三原康裕│第3回 アバンティ代表取締役 渡邊智恵子さんと語る(4・最終回)
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2015年3月13日

三原康裕│第3回 アバンティ代表取締役 渡邊智恵子さんと語る(4・最終回)

あなたがいま着ている「綿」をかんがえる
第3回 アバンティ代表取締役 渡邊智恵子さんと語る(4・最終回)

日本におけるオーガニックコットンの第一人者であり、オーガニックコットンのリーディングカンパニーであるアバンティの代表を務める渡邊智恵子さんとの対談もついに最終回。
オーガニックコットンの普及に加え、農業の必要性までを訴える渡邊さん。その思慮深い考えに共感した三原さんは、自らの仕事への誇りを新たにする。

写真=Jamandfixまとめ=竹石安宏(シティライツ)

新しい試みと、絶えようとしている伝統

三原 ところで、現在、日本でコットンは栽培されているんですか?

渡邊 工業的に成り立つレベルではなく、趣味の世界ではありますね。でも、今年から私も長野県で綿花の栽培に参加しているんですよ。茶綿をつくりはじめたんですが、100%メイド・イン・ジャパンのコットン製品がつくれたらいいなと思って。信州大学の繊維学部とのコラボレーションなんです。彼らは日本原種の綿花の種を守っているんですが、それをもっと日本に広め、ちゃんと製品をつくっていこうという計画の一環なんですよ。

渡邊智恵子さん

三原 それは面白そうですね。

渡邊 でしょう? 三原さんも使ってくださいね。信州大学の繊維学部には2000人の学生がいるんですが、彼らにもちゃんと環境意識をもって、巣立っていってほしいと思っています。
そういえば先日久留米に行ってきたんですが、久留米絣をオーガニックコットンでつくろうという企画だったんですね。でも、行ってみるとそれどころじゃない状況だったんです。
久留米絣には「括(くく)り」という工程があり、それで絣の柄出しが決まるわけですが、それをつくれる職人さんが現在は経糸と緯糸で一人ずつしかいないんです。どちらかがつくれなくなれば、それで久留米絣の伝統は終わってしまう状況なんですよ。

三原 久留米絣はもう、そんなところまできてしまっていたんですか。

渡邊 一人は50年も括りをされている方ですからね。ちょうど今日、そのことを経済産業省に忠告しにいってきたんですよ。「ヘンなことにお金を使ってないで、こういうところにお金を使ってください」と。

オーガニックコットンは環境優先

三原 それは危機的状況ですね。たしかに国には、そういったことにお金を注いでほしいと思います。ところで話は変わりますが、オーガニックコットンは普通のコットンとどのようなちがいがあるんですか? たとえば肌触りなどはちがうのでしょうか?

渡邊 そうですね。ひとつ大事なことは、オーガニックコットンは機能性素材ではないということです。アトピー性皮膚炎などのアレルギーにいいともいわれていますが、そうではないということ。オーガニックコットンは、あくまで環境優先の商品であることが前提なんです。

三原 そうなんですね。僕は友人のブランドがつくっていたTシャツではじめてオーガニックコットンを着たんですが、肌触りも良くて着ていくうちにいい感じでなじんでいくところが商材的にもいいなと思ったんです。それはオーガニックと知っているから感じる錯覚なのかもしれませんけどね。でも、なにも知らずに着たら着心地がいいと感じ、確認したらオーガニックだったというのが理想かなと思っています。

渡邊 私もそれを目指していますね。ひとついえることは、私たちの基準を満たしたオーガニックコットンは綿が傷んでいないということです。たとえば染色をしないだけでも、本当に綿自体の傷みは少ないんですよ。だから綿が本来もっている温かさとか、ふくよかさ、柔らかさなどが残っているんです。それが着ていて気持ちがいいということにつながっているのかもしれません。ただ、数値的に表してみるとどうなのかというと、なんともいえないんです。数値では計れない部分もありますからね。

でも、人間の先入観にはすごいものがあって、オーガニックコットンは安全で安心と謳(うた)われていますよね。トレーサビリティによって、この原綿でこの糸、この糸でこの生地、この生地でこの製品というようにトレースできることが安全につながっているわけです。オーガニックコットンのベビー用品が売れるのは、この安全のためであり、本当の機能性はたいして変わらないかもしれないんですよ。そこにお母さんやお父さんの愛情をもって、「これってすごくいいものなんだ」と思ったら、本当にそう感じてしまうこともあるんです。

人間にもっとも大切なことに携わる仕事

三原 渡邊さんは正直ですね。オーガニックコットンについてはみんな機能性を実証したがるんですが、そこにどれだけの意味があるのかなとも思います。では、話を少し変えますが、渡邊さんはオーガニックコットンが今後どうなれば理想的だと思いますか?

渡邊 理想としては世界のコットンの10%がオーガニックになればと思いますね。いまは1%ですが、10%になれば世の中の大きな流れになって変わっていくだろうと思っています。きっと私はあと15年くらいは活動できると思うんですが、そのあいだに10%にするという目標を設定しています。

あともうひとつの目標は、農業をもっと大事にしなければならないということです。“衣食住”のうちの衣と食は、農業から生まれているんだということは、ややもすると忘れられます。綿だって麻だって、みんな農業なんです。そこをもっと大事にしていかないと、足もとがおぼつかなくなってしまうと思っています。

長野県で綿花を栽培しているのも、足もとを見据えたモノづくりをしたいと思っているからです。ましてやウチのスタッフについては、綿花のことも知らずにオーガニックコットンなど語るなかれと思っていますから(笑)。

本社も長野に移転する予定なんですよ。農というもの、土というものが人間にとって、とくに農耕民族であるアジア人にとって、どれだけ大切なものなのかということです。そこをちゃんと認識させていきたいんですよ。

私にとってこれからの15年、20年は、もう少し農業というものを日本人のファミリアにすることに尽力したいですね。現在食料自給率は38%くらいですが、これを70%くらいにまでもどしていかないと日本は滅びると思っています。

アメリカのオバマ大統領は「グリーン・ニューディール」という政策を打ち出していますが、それはメイド・イン・USAのものをもっと買おうという保護政策なんです。中国もこのまま発展していけば日本への輸出を減らしてくるでしょう。そうなると日本は自給自足していかなければならなくなるはずです。政府も休耕田に補助金などを出している場合ではないんですよ。

三原 なるほど。オーガニックコットンだけではなく、日本の農業にまで憂慮されているんですね。

“衣食住”という順番

渡邊 いま日本の若者は病んでいますが、彼らを正常化させるのも「土」なんじゃないかなとも思うんです。そういった意味でも、私の次なるターゲットであり、私が求められているところは、オーガニックコットンを通して農業を発展させることなんです。

三原 いま世界で起こっている経済恐慌は、人間がつくったシステムの問題であり、人間自体が変わったから起こったわけではないんですよね。だからこそ、いま必要なのはもっと本能的なものであり、土なのかもしれないと僕も思います。

渡邊 雪解けの時期に土が温かくなり、フキノトウがホコッと顔を出したときの雰囲気を想像すると、本当に生きててよかったと思うし、エネルギーを感じますよね。そうした自然の営みが面々とつながってきているわけで、それと比べると人間なんて儚いなと感じるんですが、自然からエネルギーをもらえると思うんです。そうした経験をみんなにしてほしいと思っていますね。

三原 綿摘みの会とかつくりたいですね。

渡邊 そうね。草取りや綿摘みをみんなでして、糸をつくりたいですね。やりましょうよ。そうすればみんな変わってくるはずですから。そういえば三原さんは、なんで“衣食住”という順番になっているか、知ってます?

三原 なんでですかね? 考えたこともなかったです。

渡邊 この答えに、私たちは勇気をもらえるんですよ。赤ちゃんがオギャーと生まれたとき、一番最初に必要なものは赤ちゃんを包むオクルミですよね。お母さんのお乳ではなく、衣なんですよ。この話を聞いたとき、私はすごく自分の仕事に誇りがもてたんです。食でもなく住でもなく、衣を生業にしている、人間にとってもっとも大切なものに携わっているということに。

三原 いい話ですね。僕も自分の仕事に誇りをもって、これからも励んでいこうと思います。今日はありがとうございました。

渡邊 こちらこそ、ありがとうございました。

(おわり)

渡邊智恵子
1952年北海道斜里郡生まれ。明治大学商業学部卒業後にレンズ製造会社であるタスコ・ジャパンに入社。同社副社長就任中の1985年、子会社としてアバンティを設立し、代表取締役に就任。
1990年にはじめてオーガニックコットンに触れ、同年アバンティに専念してオーガニックコットンを専門に扱うようになる。1993年にはアメリカ・テキサス州に現地法人設立し、日本テキサスオーガニックコットン協会の設立に尽力。2000年からはNPO法人日本オーガニックコットン協会(JOCA)の副理事長に就任。NPOへの参加や講演会などを積極的に行い、オーガニックコットンの普及やグローバルスタンダード確立のための活動を行っている。

アバンティ直営ウェブストア「プリスティン」
http://www.pristine.jp/

ファッションデザイナー三原康裕がつくった靴下は、素材は機能性と天然素材にこだわり、吸湿性と速乾性を兼備させるためにコットンにヘンプを混紡したものをチョイス。多彩な色糸とネップが不均一に混ざった杢糸を使用し、スタイルのアクセントになるように独自のカラー調整とブランドロゴをかかとに刺繍した。そして針数60本の編み機によって、ザックリとした足なじみのいい靴下に編み立てた。

web shopping「ルモアズ」のみで販売されるこのソックスは、三原さんとオウプナーズの意向により、売り上げの一部を東京都社会福祉協議会が運営する東京善意銀行を介し、東京都内の福祉施設に寄付される。

           
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