連載・田中 玲|其の十一「朝のはじまり」
其の十一「朝のはじまり」
文=田中 玲
写真=中川昌彦
部屋のなかにぬるい光がほんのりと零れ差して、遠くから人びとの活動の音がちらほら聴こえてくるころ、軽い空腹感とともに朝を感じる。
目覚まし時計の必要のない朝はこうしてはじまることが多い。
夕食を早めに食べることを心がけているので、私にとって朝食は朝一番の楽しみでもあり、一日のはじまりとして大切にしたい一食なのです。
私は無類のパン好きなので、朝は決まってパンを食べます。幼いころから眠る前はつぎの朝のパンを楽しみに寝ていたので、その好みは今も変わりません。旅館でいただくような和風朝食もたまにならよいのですが、毎日のこととなるとやはり食べ慣れたパンが私には合っているようです。
パンと牛乳。これだけで心も身体も満たされるのですが、時間と気持に余裕のあるときは、フルーツ、ヨーグルト、卵料理、サラダなど、色とりどりにテーブルいっぱいに広がるのも楽しいです。飲み物も珈琲、野菜ジュース、グレープフルーツジュースなど数種類、ジャムも数種類テーブルに並べるだけでも華やかです。これほどの量の朝食を食べてしまうと、カロリーもお腹もいっぱいになってしまうので、昼食も兼ねたブランチになります。
朝食になくてはならないのは、なんといっても美味しいパン。なにも有名店のパンでなくても、風味が落ちないようにきちんと保存しておけば、いつでもおいしくパンを食べることができます。「パンは生き物だから」これは私のつね日頃言っている台詞です。バターもおなじく冷蔵庫の匂いが移らないように食べる分ごとに密封して冷凍保存しています。
5月の空の晴れた朝は風も心地よく朝食がより一層おいしく感じられます。
昨今、朝食を食べたほうが健康によいか、食べないほうがよいか、諸説あります。「朝食を食べないと脳が働かない」「現代人は食べ過ぎなので朝食は抜いたほうが身体によい」など、それはそれでなるほどと思ってしまう意見が数々あります。どちらが正しいのかは分かりませんが、ひとによりけりなのではないかと思います。夕食を食べ過ぎたら朝食は無理に摂らなくていいし、朝食を食べないとやる気が起きないならば食べたほうがいいのではないでしょうか。今まで朝食を食べる習慣がなかったひとが無理に朝食を摂ることはないと思います。私も朝食は楽しみごとではありますが、夕食を食べ過ぎてしまったときは朝食を抜いたりしています。
何はともあれ、朝食を楽しみにし、一日のはじまりとして気持の良い朝食を摂れた日は良いことが起きそうな予感もして一日中気分の良い日になります。朝から甘いパンを食べても悪い気はしない。そんな甘やかしすら見逃してくれるすてきな魅力に溢れているブレックファースト。