イラストレーターとパリの五月(7)=フランスの食の話
Lounge
2015年4月10日

イラストレーターとパリの五月(7)=フランスの食の話

「イラストレーターとパリの五月」(7)
九重加奈子さんにフランスの食の話を聞く

interview&text by SUZUKI Fumihiko

イラストレーターとパリの五月(6)=パリの話

色々な意味で刺激的な場所

― フランスで好きな食べ物ってありますか

「鴨が好きです。お菓子もそんなに食べるほうじゃなかったんですけれど、おいしいから。」

― ご飯は普段は作っているんですか。

「ほとんど外で食べていて、家では本当に簡単なものしかつくらないですね。カフェにいったり、フォー屋さんにいったり、タイ料理とか。」

― このあたりで、ですか。

「このあたりで、です。そういうお店が多いし。」

― オススメのお店は?

「サンマルタン運河ぞいにおいしいカンボジア料理屋さんがあって。」

― Cambodge(カンボッジュ)ですね。僕もこの週末、行くつもりなんです。

「早めに行ったほうがいいですよ。いつも並んでるから。あと、フォーは嬉しいですよね、身体にやさしいし。私はよくベルヴィルに食べにいくんですけれど。このあたりもすごい便利で、徒歩30秒圏内に中華食材屋さんと、パン屋さんと、画材屋さんとスパーとあって、それでもう動けなくて。ちょっと引越ししたいんですけれど、なかなか腰が重いです。」

加奈子さんの部屋

― 引越しするならどこがいいってありますか。

「うーん。もうちょっと静かなところが。今のところは何も分からないで決めたんです。そうしたら意外に便利で。でもうちのまえの通りで真夜中にケンカしてたりして。警察を上の階の人が呼んだこともあって。」

― この辺は色々な意味で刺激的な場所ですよね。僕も僕で移動するのが嫌いなんですが、近所に美味しいパン屋さんなんかを見つけちゃうと、人から聞いても中々、遠出して買いにいく気にならないんですよ。いざ出かけていって買ってもそんなに言うほど美味しいかなぁって思ったり。パリで一番美味しいなんていうお店も……

「モンジュのところですか?みんなパリで一番美味しいっていうけれど。」

― そう、そこです。ル・ブーランジェ・ドゥ・モンジュ。でも僕はいうほどに美味しいとは思わなかった。美味しいと思ったのは、カイザーとデグランジュかなぁ。あとは近所のパン屋さんもいい勝負しているように思ったりしています。

「でも私、ご飯党なので、そんなにパンを食べないんです。」

― ご飯は何を買っていますか。

「日の出米を。」
(日の出米というのは、フランスの中華系食品店でよく見かける、定番、日本米的米)

― 炊飯は?

「おなべで。」

― 僕は日本から炊飯器をもってきたんですよ。

「いいですねぇ。」

― でも、こっちでも炊飯器は売ってますよね。

「買えるんですけれどね、いつ帰るかわからないし。いつもそれに縛られてるんです。物増やしちゃいけないなぁと。」

― パリにはどのくらいいるつもりなんですか。

「最初は一年のつもりだったんですけれど、帰ってきてしまったから。本当にビザと仕事の調子によるかなぁ。」

― 加奈子さんなら、パリのあと、日本に帰らないでほかの国に行くという手もないわけではないですよね。

「そうですけれど、でも、またもう一回、ビザ申請して、新しい言葉覚えて、街に慣れてっていうことをやるのはめんどくさいよなぁって。なんかもうパリに貢いでしまったからそれを取り戻したい。でも私は住むところ、どこでも好きになっちゃうので、多分世界のどこでも好きになれるんだと思うんです。フランスが好きなのかって聞かれたら、よくわからない。行きがかり上好きになったかもしれないけれど。」

― とりわけてフランスへの憧れがあったわけではないんですか。

「そういうわけではないです。素敵なところだろうなとは思っていたけれど。でもどっちかというと、人が意地悪だとか、そういう悪い評判を聞くことが多くて、おっかなかったんですよね。でもおっかないところなら、住んでみたいなとおもった。おっかないところに住めるんだったらどこにだって住めるから。私、こっち来るときに成田空港で足を捻挫しちゃったんですね。それで、シャルル・ド・ゴールに着いたら、スーツケースの蓋が開いて出てきたんですよ。荷物を詰め込みすぎで。もう一度、閉めることもできないくらい一杯で困ってたら、知らないフランスの人が来て、閉めるのを手伝ってくれて。それが私の最初のフランス人の印象で、第一印象でした。意外にいいところかもしれないって思った。」

― その後どうでした?

「意外に親切な国でした。いやな思いをしたことはあんまりないし。どっちかといえばいいことの方が多いし。ぶつかって謝らなかったりすることは日本の方が多いと思う。それに、私のような仕事って、日本にいると半無職みたいな扱いをうける。友達とか親戚にですらあんまりわかってもらえてないところがあったし。近所の人も無職だと思ってたみたい。それは確かに昼間から近所をふらふらしていたりするけれど、でもフランスだとわりとそういう感じで仕事してる人が多いから、居心地がいいのかも。」

― 学生も、あんまり長くやるとそんな感じで、だから、僕もフランスはそういう意味でも居心地がいいです。いまだってこのカフェで平日のこんな昼間から、カウンターでたむろしているおじさんたちはいったいなんなんだろうなんていいだしたら、もうきりが無いですよね。

時刻は14時を回ろうとしていた。カフェは相変わらずにぎやかで、街にも人通りは耐えない。本当にみんな、何をしている人たちなのだろう。店の奥にも人が増えてきて、カウンターには件のおじさんたちが集っている。我々のそばの席にもちらほらと人がやってくるようになった。一番近所に座ったのは、腰のまがったおばあさんだ。

「隣に座っているおばあちゃんみたいな人がいると、パリっていいなぁって思うんですよね。なんだか、絵に描きたくなります。」

― じゃあこっそり撮っておきますね。

「あ、あとで送ってくださいっ。」

※九重加奈子さんのホームページ
http://www.geocities.com/kanakoinhawaii/

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