ORGANICAL on Twiggy Vol.1 ロンドンでの“目覚め”(前編)
Beauty
2015年3月13日

ORGANICAL on Twiggy Vol.1 ロンドンでの“目覚め”(前編)

Twiggy|ツイギー

Vol.1 ロンドンでの“目覚め”(前編)

1990年代から主宰するヘアサロン「ツイギー」で、各ファッション誌にて、つねにモードの先端を提案しつづける人気ヘアスタイリスト・松浦美穂さん。そんな彼女が数年来抱いてきたプロジェクトが、今秋、実現しようとしている。それは、自社で展開する“オーガニック系のシャンプー&トリートメント”。日々科学的な飛躍が目覚ましいコスメ業界において、モードの先端を行くひとが、なぜ「オーガニック」に注目しつづけてきたのか……この連載で、その秘密を紐解いていきます。

語り=松浦美穂写真=佐藤孝次まとめ=小林由佳

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「オーガニック」や「エコ」は今でこそ耳慣れたフレーズ。しかし、松浦さんは時流に関係なく80年代からこれらに関心があったそう。大きなキッカケとなったのは、2年間のロンドン生活。仕事を学びにいったロンドンは、当時も流行発信源のひとつであり、さまざまなアーティストが集まっていた場所。ここで彼女が得た経験とは……。

Q.まずは松浦さんがロンドンに行くまでの背景をお話しいただけますか?

私は、北九州工業地帯で60年代に生まれ育ちました。学生時代学んだ、日本三大工業地帯のひとつ。工場があって商店街が栄え、誰もが足もとを見ずに未来ばかり見ていた時代なんですね。70~80年代、10代後半から20代の私は、お酒もタバコも朝まで踊るのも……いわゆる不健康がカッコイイと思ってましたね(笑)。いかに不健康なまま立っていられるか……肌を真っ黒に焼いてノーブラで歩くのが、健康のためのボディワークではなく、精神的な開放を表現していたパンク精神だったんです。

Q. 憧れる世代に大きく影響を受けたんですね。

それはやっぱり、自分たちの上の世代が、70年代のヒッピー時代だったということが大きく影響していると思います。10歳、20歳年上のひとたちが仕事で活躍しているなかで、やっぱり彼らのすることはおもしろいんです。ないものを作りあげ、あるものを一度壊してきた時代のひとたちだから、精神的に強くて、その影響はすごく受けましたよ。だから、カッコイイ上の世代のようになりたいと思って、自分も健康さとかを壊すことがカッコイイと思っていました。工業地帯で親がなんとか健康的に育ててくれたのに、もうそれすらもカッコ悪いと思うようになって。

Q. そんな時代に、仕事を学ぶためにロンドンに渡航されていますが、ロンドンで、すでにオーガニックブームが?

いえいえ。80年代のロンドンはまだ“in Drug”の世界で、ロンドン自体がケミカル一色でした。NYに比べると、ロンドンは地に足がついた感じがあるんですが、前進あるのみのNYに比べ、ロンドンは当時まだ、古いものを愛するというトラディションがありました。ヴィヴィアン・ウエストウッドやポール・スミスなどには、それがものすごく凝縮されていたと思います。古いものを愛するがゆえに、新しいものを生んでいくっていう“精神パンク”がかたちとして成立した……それが80年代のスタートで、精神論だったパンク心が、ファッションとして成立しはじめたのが、80年代のロンドンです。

ケンジントンには『ハイパーハイパー』という、今でいうセレクトショップがありました。そこは若いデザイナーたちが自分の作品を出す場で、もうそれはそれはメチャクチャおもしろかった。世界中から集まってきているのに、その勢いこそが「ロンドン」というものでした。私はそこにすごい憧れがあって、『ハイパーハイパー』に行かなくちゃなにもはじまらない……というカンジだった。

1989年当時のニールズヤード。コベントガーデンの一角の細い
路地を入って行くとそのなかが 『YARD』になっていてサラダバーや
ベーカリーが 並び、この空間でランチしたりティータイムをとったりと……
ステキな空間でした。

NYのほうは、そのころ、エヴィアン水を持参してスニーカーでオフィスに行き、ハイヒールに履き替える……っていうころで、そういう意味では、当時NYのほうが「ヘルシー」に敏感でしたね。ロンドンは逆にもっとケミカルになりたかったという時期ですよね。健康や自然がカッコ悪いという時期だった。それでも、70年代のインテリなひとたちがサンフランシスコ(当時はニューエイジ発祥の地)に流れつかず、ロンドンに留まっていて、そこで生まれたのが、「ニールズヤード」なんじゃないかな、と私は思っています。

Q. NYとは異なる“ヘルシー志向”が、当時のロンドンにあったんですね。

NYの感覚がエッジイなものだったとしても、「ユナイテッド・キングダム」のイギリス人のプライドゆえ、NYがカッコイイとは言えなかったと思います。だけど、イギリス人がNYに流出しはじめたのがこの時期なんです。ただ、NYがいいのではなく、アートをビジネスに変えていこうと思ったひとたちがNYに進んだだけ。それ以外のひとはロンドンに留まったり、さらにニューエイジ志向が強いひとは、NYではなく、サンフランシスコにむかっていますよね。NYよりもサンフランシスコのほうがヘルシー志向が強かったようです。でも子どもの私には、まだそういうことがわかっていませんでした。

ロンドンでのニールズヤードの出会いは、自分にとっての第一回目の原点回帰だったのですが、そのときはまだ自分では気づいてません。ケミカルなパンク心がカッコイイと思っていたのに、ニーズルヤードみたいなヘルシーなものがステキだなと思ったのは、英語がちゃんと喋れなくても感じる“空気で感じられるインテリジェンス”を体感したからでしょうか。

東京でお酒を飲んで朝まで踊る生活を当然のようにやっていた私にとって、パンクやロックではなく、ジャズカフェやシアターに通うイギリス人やイタリア人、フランス人の友人達が増えてきたことで“朝までディスコ”に嫌悪感を抱き「アレ、なんか私たちって……カッコ悪い?」という気持ちを抱きました。
ニューヨーカーたちのようにロンドンも早朝からオーガニックカフェに寄って仕事に行く人達がスマートに見えましたね。

Twiggy|ツイギー|松浦美穂|まつうらみほ

Twiggy|ツイギー|松浦美穂|まつうらみほ

Nadia。ニールズヤードで出会って(当時サラダBar担当)はや20年の付き合いになった。いちばんはじめに「ハーブ」「自然療法」「東洋医学」について教えてもらった友人です。

それからNYに行き、あるメイクアップアーティストのアシスタントについたときのこと。撮影はかの有名なスティーブン・マイゼルで、スタッフもみんな有名なひとたちばかり。そのひとたちがみんなヘルシー志向だった記憶があります。みんな自分の水を持ってきて、ケータリングはホットミール系。温かいものを出して、食事の時間をきちんと楽しんでいましたね。ロンドンにもどってからも、当時『ITALIAN VOGUE』や『BRITISH VOGUE』で活躍していた大御所カメラマン、ジョニー・ロッサや、シンディー・パロマノなど有名なカメラマンと一緒に仕事をさせていただいたときも、撮影現場のケータリングが立派なんですよ。日本って撮影現場での食事は、当時まだ重要視されてなかったんですが、そこでは歓談のあるランチタイムでした。朝行くとまずお茶を飲みながらミーティングではじまるんです。

Q. ……仕事を通して彼らのマインドに触れたと?

ええ。さらに、ジョニー・ロッサの撮影のときにはみんなほとんどベジタリアンで、そのときは、朝は豆乳しかありませんでした。自分にとってハードルの高い場所に行くと、そこは必ずストイックな場所だった……これは印象的でしたね。それが私にとってのNYやロンドンでした。80年代から流行ったというよりも、70年代ヒッピーでその後ビジネスで成功したひとたちが、80年代にその流れのまま、ヘルシー志向になったんじゃないかと思います。

そこで、“自分は東京で地に足がついてなかったんだなぁ”と実感したんです。最初こそ、「なんでみんな、こんなに味のないもの食べているんだろう」って思っていましたが、憧れのひとたちがニールズヤードに通う姿は、東京で“朝までツバキコース”だった自分には、素敵に見えました。70年代のひとたちって、生き方そのものがオーガニックだったんです。

Q. なにがキッカケに、自身も“オーガニックライフ”に?

私の場合、ロンドンで妊娠したのをキッカケに、オーガニックとの付き合いがはじまりました。自分が愛するひとが増えてきたら、自分が愛するひとたちと、そのひとたちのなかでの自分のポジションというのを大事にしていきたいと考えるようになったです。そのために自分が健康でいよう、自分が自分だけのために生きていないということを知ったときから「アレ、なんで私はこんな食生活をしているんだっけ?」「なんでこんな夜中まで飲んでいるんだっけ?」と疑問を抱くようになって……。

“自分の大事な居場所はどこなの?” って思ったときに、自分の好きなことを仕事にできたことは幸運ですが、それに匹敵するくらいの愛を見つけたら、もっと心身健康にいたいと思うのが当然ですよね。自分が前進したいとき、努力ができるからだでいたいと思うんですよ。からだがダメだったら努力できない。だから自然と「元気でいなくちゃな」と思うようになったんです。

もっとも、当時ロンドンでの生活が厳しくて、経済的な事情で野菜ばかり食べていた時期でもあるんですが(笑)、たまたま、ニールズヤードに勤める友人がいて、お店の商品をよく持ってきてくれました。妊娠したからオーガニックに対してストイックになったのではないし、ストイックになる必要なんてありません。私はたまたま妊娠というキッカケがあって当時ベジタリアンになっただけで、基本的には人間ってそこに“絶対快楽”の要素がなくちゃつづきませんからね。

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