連載・田中 玲|其の九「春と苦み」
Beauty
2015年5月11日

連載・田中 玲|其の九「春と苦み」

其の九「春と苦み」

文=田中 玲写真=中川昌彦

夕暮れが心なしか遅くなって来たような気がするころ、桜の開花予報、各地の花便りをちらほら耳にするようになり、にわかに心が浮き立ってきます。

青果店を見わたせば、春キャベツ、アスパラガス、菜の花、せり、はこべ、蕗、蕗の薹などの春の野菜がつやつやと緑の葉を広げていて、何処も彼処もクスクスと小さな笑い声が聴こえて来そうな春の到来。

冬の寒さに耐えた春の野菜や野草には、人間の生理代謝に欠かせない成分がバランスよくふくまれていて、冬に溜め込んだ老廃物などを解毒する働きがあるそうです。
春の旬の野菜にビタミンやミネラルが豊富なのはもちろん、独特の苦みやアクは味覚を刺激し、胃腸の働きを活発にします。細胞の新陳代謝を活発にする働きもあり、老廃物を解毒してくれるのも、この苦みのおかげです。
菜の花などのつぼみがついた野菜は、身体の鬱陶しさをなくし、気持ちを明るくさせるそう。
こうした栄養の面からも春野菜が身体に良いものであることは、十分に理解し得ることだけれども、苦みや辛みが風味となって「おいしい」と感じさせるのは、自然がひとの身体に必要とする何かを摂らせるためではないかと深読みしてしまう。

緑の葉を広げる春の葉類、夏は太陽を沢山吸い込んだみずみずしいトマトやナスなどのぶら下がる野菜たち、秋から冬にかけては、土の中に潜る根菜類。あたりまえと思ってしまったらそれまでですが、四季の推移のなせる技ではないでしょうか。

自分が自然によって生かされていることを忘れがちになってしまうけれど、「旬」というのはただ「おいしい」「まずい」だけではなく、ひとの身体に必要な栄養であり、自然から分けてもらったものである、と感じなくては。

それにしても、ほろ苦さをおいしい風味として感じられるようになるにはある程度年齢を重ねなくてはならないような気がします。これも自然なことなのでしょうか? 自然には不思議がいっぱいです。

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野菜はたっぷりの水に浸からせて、しゃきっとしてから調理するように心がけています。

           
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