ORGANICAL on Twiggy Vol.2 ロンドンでの“目覚め”(後編)
Beauty
2015年3月13日

ORGANICAL on Twiggy Vol.2 ロンドンでの“目覚め”(後編)

Twiggy|ツイギー

Vol.2 ロンドンでの目覚め(後編)

80年代から主宰するヘアサロン『ツイギー』で、各ファッション誌で、つねにモードの先端を提案しつづける人気ヘアスタイリスト・松浦美穂さん。そんな彼女が数年来抱いてきたプロジェクトが、今秋、実現しようとしている。それは、自社で展開する“オーガニック系のヘアケア商品”。日々科学的な飛躍が目覚ましいコスメ業界において、モードの先端をいくひとが、なぜ「オーガニック」に注目しつづけてきたのか……この連載で、その秘密を紐解いていきます。

語り=松浦美穂まとめ=小林由佳写真=佐藤孝次

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オーガニックに関心を抱いたのは、「80年代、イギリスやアメリカで知り合ったステキなひとたちが“オーガニックライフ”をはじめていたのがキッカケ。野菜中心の生活になったのは、渡航中の経済的事情や、当時の狂牛病や鶏肉のサルモネラ菌問題、そしてさらにニールズヤードに勤める友人がお店の商品をよくもってきてくれたからーー」。前編で「からだにいい食生活をつづけるのに必要なのは、食べ物を厳選するストイックさではなく快楽」だと語って下さった松浦さんが、その意味を教えてくれました。

Q.イギリス滞在中の妊娠をキッカケにベジタリアンになったそうですが、野菜だけの食生活って、最初はどんなカンジだったんですか?

ベジタリアンになった当初は、「からだにいいものを食べている」という知識的な快楽は得られても、満足感を得るような「精神的な快楽」はまだ感じませんでしたね。だって、おいしいと思えなかった。当時ニールズヤードに通うひとたちがこぞって飲んでいた豆乳なんて、「なんでこんなマズいもの飲むの?」って内心思っていましたよ(笑)。ただ、妊娠というはじめての環境に入ったというタイミングだったから、新しい食生活に変えやすかったのは確かですが……。

会場ではオリジナル限定Tシャツやアート作品を販売
1989年9月、イギリスで長男(楽)を出産。産後はじめての散歩。

Q.「精神的な快楽」を、どうやって手に入れたんですか?

なんとなく……ですね。頭のなかで理解していることを楽しめるように、おいしく食べる手段を見つける、ということです。たとえば、喉の痛みや咳き込むときにエキネシアというハーブティーが効くと知って飲んでみたのですが、「まずい!」と思ったときに、「蜂蜜があるとおいしそう」と気づく。そこで、さらに喉の痛みに良く効くマヌカの蜂蜜を入れて飲んだんです。これは相乗効果もありとてもおいしかった!!

知識と知恵は積み重ねで、知識が増えないと知恵がのびないし、でも知恵が増えたことに満足して勉強しなければ知識はそれ以上入らず、その知恵もただ古くなるだけです。“あ、そうか”と知恵がひらめき、自分の行動に納得できたときの「精神的な快楽」が楽しかったんです。私がオーガニカルな生活に移行していった時期は、年齢的にも知識を重ねていく、そのタイミングだったともいえます。

Q. 帰国されたころの日本は、まだ健康志向ブームはありませんでした。

ええ。2年のロンドン滞在を終え帰国した日本には、まだ「ヘルシー」という感覚に対する認知が浅かったですね。仕方なく、私は数少ないオーガニックスーパーで食材を集め、子どもの離乳食づくりをふくめ、できるだけ食材を選んで家で食事をするように心がけていました。当時の日本はまだ、「ベジタリアン」と表現するくらいで精いっぱいでしたね。オーガニック認知などはなくて。だから外食のときは、なんでも食べてました。

Q. それでも、やがて完全なベジタリアンになれるんですか?

いいえ、完全ではありません。でも、自分なりに、自分のペースでオーガニカルな生活を続けていたら、ある日、あのマズかった豆乳も「おいしい」って思うようになりました。いまでは豆乳がゴクゴク飲めるのに、逆に牛乳は飲めない(笑)。やっぱり、「ガマン」しちゃだめなんです。オーガニカルな食生活を本当においしいって思える瞬間を自分で見つけないと、いつまでも「エンジョイ」できない。やっぱり、人生って快楽なくしては楽しいと思えないじゃないですか。そして“じゃあその快楽はどこから来るのか”って考えたら、もう自分の考え方でしかない。思い込みや執着を捨てることって大事ですね(笑)。

Q. やはり、ターニングポイントになるようなキッカケは大切ですか?

いいえ、ちがいます。自分の快楽の角度を無理に変えるのではなくて、その方向に本能的に動けるための環境を、自分のペースを守ってつくっていくんです。自分が面倒臭くないスタンスを、上手に自分でつくっていくしかないんですよね。私も無理や努力してベジタリアンになったのではなく、自分のスピードで、このライフスタイルを噛み砕き、ゆっくり咀嚼して受け入れたのかな、と思います。“これがキッカケに”っていう明確な発見からスタートするのではなく、不思議なくらいからだが覚えていき、自然とそうなっていくんです。

会場ではオリジナル限定Tシャツやアート作品を販売
Pietro(ピエトロ)。ニールズヤードの「ピーナツ バター」担当の当時のスタッフ。毎朝 イチゴを食べている彼。「ほら、ボクの汗はストロベリーの香りでしょ?」と……。

Q. 日本ではオーガニックやベジタリアンが“ブーム”でもあります。

流行感覚でやってると、やがて窮屈に感じて面倒くさくなってしまいます。流行りだからって、毎日オーガニックレストランに行き、オーガニックコットンで生活してハーブティを飲んで寝て……ってソレ、あなたは本当に楽しく感じている? あなたの快楽になってる? って、聞きたくなりますよ(笑)。だれでも、ときには思いきりケミカルな服も着たいだろうし、思いきりハメもはずしたいでしょう。ただ、ハメをはずした翌日に、自分をもとにもどせるスタンスをキープしておくことは大事だと思うんです。流行として自分の生活にとり入れ、ハシャいでいるあいだはそのかたちにはまっている自分に満足できますが、流行が過ぎればそこで“満足していた自分”も終わってしまいますよね。「つづける」ことが、いちばん大切ですよね!!……そう、私が自社製品でオーガニック商品をつくりたいと思ったのも、流行だからではなく、そもそも自分の快楽を得るためなんです。

Q. ヘアスタイリストとしての快楽、ですか?

そう。単に「髪の毛を自分の思うとおりに切りたい」からです。質の悪いヘアケア剤や、食生活の乱れや、ストレスの多いひとの髪を切っていると、「このクセやめてー」と内心で悲鳴を上げたくなったり、「ココが固いのにココが柔らかい」と感じることが多々あります。「こうカットしたい」という切る側の気持ちと、「こうカットされたい」という毛質の関係がうまくいかなくなるんです。その結果、それが切る側のフラストレーションになり、一方でお客様も満足できず、お店を代えたりするフラストレーションにもつながります。“美容室ジプシー”って、こういうフラストレーションが原因になることが多いと思います。だからこそ、自分の仕事に対しては最後までプロでありたいという願いから、歯医者さんが歯ぐきを大事にしようとするのとおなじように、私たちは髪を最後まで大事にしようというメッセージをさまざまなかたちで伝えていきたいんです。

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