リー・フリードランダー写真展『桜狩』(その3・最終回)
第32回 リー・フリードランダー写真展
『桜狩 -Cherry Blossom Time in Japan-』(その3・最終回)
前回、前々回と、現在ラットホールギャラリーで個展を開催しているリー・フリードランダーについてのお話をしてきました。その中でも触れましたが、今回の個展では、4月11日のオープニングレセプションにリー本人が駆けつけてくれました。その際、普段なかなか目にすることのできない貴重な光景を見ることができましたので、今回はそのときの話をしようと思います。
北村信彦/HYSTERIC GLAMOURPhoto by Jamandfixedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)
プロの写真家が、高校生のように目を輝かせていた
今回のオープニングレセプションは、巨匠リー・フリードランダーの来日ということもあり、同業者である写真家の人たちがいつもよりたくさん来てくれました。みんな彼をひと目見ようと、まるで高校生みたいに目を輝かせていたのが印象的でした。久々にヒーローを見たってかんじでしたね。
またあの日もリーは、首から小さなカメラをぶら下げていたんですが、その撃早のスナップがまたすごかった。「一緒に写真撮らせてください」という人もけっこう多く、彼は快く「いいよ」って引き受けていました。ところが、相手が用意してる間に彼の方が先にシャッター押しちゃうんです。まるでアメリカのガンマンの血が入ってる、って感じでした(笑)。
会場にはリーがいて、前回の個展のときトークショーにも参加してくれたキュレーターの山岸亨子さんがいて、そこに奈良原一高さんの夫人も加わって、1970年代初頭のニューヨークの話なんかをしてるわけですよ。彼女たちが「あのときレッドツェッペリンのライブに行ったわよね」なんて話してる。よくよく聞いてみると、それって、あの伝説のマジソンスクエアガーデンのライブのことなんですよね。そうこうしていると今度はそこへ、73年にニューヨークドールズのファーストアルバムのジャケットを撮ったトシ・マツオさんとかが「ご無沙汰してます」ってやって来たりして、ちょっとした同窓会のようになっていました。僕にしてみればそこはまさに憧れの時代。タイムマシーンがあったらまず行きたい時代ですから、うわぁすげえな、と感動すると同時に、俺たちもこんなふうにカッコよく歳をとれるのかな、と考えていました。
彼の見方をまた少し変えてくれたレセプションの熱気
60年代後半から70年代初頭といえば、ベトナム戦争の時代。写真の世界でも、その影響でコマーシャルの仕事が激減したため、売れっ子だった写真家たちもみんな自分のための写真を撮るようになったんです。要するにカウンターカルチャーなんですが、結局後々強く残ったのはそっちでした。で、それ以降の人たちは、そこを目指すようになる。今回のレセプションでは、そういう熱い時代の空気感さえも感じることができました。
僕にとってリーは、はじめて知ったときから大御所だったので、なにを見てもクラシックとして受け止めちゃうところがありました。ましてや若い人にとっては70歳以上の作家の作品といえば、教科書に出てくるようなクラシックだと感じるかもしれません。でも今回レセプションで1971年の話なんかを聞きながら見ていると、またちょっと見え方が変わりましたね。もっと近づけたというか。自分も世代が同じだったら周りにいられたのかな? と感じました。音楽でもそうですが、一見地味に感じるクラシックの方が本当はよりアナーキーだったりするんですよね。そういうことに気づかせてくれたという意味でも、今回の個展をやってよかったな、とあらためて感じています。
リー・フリードランダー写真展『桜狩 -Cherry Blossom Time in Japan-』
日程|6月1日(日)まで開催中
時間|12:00~20:00(月曜定休)
場所|RAT HOLE GALLERY
東京都港区南青山5-5-3
HYSTERIC GLAMOUR 青山店B1F
でんわ|03-6419-3581