Twiggy(ツイギー)|Vol.12 プロダクト発信、その先にあるもの(前篇)
Twiggy|ツイギー
Vol.12 プロダクト発信、その先にあるもの(前篇) 1
1990年から主宰するヘアサロン『ツイギー』で、各誌ファッション誌で、つねにモードの先端を提案しつづける人気ヘアスタイリスト 松浦美穂さん。そんな彼女が数年来抱いてきたプロジェクトが、昨年ついに実現した。それは、自社で展開する“オーガニック系のシャンプー&トリートメント”。日々科学的な飛躍が目覚ましいコスメ業界において、モードの先端を行くひとが、なぜ「オーガニック」に注目しつづけてきたのか……この連載で、その秘密を紐解いていきます。
語り=松浦美穂
まとめ=小林由佳
初夏に向けみずみずしい植物が茂る、ツイギーの入り口。そのビルの上には屋上菜園が展開され、開花や実りの状況がお店のブログを賑わせています。もちろんこれは趣味やディスプレイではなく、松浦さんが発信したいプロダクトにとって、必要な“実践”。そこでまもなく連載開始から1周年を迎える今回は、松浦さんがオーガニカルなライフスタイルをなぜ選ぶのか、その真意をあらためて紐解かせていただきます。
――ツィギー屋上の菜園で採れた野菜は、スタッフの皆さんで食べているとか。ご自宅でも菜園を作っていらっしゃいますね。
自宅の庭でトマトやハーブなどを育てはじめたのが最初です。ツイギーの屋上菜園は昨年からようやく収穫が楽しめるようになりました。米づくりをしている田んぼ周辺でたくさんの山菜が採れるんですが、これを食べているうちに「あぁ、こういう野菜を東京でも食べたいなぁ」と思ったんです。……『奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録』(石川拓治著/幻冬舎)という本をご存じですか? 絶対にできないといわれていた、リンゴの無農薬栽培を実現した青森のリンゴ園のひとの実録です。農薬散布のような農法を使わずとも、自然の営みを尊重して作物は育てられるという話です。この本を読んだときに、田んぼのまわりに自生する山菜のおいしさにも納得しました。「そうなんだぁ」じゃなくて「そうだよね、やっぱり」っていう感じだったんです。そこで、長年やろうと思っていた屋上菜園でのオーガニック野菜作りにチャレンジしたんです。もちろん、最初は失敗の連続でした。ベリー類を育てるのに雄木と雌木の受粉が必要だったことも、実がならないのを不思議に思って調べてみてわかった……というくらいでしたし(笑)。
我が家の菜園は、“朝ご飯に食べたい野菜を作ろう”というのがテーマです。朝はまず日田天領水(天然活性水素水)を飲んで、30分後に庭で育てた生野菜を食べています。朝いちばん最初にからだに入れるものって、いちばん大事でしょう? オーガニックのものを自分で育て、食べて、からだのベースづくりをすることは、私たちにとってとても大切なことだと思います。からだのなかにいい菌を入れ、酵素を溜める“酵素貯金”が大事なんです。体内に強い酵素ができれば、環境の変化や病原菌にも対抗できる。自分で自分をプロテクトするために最低限必要なことですよね。菌の活きている水を飲み、自分で野菜を育て食べることは、やってみると簡単。あとは何を口にしようが、自由だと思うんです。
――食生活すべてをオーガニックにしなければならないというわけではなく?
それは個人の自由だし、それでストレスが溜まったらからだに悪い(笑)。それに、流行に乗じて「オーガニック好き」と言ってるひとでも、なぜそれを選んで食べているのかハッキリしない場合が多いですよね。「健康にいいから」って、でも健康って何? みたいな(笑)。
オーガニックの何がすてきなのかというと、“菌を食べている”っていうことなんです。私たちは無菌状態になっちゃいけない。だから、ツイギーのシャンプーにもオーガニック成分を入れ、頭皮のなかに入れる菌で、自分たちの自然治癒力を上げていきたいんです。水にこだわる、野菜にこだわるっていうのは、そこだと思うんです。「ケミカルなものを食べたから具合が悪くなった」というのではなく、普段オーガニックのものを食べて体内に“酵素貯金”があれば、農薬を使って育てた野菜を食べても大丈夫(もちろんアレルギーなど個人差はありますが)。逆に、普段農薬を使った無菌状態の野菜ばかり食べているひとは、旅先でもお腹を壊しやすいんですよね。オーガニッなものを食べ、酵素をからだのなかに貯金していれば、私たちはどの国に行っても、日本がどんな状況に陥っても、強いからだでいられるのではないかと思うんです。
抵抗力の低下をフォローするような予防接種も、本来ならば入れずに生きていける体にしたいじゃないですか。そのためにあるのがオーガニックだと思います。つまり、オーガニカルな考え方って、ストイックなスタンスではないんです。健康を維持する、自分が生き抜くためにベースとなる考え方に過ぎません。でも、世間一般的なオーガニックへの印象は逆ですよね。だから、オーガニックで何かをやっているひとたちと話をしていると「オーガニック=エコとか言われると、なんかちがうんだよね」って、みんな言います(笑) そのスタイルを貫きたいのではなく、自分のやりたいことを考えて行き着いたら、オーガニックになっただけ。それは自然で当たり前なことだよね、って。
Twiggy|ツイギー
Vol.12 プロダクト発信、その先にあるもの(前篇) 2
もちろん私は肉や魚も食べています。ただ、私の場合、お肉食べた翌日と野菜だけの食事の翌日とでは、からだの調子がちがう。野菜だけのほうが翌日のからだがスッキリしていて軽いし、マインド的にも軽い。お肉を食べた翌日はなんかドッテリした感じで、歩くのもヨイショみたいになっているんだけど……肌はちょっと潤ってるかな? みたいな(笑)。だから、その両方の菌を上手に摂りながらやっていければいいんだろうなぁとは思います。
お医者さんの著書でも、この2派それぞれにちゃんと主張がありますよね。たとえば、いい水を飲んで生野菜を食べるという“酵素派”は、『病気にならない生き方 ミラクル・エンザイムが寿命を決める』(新谷弘実著/サンマーク出版)。一方、良質な動物性たんぱく質中心の食事を指南するのが『断糖宣言』(荒木 裕著/現代書林)。片や野菜で生きろ、片や肉で生きろという両極端な説がそれぞれ支持されているのはおもしろいですよね。私は両方アリだと思っています。DNAの話から言うと、日本人の多くはまだ前者でしょうけど……。
――「オーガニック」から派生するコミュニケーションがあるのですか?
これをもとに、同じ感覚のひとたちとつながっていき、将来的にコミューンにできれば、そしてきちんとしたメッセージを伝えることができれば、その情熱は次世代にわたせていけると思うんです。それが私の理想のかたちなんです。伝えたいメッセージを、何らかの形で表現したい。そこで、野菜を作ったりからだも丈夫にしたりしながら、いろいろな方からいろいろな考え方を教えていただき、つながっていく。大企業の大きな力に守ってもらいながら何かをするのではなく、小さなコミューンでもゆるぎない力を育てていきたいんです。
自分のプロダクトを作るときの経験やアイデアは、やはり自分がヘアスタイルを作っていないと出てきません。専門的な話をするときだって、自分がそれを身を持って知ってるか否かで結果のレベルも全然ちがうし。勉強しなきゃと思うわけですよ。そして勉強するには実践するしかない。本を読んで“このひとスゴーイ”とか“この商品よさそう”とかで終わったら、やっぱりいいプロダクトはできないと思うんです。自分が「髪の毛は生きてるんですよ」「髪の毛というのは、あなたがいま食べてるそれからできてるんですよ」っていうことを伝えるために何かを作るには、まず自分がそれを実践しなくちゃ説得力もないじゃないですか。それでもね、私のそういう話に「ふぅ~ん…で?」みたいなリアクションが返ってくることも多くて、そのたびに残念に思うんですけど(笑)。