イラストレーターとパリの五月(1)=フィンランドの話
「イラストレーターとパリの五月」(1)
九重加奈子さんにフィンランドの話を聞く
九重加奈子さんは、以前登場してもらった白川順子さんのお友達で、レピュブリック界隈に住み、イラストレーターとして活躍している。
今回はそのレピュブリックそばのカフェでお話を伺った。パリは最近ずいぶんと暑く、春を飛ばして夏が来てしまったかのようだが、新緑と陽光を楽しもうということなのか、フランスの人たちはカフェの軒先の席で、飛び交うアカシア花粉にもまけず、のんびりとした昼食を楽しんでいる。
僕たちは、すっかり空いている店内の、ちょっと奥まった席に座った。
彼女のホームページで知ったのだが、東京出身の加奈子さんはフランスに来る前にも、いくつかの国に住んだ経験があるようだ。
まずはそのあたりから。
interview&text by SUZUKI Fumihiko
フィンランド、ハワイ、日本、パリ
― ホームページ、見させていただきました。あれ、アメリカのページなんですか?
※九重加奈子さんのホームページ
http://www.geocities.com/kanakoinhawaii/
「ありがとうございます。あれはハワイにいたとき作ったホームページで、アドレスの変え方が分からなくて……」
― ハワイにも住んでいらしたんですよね。
「はじめフィンランドにいて、そのあとハワイにいって、その後4年くらい日本にいたんですけど。」
― どうしてそんなふうに、転々とすることになったんですか。
「親戚のおばさんが独身で、転勤になったんです。それで、私が就職もしないで絵を描いていたので、一緒にいく? っていわれて。それで一緒にフィンランドに行って、最初は2年の予定だったんですけれど、帰りたくなくなって、おばさんがまた転勤になって、ハワイにもついていって。それから日本に帰って。今度は一人でどこかに行きたいと思って、パリにしようかなぁと。」
― では別に絵を描くために行ったわけではないんですね。
「そういうわけではないですね。」
― 今は絵を描くのがお仕事になっているんですよね。
「そうですね。おばさんと一緒にいる間は、絵は描いていたんですけれど仕事はあんまりしていなくて、日本に帰ってから、本格的に営業を始めて、仕事を始めました。」
― 色々な国に住んでみて、作品にも影響はありましたか。
「ありましたね。色も変わったって言われました。」
― 例えばフィンランドでは?
「フィンランドはとにかく寒くて暗い国なんです。半年くらい冬なんですよね。厳しい国なんです。だから人間性もそれに合わせているっていうか、耐えるんです。ちょっと日本人と似ているかもしれません。暗い中でいかに暖かく暮らすかって。道を走っている車も赤い車がすごく多いんです。スーパーの中のインテリアも赤が多くて。それはきっとみんな寒い寒いと思っているからなんだと思うんです。」
― 暖色が欲しいというわけですね。
「そういうのが私の色使いにも影響するんだと思います。寒々しいところにちょっと暖かい色があるような。」
― フィンランド的になるんですね。
「本当にやることがない国なんですよ。娯楽がないし。だから仕事じゃなくて好きに絵を描くことが多かったです。」
― 何月くらいから寒いんですか?
「8月くらいからもう日本人には秋に思えてきて、9月だとかなり寒くて、10月には雪が降って、11月だと10時に日が昇って3時に日が沈んだりするんですけれど、その間も別に太陽が照っているわけではなくて、どこかには出ているんだけれど見えない。」
― ちょっとパリの冬みたいですね。
「それをさらにきつくした感じです。私がいたときで一番寒かったのがマイナス27.5度。面白半分でちょっと出かけてみたんですけれど、ポケットに入れていたチョコレートがカチンコチンで噛めない。深呼吸すると痛くなる。私が行った最初の冬は特にひどかったみたいで5月の初めまで雪が降っていました。でも3月くらいになると太陽が出るようになって、プラス3度くらいになると、みんな日光浴行くんですよ。厚着して。」
― 冬の間は本当にまったく太陽は出ないんですか?
「一ヶ月に一回、運がよければ会えるかなぁ。」