島田 明|Life is Edit. #21 ボヘミアン・イン・ニューヨーク
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2015年4月27日

島田 明|Life is Edit. #21 ボヘミアン・イン・ニューヨーク

島田 明|Life is Edit.

#021 ボヘミアン・イン・ニューヨーク

ひとりのヒトとの出会いによって紡がれ、生まれるあたらしい“なにか”。
ひとつのモノによって惹きつけられ、生まれるあたらしい“なにか”。
編集者とは、まさにそんな“出会い”をつくるのが仕事。
そして人生とは、まさに編集そのもの。
──編集者、島田 明が、出会ったヒトやモノ、コトの感動を紹介します。

久しぶりの寄稿となりました。今回は年末恒例となったニューヨーク再訪。雪降る街角で感じた四方山な話を徒然なるままに送ります。

文=島田 明

~ニューヨークにあって、東京にないもの

東京ではクルマで移動することを常とする自分にとって、年末のニューヨークは一年で一番自分の足を使って歩く旅でもあります。
毎年、11月ごろからはジムで走る距離を伸ばして、備えていたりもして(笑)。今年のニューヨークは雪と極寒という二重の重みもくわわりましたが、なんとかイロイロとアテもなく徘徊してまいりました。

そこで、一番感じたこと。
それは、この街、独特の“ゆるさ”です。

小雪降るブルックリンは、昔と違ってボヘミアンというよりお洒落タウンに。代官山の今昔という感じ?

ブルックリンで見かけたクルマ。これでちゃんと走ってるみたいでした。まさにボヘミアン的クルマの在り方(笑)

高い天井に巨大な円柱、そして汚れて穴が開いた星条旗が垂れ下がる「ACE HOTEL」のロビー。夜にはカート・コバーン風のアコースティック演奏もあり、いい感じ

今回泊ったのがソーホーエリアということもあり、朝食はホテル近くの話題のホテル「ACE HOTEL」で毎朝摂りましたが、そこには、朝から晩まで、ボヘミアン的な“ゆるさ”が漂って、いい感じでした。

ベルボーイはピーコートにニットキャップでデニムというラフでゆるい格好、フロントスタッフは全身タトゥーが入って、どちらもミュージシャン風、とじつにルッキンググッド。隣接するコーヒーショップ「STUMPTOWN COFFE」の揃いのハンチングにタイドアップしたスタッフもなかなか洒脱です。
ちょっと前までは、ニューヨーク大学近くの「RUGBBY」なんかが、お洒落BOYのメッカでありましたが、ぼく的に、いまの気分は断然、こちらがINです。

モーガン・コレット曰く「ニューヨークにもいい波が立つポイントがあるんだよ」。言葉通り臨戦態勢で、裏庭にはサーフボードが待機されて

ここがソーホーであることを忘れるほどの静けさです

現地に住むKENクンに連れて行ってもらったソーホー地区のド真ん中にあるサーフショップ「SATURDAYS」は、入口付近でコーヒーを注文し、ショップ内を抜けると中庭があり、喧騒から離れてのチルアウト。スタッフも全員サーファーで、とくにモーガン・コレットは、いい味出したナイスガイ。

彼に「この店の名前、映画『ビッグ・ウェンズデイ』をパロったの?」と聞いたら、「よくわからないなあ。まあ適当に語呂がいいから(笑)」と期待通りのサーファー的ゆるい回答(笑)。

ソーホーの街中で偶然会ったKENクンの友人「JYUMONJI」は、全米中のスケーターがリスペクトする、という伝説の人だそうで、最近までドラッグ中毒で生死を彷徨っていたツワモノ。しかし、そのイカついルックスに似合わぬ、独特の“ゆるい”空気感をまとい、我々の前をハードに疾走して行きました。

トライベッカホテルなど、いまボヘミアン的“ゆるさ”を表現したらピカイチのターボ氏が共同経営しているブルックリンのインテリアショップ「darr」では、ああ、ターボはこういう古いモノたちからいろんなインスピレーションを受けているんだな、と思うネタ元である剥製や鉄くずや古い人体模型やらのオンパレード、でボヘミアン色満開(笑)。

KENクン(左)もJYUMONJIとの遭遇に、興奮気味(笑)。それはそうです、伝説の人ですから。無知なわたしは誰だか知らず、でもただならぬ、その雰囲気に興奮(笑)

マッドサイエンティストの館、といった雰囲気がぴったりな「darr」外観。奥に潜むスタッフもボヘミアン

店を切り盛りするスタッフ鶴田クンと相棒クン。トラッドなワードローブにHIPHOPの組み合わせが旬

「THE BROOKLYN CIRCUS」に鎮座する金色の自転車。スヌープドックなんかのPVに出てきそうなクールさ、です

そして「darr」の近くの閑静な住宅地のなかにポツンとある「THE BROOKLYN CIRCUS」は、ハイチ出身の黒人が経営する店で、わたしがお邪魔したときは、お客さんは全員アウトキャストばりに細いパンツで決めたお洒落黒人ばかり。そして、そこを切り盛りするのが、鹿児島・鶴丸高校出身の鶴田浩平クンでして、この彼がいい味出しまくり(笑)。ああ、ユナイテッドアローズの小木クン(Liquor,woman&tears)は、こういう店をやりたかったんだな、と改めて実感しました。

これだけ“ゆるい”店に出会い、その空気にあてられて気がついたこと。
それは、この空気感はいま一番日本に欲しい感じだけど、これを表現するには、なかなか難しいな、ということです。

ゆるい“箱”はつくれるけど、やはり、その空気感は“人”がつくりだすもの。スタッフがいて、それを楽しむ客の気分というか、心のキャパというか。それを大人が理解する土壌が、まだまだ日本の都会にはないなあ、と思ったりしました。(お金のある大人はどうしても、高級志向に行く傾向がまだまだ日本には根強いですし)

結局、ラルフローレンの「RUGBBY」もJ.クルーの「LIQUOR STORE」も、このボヘミアン的ゆるさを巧く服とミックスして表現しているワケですし。

でも、こういうボヘミアン的な店、機会があったらやってみたいなあ、とおぼろげながら思ったわたし、です。

~ボヘミアンの極めつけの本屋さん

そんなお洒落系ボヘミアンとは別ベクトルでありながら、じつに心地よく、ボヘミアン気分を味わえた本屋がありました。それが「HOUSING WORKS BOOKSTORE CAFE」です。

いわゆる街の古本屋なのですが、奥にはニューヨークでは珍しくないカフェが併設されていて、本をとって自由に閲覧することができます。わたしは時間潰しでフラッと入り、アート系の本を2冊購入したのですが、レジまで進むと古いキャシャーが壊れていて、「ごめんなさい。ちょっと直すまで待ってくれる?」とスタッフに言われ、「大丈夫。時間はいっぱいあるから」と返答。そして待つこと20分(笑)。

汗だくのスタッフが、ソファに座って待つわたしを呼びに来てレジに進むと、オーナー風の老人が出てきて「きみの忍耐に感謝するよ」と$10と書かれたシールをはがし、$8と打ちなおしたシールを貼り、しかもそこから10%オフにしてくれました。

「ありがとう。また来ますね」とお礼を言ったら満面の笑顔で応えてくれて。

ああ、こういう会話って日本ではしてないな、と思ったわたし。ボヘミアンでいるには、お互いに心の余裕=ゆるさがないと成立しないんだな、と雪降るニューヨークでしみじむと思ったのでした。

そして、わたしの今年のテーマは「ボヘミアンでいこう!」(笑)。

それには、また多くの人に出会い、多くのものから感じることからはじめないと。
編集者としての旅は、まだまだつづくのであります。

           
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