J&M DAVIDSON|“永遠のベーシック”と称されるバッグたち
J&M Davidson|J&M デヴィッドソン
“永遠のベーシック”をつくりつづけるブランドが迎えた25周年
ブランド設立25周年を迎えた「J&M Davidson(J&M デヴィッドソン)」。ジョンとモニクのふたりが手掛けるこのアクセサリーブランドは、彼ら夫婦が(そして、いまでは彼らの娘もくわわって)守りつづけてきたファミリービジネスである。たった1本のベルトからはじまったこのブランドは、いまやその“顔”であるバッグやレザーグッズ、クロージングにまで取り扱うアイテムの幅を広げ、誰もが知るラグジュアリーなブランドとなった。
Text by OPENERSPhoto by Jamandfix
ブランドのはじまりは“ドッグカラー”
モニク あるとき革製のドッグカラーとリードを見つけたんですが、そこに使われていた革がとても美しかった。「これをウエストに巻いてみたらどうかしら? 私たち“ひと”にも似合うんじゃないかしら?」と思って、すぐにそのドッグカラーをつくっている工場を訪ね、ベルトをつくってもらうことにしたんです。
ジョン ただ、犬用のままでは革がとても厚くて固かったので、もっと薄く伸ばしてもらう必要はありましたが。
モニク あれだけのものをつくるのは、いまではかなり難しくなってしまいましたね。
ジョン ベルトなどファッションアクセサリーというのは、そのひとのスタイルに仕上げの“なにか”をくわえるもの。だからこそアクセサリーブランドを手がけてみたい、と思っていたのです。
モニク 最初から現在のようにさまざまなアイテムを扱うブランドを目指していたわけではないけれど、こうなったのはやりたいことを積み重ねてきた結果。あれもやってみたい、これもやってみたい、と実行していくうちにいまのようなかたちになったんです。自然な成り行きだったんでしょうね。
ジョン そうなんですよ。私たちはいわゆる“マーケティング・ブランド”ではありません。なにが「J&M DAVIDSON(J&M デヴィッドソン)」らしくて、なにがそうでないかは本能的にちゃんとわかっていました。いずれにせよ、私たちのしたかったことを理解してくれたひとたちが存在した、というのはラッキーでした。
英国的“サドリー”が滲むものづくり
ジョン 私たちの作品には英国的なクラフツマンシップがある、とよく言われます。私自身は“サドリー(saddlery)──馬具製造業”と呼んでいますが。
モニク 私たちはディテールに徹底してこだわります。革の厚みやステッチのかけ方もそう。やわらかな表情が出るまで薄く伸ばしますし、細かく精緻な針の運びでステッチをかけるのです。そういったディテールこそが自分たちのシグネチャーであり、サドリーの精神は忘れていません。
ジョン ただ、この呼び方にはどうも無骨な印象がある。そこでモニクがソフトでフェミニンな要素を付けくわえてくれているんです。
モニク 私たちは単なる英国ブランドではありません。英国とフランスのフュージョン・ブランドなんです。
フレンチシックのエッセンスが薫り立つ
ジョン 過去において、女性のスタイルはオートクチュールの影響なのかフランス発信でした。それに対して、男性のスタイルはルーツの多くを英国に見出すことができます。モニクが体現しているフェミニンさというのは“フレンチシック”と言い換えられますが、それ自体もフェミニンさのなかにマスキュリンなものがミックスされた感覚だと思うんです。
モニク フレンチシックというのは、なにかしらピュアなもの。シンプルであっても素敵に見えるということ。そのためにたくさんのものを持つ必要はないんです。
ジョン シンプルな服にベルトやハット、スカーフをくわえることで、そのスタイルがなにか特別なものになるということもありますよね。
モニク フレンチシックは“ファッション”ではないのかもしれません。ファッションはいま方向性を見失っている。あるいはなんでもファッションになってしまう、と言えるかもしれません。でもそれはいいことかもしれないですね。なぜって、より個性を主張できるということでしょう?
“ふたり”であることがクリエーションの原点
モニク 私たちはすべての作業を共同でおこなっています。デザインはもちろんビジネスのあらゆる側面もふくめて。女性だからこれ、男性だからこれ、という分け方はしていないんです。
ジョン おたがいにアイディアを出し、議論を交わす。そうやってやり取りしていくうちにかたちになっていく。男性視点と女性視点とがあることは私たちの強みかもしれません。
モニク そうね。あなたは実際的だけど、私はそうじゃない、っていうちがいがあるものね(笑)。私たちはそもそもの最初からすべてをふたりで手掛けてきました。たとえば、片方はデザイナーで片方が経営者、そんなふたりがあるとき出会って……、というような馴れそめではなかったんです。
ジョン たしかに意見が衝突することもあります。でも妥協点はかならず見つかるものです。結婚というものもそうではありませんか?
モニク それに、私たちにはアーティスティックなバックグラウンドをもっているという共通点があります。このブランドをはじめる前にはジョンはフォトグラファー、私はバレエダンサーだったんですから。
ソリッドの真鍮をベルトやバッグの金具に用いるなど、いまでは当たり前のように思われていることも、「J&M デヴィッドソン」がこの業界で最初に取り組んだ試みである。
「この25年間をとても誇りに思っています。私たちもともに成長することができました。つねにより良いスタイルを追求、おなじヴィジョンを共有し、まさに“ファミリービジネス”としてすべてのデザインを自社内で手掛けています。ほかの偉大なアクセサリーブランドたちがそうであったように、私たちはじっくりと時間をかけてこのブランドを育て、ファッションの分野で現在の地位を築くことができたのです」
ジョンの英国伝統のクラフツマンシップに、モニクのフランスらしいエスプリがくわわって生み出される「J&M デヴィッドソン」の作品たち。それらは“永遠のベーシック”として、ひととおなじではないラグジュアリーを求める人びとに支持されつづける。