MOVIE|世界的デザイナーの知られざる“喝采と孤独”『イヴ・サンローラン』
MOVIE|世界的デザイナーの知られざる人生の“喝采と孤独”
仏の若き俊英ピエール・ニネ主演作品『イヴ・サンローラン』
1960年代から現在に至るまで、揺るぎない地位を築いたハイブランドの創始者にして、フランスが世界に誇る伝説のファッションデザイナー、イヴ・サンローラン。彼の輝かしいキャリアと人生における、光と影を描いた映画『イヴ・サンローラン』が、9月6日(土)より角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネマライズほかで全国公開される。
Text by WATANABE Reiko(OPENERS)
いま明かされる、華やかなファッション界の裏側
今年1月、本国フランスで公開されるや、初登場NO.1の大ヒットを記録した映画『イヴ・サンローラン』。一流ブランドの創始者にして、世界で最も有名な伝説のファッションデザイナー、イヴ・サンローランの華麗なるキャリアと、その背後に秘められたプライベートにスポットを当てた本作は、公私ともにサンローランのパートナーだったピエール・ベルジェが製作に全面協力。“イヴ・サンローラン財団初公認作品”として、財団所有の本物のアーカイブ衣装が全編を彩り、話題となっている。
1957年、弱冠21歳で故クリスチャン・ディオールの後を継ぎ、若きデザイナーとして華々しくデビュー。26歳で自らのブランドを設立したイヴ・サンローランは、“モンドリアン・ルック”“スモーキング”“サファリ・スーツ”など、過去の常識を打ち破る革命的なコレクションでファッションの歴史を塗り替え、「モードの帝王」と讃えられた。
エレガンスとは縁の無い中産階級の家庭に生まれながらも、眩いまでに光り輝くキャリアを築き上げ、理想的なパートナーにも恵まれたサンローラン。華麗なクリエーションの裏に秘められた壮絶なまでの創造の苦しみ、そして、愛されぬいても決して埋めることができなかった心の闇──。天才の知られざる人生の“喝采と孤独”にフォーカスした本作は、見る者の心を揺さぶる感動作に仕上がっている。
本作でイヴ・サンローラン役に抜擢されたのは、国立劇団コメディ・フランセーズに在籍するピエール・ニネ。ジャリル・レスペール監督はニネと出会い「イヴ・サンローランを演じられるのは彼しかいない」と確信。「天性のエレガンスと立ち振る舞いが似ていた」のが起用の理由だと話し、さらに「この役を演じるには、若くて、舞台経験があって、演技の基礎がしっかりしていて、さらに仕事熱心であることが条件だった」と語っている。
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仏の若き俊英ピエール・ニネ主演作品『イヴ・サンローラン』 (2)
サンローランになりきった役作り
撮影前の約5カ月の準備期間、ピエール・ニネは数々の記録映像を参考にサンローランの立居振る舞いの特徴をつかみ、iPodにサンローランの声を入れて発声法や話し方を徹底的に研究。さらには、サンローランの現デザイナー、エディ・スリマンのスタジオで実際のクチュリエの仕事を体験し、ショーのバックステージも見学。デッサンもマスターするなど、万全の態勢で本番に臨んだ。
本人に酷似したヴィジュアルと、ときに狂気をはらんだ繊細さを見事に表現したその迫真の演技は、ピエール・ベルジェに「本人じゃないかと思い、動揺して混乱した」とまで言わしめ、サンローランが飼っていたペットの犬さえ、興奮してニネに飛びついたほど。いまや、ニネはフランスで最も期待される若手俳優のひとりとされている。
サンローランを支えるピエール・ベルジェに扮するのは、自ら監督・主演を務めた『不機嫌なママにメルシィ!』で本年度のセザール賞5部門を制したギョーム・ガリエンヌ。ニネと同じくコメディ・フランセーズ所属の実力派俳優で、稀有な天才を愛した男の喜びと切なさを細やかに演じている。
さらに本作のもうひとつの見どころとなるのが、華やかなファッション業界の裏側。アトリエでの地道な仕事、ショーの準備から本番までの流れ、デザイナーがアイディアを生み出すまでの心の動きとテクニックを丁寧な筆致で描いている。また、愛人を共有したカール・ラガーフェルドやアンディ・ウォーホルら、セレブとの興味深い交流についても、劇中で明かされる。
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仏の若き俊英ピエール・ニネ主演作品『イヴ・サンローラン』 (3)
財団所有の貴重なアーカイブ衣装が多数登場
サンローランの公私ともにパートナーだったピエール・ベルジェが設立したイヴ・サンローラン財団は、サンローランに関する充実した「コレクション(5000着以上の服やアクセサリー、靴など)」を、厳重な温度・湿度調整の上、保管している。監督の熱意と誠実さに心を動かされたベルジェが撮影に協力することを決め、財団初公認となる本作が撮影された。
コレクションのシーンでは、2時間という制限の中で撮影がおこなわれ、服を傷めないように、モデルと服の間に布を一枚入れなくてはならないほど。さらに、サンローランの住居やアトリエも提供されたことで、サンローランのほとんどの作品が生まれた貴重な瞬間を、当時とほぼ同じように再現することに成功した。
実際に本物の衣装を目にしたときの心境について、ピエール・ニネはこう語っている。
「彼は時代を読みするビジョンと頭脳の明晰さを行使して、人々はなにを好きになるかということを先取りして読むことができる能力がありました。とても印象的だったのは、撮影現場に“モンドリアン”のドレスが運び込まれてきたときでした。係員が美術品を扱うように手袋をして触っていたのです。もちろん着用したモデルは座っても駄目、食べ物や飲み物も駄目という制限の中で撮影しました。最後に手袋なしでこのドレスを触ったのは、イヴ本人だったのかもしれないと考えたら、とても感銘を受けました」
本物だけが放つ美しさを存分にとらえた映像と、ロックやオペラといったさまざまなジャンルの音楽が織りなす『イヴ・サンローラン』の世界。華やかなキャリアの裏側に秘められた、人間らしい一面をあらたに発見したい。
『イヴ・サンローラン』
9月6日(土)角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネマライズ他全国ロードショー
監督|ジャリル・レスペール
出演|ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ 、シャルロット・ル・ボン、ローラ・スメット、ニコライ・キンスキー
配給|KADOKAWA
2014年/フランス/カラー/シネマスコープ/106分
http://ysl-movie.jp/
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