田中凛太郎 『My Freedamn! Vol.8』とシックスティーズ(その2)
田中凜太郎、待望の最新作をリリース&独占インタビュー!
『My Freedamn! Vol.8』と、シックスティーズ(その2)
新世代のセンスに彩られたシックスティーズの古着たちを紹介する『My Freedomn! Vol.8』。
表紙には、田中凜太郎氏がリスペクトしてやまない元シンガー、パール・ハーバーを起用。
彼女との出会い、そして音楽のみならず古着にも造詣の深い彼女の横顔など、田中氏が彼女への熱い思いを語ってくれた最新インタビュー第2弾。
写真・語り=田中凛太郎インタビュー・文=竹内虎之介(シティライツ)
いいものだけを、じっくり見せたい
──シックスティーズがテーマという今号の制作にあたり、見せ方の上でとくに意識したことはありましたか?
フィフティーズをテーマに掲げた『Vol.6』までは物量を追求していたんですが、今回は「いいものだけが見たくなった」というのが、僕の気分としてこれまでとちがう点ですね。
──それはこの年代のモノに、いいものが少なくなったという意味ですか?
いえ、そういうわけではありません。僕自身もそうですし、古着好きのひとも、もはやたんなる量には興味ないと思ったので。それよりも、本当にいいものをある程度大きく、ちゃんと見せたいと考えたんです。たしかにアイテム的に少ないモノもありました。ヘルメットなんかはその典型で、これまでずっと撮り貯めてきたものを今回紹介しているんですが、6年間でこれだけか、と思えるほど残っている数自体が少なかったですね。
──ヘルメットもやっぱりポップですね。
サーフボードと並んで、素材によってフォルムが激変したモノの代表格でしょう。フォーム材&ファイバーグラスのコーティングというこの構造は、軽量で強い素材としてミリタリーのテクノロジーが一般化したものなんですが、造形に自由が利くため、デザインもかつてないほど曲線的になったんです。
──硬いモノが金属や木から石油製品に移っていく時代ですね。
そうです。工業製品っていまだに石油製品がメインですが、その大きな流れがはじまったのが、この50年代後半ぐらいからだったわけです。これも要するに大量生産に向いているから。ベビーブーマーたちの消費を支えるためには、昔みたいにコツコツつくっていられなかったということでしょう。
音楽界の元祖目利き、パール・ハーバー登場!
──この本の制作を通して出会ったひとで、とくに印象に残っているひとはいますか?
やっぱり一番うれしかったのは、表紙にも使わせてもらったパール・ハーバーに登場してもらったことですね。彼女はザ・クラッシュのベーシストだったポール・シムノンの元奥さんなんですが、もともとアメリカ人で現在はハリウッドに住んでいます。彼女自身もずっと音楽をやっていて、僕にとっては13歳のときにテレビで観て以来の憧れのひとでした。
──どうやって知り合ったんですか?
出会い自体は2000年にイーストライツから出版された『モーターサイクルジャケットを着る人生』の取材時でした。
ある日、取材を兼ねて友人の古着屋に行ったところ、彼女が店員のアルバイトをしていたんです。このころ彼女はすでに音楽活動は休止していて、ハリウッドでのんびり暮らしていたようですが、こっちはまさか本人だとは思わないじゃないですか。古着の知識豊富な彼女とひとしきり話をして、すっかり意気投合したあと、帰り際に名前を訊いたら「パールよ」という。冗談で「パール・ハーバーだったりして」と返すと、そうだというじゃありませんか。本当にびっくりしましたよ。
それ以来、ときどき遊びに行くような関係になったんですが、聞けば彼女、もともと古着が大好きで、クラッシュのステージ衣装なんかも全部用意していたというんです。
──なるほど、だからクラッシュってイギリスのバンドなのに、どこかアメリカンフィフティーズ的なスタイルだったんですね!
そう、あのスタイルは彼女のセンスだったんです。それだけでなく、パールはある意味、僕ら古着好きを取り巻くカルチャーをつくった元祖ともいうべきひと。彼女のおばさんがスリフトストア(中古品屋)でボランティアをやっていた関係で、60年代にはすでに、スリフトストアに行けば安くていいものがあることを知ってたんです。
アメリカで、そういうことに気づいた最初のひとだと思います。話をしてみると、音楽の知識やミュージシャンを見る目はもちろんですが、古着に関してもそのセンスは完璧でしたね。
──そうなんですか、元祖目利きみたいな人ひとなんですね。
まさにそうです。覚えてらっしゃると思いますが、古着が最初に流行った80年代当時、古着といえばフィフティーズだったでしょ。じつは彼女が古着をもっとも大量に買っていたのは70年代なんです。70年代にスリフトストアにあったのが、その20年ぐらい前の服。つまりフィフティーズだったというわけです。
──今号では彼女のコレクションはたくさん出てくるんですか?
彼女自身の持ち物はレディスが多いので、登場する物量自体はそう多くはありません。でも、先ほどお話ししたベトジャンなんかは、彼女自身が着ているものをふくめ、いまだにいいものをもってましたね。