高出力|160kW(218ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|260Nm / 1,750-5,750 rpm (オーバーブースト時280Nm)
トランスミッション|6段マニュアル
駆動方式|FF
タイヤ|215/40R17
0-100km/h加速|6.3 秒
最高速度|240 km/h
価格|430万円