NISSAN GT-R|日産GT-R|第21回 (前編)|世界一速い日本車の真価
第21回 日産GT-R(前編)
世界一速い日本車の真価
日本車のなかできわめて純度の高いジャパニーズ・カーはどれか? という問いに、下野康史は「GT-R」の名をあげる。2007年の東京モーターショーで華々しくデビューした“スカイラインGT-R”あらため“日産GT-R”。時としてポルシェをも凌駕するパフォーマンスの先にある、このクルマの本当の価値とは。
文=下野康史写真=日産自動車
世界一速い日本車発売から半年以上が経ち、首都圏の路上でも「GT-R」をたまに見かけるようになってきた。
先日も、自動車メーカーの試乗車で高速道路の合流車線を加速して本線に入ったら、すぐ前を走っていたのがGT-Rだった。乗っていたのは中年のドライバーだ。
この内容でこの価格は、ひょっとして世界一お買い得なクルマではないかと思うが、安いといったって、高い。ユーザーの平均年齢が高くなるのは仕方ないだろう。
日産GT-Rは、世界一速い日本車である。3.5リッターV6ツインターボ・エンジンは、量産日本車史上最高の480馬力を発生する。これは「ポルシェ911ターボ」とおなじだ。というか、GT-Rのベンチマークのひとつが911ターボだったのは間違いない。
ただ速いだけじゃない
このご時世に、速いクルマを「速い速い」と囃し立てるのはバカみたいだが、GT-Rの真価は、ただ速いだけじゃないことだ。ドイツ車らしく、ターゲット・スピードの高さを感じさせる911ターボは、街なかや合法的高速道路巡航ではひたすらドテッとしていて、むしろ大儀そうな振る舞いをみせるのに対して、GT-Rはタウンスピードでもスポーツカーの気配を滲ませる。
その理由のひとつは“音”だと思う。エンジン自体の音は思い出せないほど低いが、キーンという高周波のギアノイズが、かすかとはいえ、たえず後方から聞こえる。操縦性能の向上を狙って、変速機をフロントのエンジンから切り離して、後輪の近くにマウントした「トランスアクスル」という贅沢なレイアウトが、このカッコイイ音を生んでいる。
赤いプッシュボタンを押して、エンジンを起こしたときから、クルマ好きをワクワクさせる音だ。そんなことかよ!? と思うかもしれないが、スポーツカーなんて、そんなことである。神は細部に宿るのだ。
アクセルとブレーキの2ペダルだから、過去に日産がつくった“GT-R”としてははじめて、AT限定免許でも乗れる。乗り心地もわるくないので、ファミリーカーやデートカーとして使うのに、特段の言い訳はいらない。そのへんは800万円の高級GTである。