連載・田中 玲|其の十二 「手」
其の十二 「手」
夏の夜風の香りは色々な記憶が、浮かんでは消え、消えてはまた浮かんでゆく。特別な時間です。雨
の夜などは格別に。
そのなかのひとつ、幼い頃のぼんやりとした記憶のなかで、父が私の頭を撫でてくれている、「いいこ い
いこ」。
その手はとても温かで、少しの重みももっている特別な手でした。
写真・文=田中 玲
「いいこ いいこ」だったり、マッサージだったり、手を繋いだり、手に包まれると安堵を覚えるのは、手からなにか特別なものが出ているからなのだろうか? ナノメートル単位の凹凸を手で判断できる「神の手」と呼ばれる職人さんがいるという話もあることですし、手には眼に見えない位の細かいヤスリが付いているのではないかと思うくらい、肌を撫でると肌には光が差し、その圧倒的な安堵に陶酔せずにはいられない。
私は毎日肌の調子を確かめるために手で顔を撫でる。手のひらと指はどんな些細な凹凸も逃さない。毎日触れているとその日の調子の善し悪しが指を伝う感触で気がつくのです。そうして、その時々に合うスキンケアを選ぶ。毎日同じスキンケアではなく、敏感な肌調子、火照った肌調子などの「トラブル肌用」にと、肌の調子の良いときの「攻める用」と複数用意しておくと、より健康的な肌になり、トラブル回避もすぐできます。
スキンケアの行程のひとつひとつの最後には手で顔を包み込み、美容成分がゆっくり浸透して行くのを待ち望む。
科学的根拠が有るのか無いのか分からないけれども、手を顔で包むと手の体温で美容成分が肌の奥までしみ込んで行く気がします。メイクの仕上げとしても手全体を使って顔を覆う。そうすると顔の粉っぽさも消え、メイクが肌に馴染みます。そしてほのかな温かさのなかにある心地良さが安堵となって気持ちも落ち着きます。
毎日がんばっている肌に、自分の肌を手で包み込んで、幼いとき感じた父の手を思い出しながら、「いいこ いいこ」してあげよう。