リー・フリードランダー写真展『桜狩』(その2)
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2015年4月17日

リー・フリードランダー写真展『桜狩』(その2)

第31回 リー・フリードランダー写真展
『桜狩 -Cherry Blossom Time in Japan-』(その2)

前回に引き続き、リー・フリードランダーについてのお話を。
昨年の個展のときのような彼の作品しか知らない人にとって、今回の『桜狩』展はもしかしたら少々意外なかんじを受けるかもしれません。しかし実は、どんなに被写体が変ろうとも、そこにははっきりとリー・フリードランダーという写真家を感じることができるのです。

北村信彦/HYSTERIC GLAMOURPhoto by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)

印画紙に焼き付けられたリーという名の粒子

前回の個展で展示された彼の写真は、ひとことでいえば日本で育った僕らにとっては一種の憧れの風景でした。それに対し今回の「桜」は、日本人にとって非常に見慣れた風景。だから、見た人の中には一見地味だと感じる人もいるかもしれません。しかし、彼の作品に共通する本当にすごい点は、テーマではなく、その圧倒的な“技”なのです。
今回の展示作品は、撮られた年代はさまざまで、古いものは79年のものも入っていますが、プリント自体はすべて彼自身が焼き付けたニュープリントです。

第31回 リー・フリードランダー写真展<br><br>『桜狩 -Cherry Blossom Time in Japan-』(その2)

前回の個展でも、彼が1枚の印画紙の上につくる粒子というのは、見る者の度肝を抜くに十分なものでしたが、今回はそれ以上の技が焼き付けられていました。なにしろ、ニュープリントであるにもかかわらず、あそこまでヴィンテージの味わいを出してしまっている。その技術というのはもう“いぶし銀の技”としかいいようがありません。
カメラマンなら誰もが一度は雑木林にファインダーを向けたことがあると思いますが、多くの人はプリントの段階で挫折してしまうといいます。そう考えると桜の林を撮るということは、ある種もっともむずかしい部分への挑戦。技のある人じゃないと超えられないテーマじゃないかと思うんです。だから、これからこの個展に来ようと思っている人は、ぜひ彼の印画紙1枚1枚をよく見てください。そこにはそんじょそこらでは見られない巨匠の技がありますから。

パンクでもヘヴィメタでもなく最高級のクラシック

今回の作品に関してはサイズ的にもすごくむずかしいものだと思います。あの小さなサイズであれだけのインパクトを出すというのは、地味なことかもしれないけど並大抵のことじゃない。音楽でいえば、パンクやヘヴィメタじゃなく、最高級のクラシック音楽みたいなかんじですね。
レセプションに来てくれた写真家たちもみんな「なんであんなプリントができるんだろう」って口を揃えていました。それでいて最初から通して見ると、暗室作業のストレスが見えない。そこで彼に「どうやってるんです?」と聞いてみたんですよ。彼の答えは「キレイなネガをつくること」。つまりキレイなネガがつくれていないものにキレイなプリントはできないということです。

もちろん暗室作業で写真にある効果を与えることは可能です。でも、そこにはストレス、つまり非現実的なインパクトみたいなものが生まれるんですね。それがそれぞれの写真家にとっての作風として認められてる部分もありますが、リーの場合はそうじゃないということです。「じゃあ、キレイなネガはどうやったらつくれるのか?」と訊いてみると、これまたひとこと「Work!(できるまでやれ!)」。プロだな、と思いましたね。

第31回 リー・フリードランダー写真展<br><br>『桜狩 -Cherry Blossom Time in Japan-』(その2)

リー・フリードランダー写真展『桜狩 -Cherry Blossom Time in Japan-』
日程|6月1日(日)まで開催中
時間|12:00 - 20:00(月曜定休)
場所|RAT HOLE GALLERY
東京都港区南青山5-5-3
HYSTERIC GLAMOUR 青山店B1F
でんわ|03-6419-3581

           
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