Twiggy 松浦美穂|Vol.13プロダクト発信、その先にあるもの(後編)
Beauty
2015年5月11日

Twiggy 松浦美穂|Vol.13プロダクト発信、その先にあるもの(後編)

Twiggy|ツイギー

Vol.13 プロダクト発信、その先にあるもの(後編) 1

1990年から主宰するヘアサロン『ツイギー』で、各ファッション誌で、つねにモードの先端を提案しつづける人気ヘアスタイリスト 松浦美穂さん。そんな彼女が数年来抱いてきたプロジェクトが、昨年ついに実現した。それは、自社で展開する“オーガニック系のシャンプー&トリートメント”。日々科学的な飛躍が目覚ましいコスメ業界において、モードの先端を行くひとが、なぜ「オーガニック」に注目しつづけてきたのか……この連載で、その秘密を紐解いていきます。

語り=松浦美穂写真=佐藤孝次まとめ=小林由佳


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松浦さんのサロン『ツィギー』は、今年で20周年を迎えます。当連載のスタートも、この節目に動きはじめたプロダクトがキッカケでした。松浦さん自身が“ヘアスタイル”というひとつのファッションを通じて伝えたかったこと、それは20年間の仕事を通じて昇華しつづけてきた彼女の思いであり、同時に今多くのアーティストがアクションを起こしはじめている、理想の未来を実現させるためのものでもあります。

――前回の最後にうかがった、松浦さんが理想とするコミューンについてのお話は印象的でした。ちょっと70年代のヒッピー世代のアクションにも似ていますね。

確かに、自分たちのハッピーのためにアクションを起こしていくっていうのは、70年代のヒッピーに似ていますね。でも70年代のヒッピーの半分は、初志貫徹することなく80年代のバブルに飲まれてしまった感じがするんです。飲まれてバブルに乗ってしまったというか……。これからはもうバブル到来は期待できないからこそ、あの世代が確立できなかったマインドに似た感覚が、もっと必要になってくると思うんです。もうモノで“豊かさ”は測れない時代ですよね。

食べものに対する危機感はすでにみんなわかってる。今はもう、一人ひとりが目の前のやれることからはじめないといけない段階。それを感じて自分が起こしたアクションがお米や野菜づくりであり、髪の毛のためのプロダクトにつながりました。でも国を動かす政治家のひとたちは……たとえば米農家を直撃している減反政策にしてみても、未来の日本の食糧事情を見据えているとは思えないんですよね。そうすると、やっぱり実際この国に暮らす私たち自身が動き出さないと、考えてもらえないのかなと思うんです。
――お仕事を通じて出会った方々にもたくさんインスピレーションを受けたとか。

“オーガニック博士”みたいなエライひとのお話じゃなくて、たとえば料理人や美容家やデサイナーのような職種のひとたちでも、きちんと自分のライフスタイルをもっていて、自分でプロダクトを進めているひとと話していると、発見は多いですよ。自分がやっていることにストイックか否かではなく、そしてそれが正しいかどうかでもない。自分がなんのためにそれをやっているのかが、明確なひとたちです。

たとえば、代々木上原のレストラン「入(iri)」のフードディレクターをやっていて、『イートリップ』の映画監督の野村友里ゆりさんと話す機会がありました。彼女はマクロビオテックの研究を元にした料理をお店で出しています。でもその反面、ボリュームのある肉料理とかお刺身とかもメニューにある。私はそんな彼女の感性がすごく好きですね。そうそう、うちのシャンプーもそんなことなんだよねってその筋ではとても有名なのに、彼女はもう一度アメリカの本家本元のマクロビオテックのレストランで学んでいるそうです。料理の技術よりも、作っているひとのマインドをもう一度学びたいっていうんです。

キャンドルアーティストのCandle JUNEさんは、キャンドルの作り方をひとに伝授するよりも、もっとやりたいことがあると話してくれました。キャンドルというのは火がともって、そこには「電力」を必要としない。だから自分が携わるこのキャンドルを持って世界中を歩き、9・11のような惨事のあったところや人びとの心の痛みを感じた場所にキャンドルを灯すことで意味をもたせる……ということをおこなっています。


Twiggy|ツイギー

Vol.13 プロダクト発信、その先にあるもの(後編) 2

――ひととの出会いやつながりという実体験は、まさにあたらしい扉ですね。

自分が何年もおなじ仕事をやっていて、ああ、飽きたなって思う……自分自身が今やっていることに飽きたと感じるのは、多分、自分が変化してないからであり、自分が成長してないから飽きちゃったんだなって思うんですよ。だから自分自身が新陳代謝繰り返せば、そのことを飽きずにやっていけると思うの。その、私にとっての新陳代謝が、ひとや物との出会いを通じ、五感以上のものを使うことなんでしょう。

プロダクトを通じて出会った専門家の方がたのお話も、皮膚や髪についての研究を何十年もつづけている研究者だけあって興味深いですよ。その内容はもうほとんどフェチストの世界で(笑)。聞いている内容が全部わかるわけでもない。でもそういうすごいことやってきた方たちがいるのに、その方たちの知恵を学ばずにこのまま私の職業やライフスタイルを終わらせてしまうことはもったいないなと……私が思うぐらいだから、きっと皆さんもそうだろうと感じています。

――オーガニックに関心の高い方がたは、やはりおなじマインドをもっているんですか? 生き方やライフスタイルなど……。

それはまったく別です。バラバラ(笑) それが20年ずっとやってきておもしろいと思うところのひとつです。だから、たとえばお客様で“最近オーガニックに興味があって”という方がいても、そのひとの“学びの速度”を尊重してとやかく言わない。ただ、そのひとが自分の速度を見失わないように、今の段階をうかがうんです。……それは、“あ、今このひとはここまで育ってきたってことは、このヘアスタイルいけちゃうね”っていう勢いにもつながるんですよ。ヘンな話に聞こえるかもしれませんが、ヘアスタイルもプロダクトも野菜づくりも米づくりも、自分が起こしているアクションはすべて自分のなかでつながっていることを実感しているから、ひともきっとそうなんだろうと(笑)。

――ツイギーが20周年という節目で、松浦さんもターニングポイントに?

20代、30代はそれが全部バラバラだったけど、今つなごうとする段階に入ってきたのかもしれません。もっと、もっと、自分たちがやってることが広がればいいなあって。自分だけじゃできないのなら、誰かと手を結べばいい。だから、いろんなクリエイティブな感性をもつひとが共鳴して集まるコミューンが私の一番の理想のかたちなんです。それは70年代のヒッピー村のあり方に似ていて、70年にもきっとあったであろうという理想なんでしょうが、何となく思い描いてる夢なんですよ。もちろん、もっと「学んで」「進化」したかたちですけれど……。

これからのトレンドは自分発信で行こうよ、それぐらい自分を信じようよって言いたいんです。私に一番似合うものを今日着ています、これが私のトレンドです、って堂々と言えちゃうことが、一人ひとりに起こってきたらおもしろいじゃないですか。それって絶対にファッションを……文化を生み出すと思うの。で、アートを生み出すと思うんです。私の場合、野菜やお米を作ることでオーガニックをさらに学び、そしてオーガニックの利点やリスクまでも知ることができた……ということでしょうか。

※松浦美穂さんの連載「ORGANICAL on TWIGGY」は、今回でしばらくお休みします。

           
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