試乗、BMW i8|BMW
CAR / IMPRESSION
2015年1月5日

試乗、BMW i8|BMW

BMW i8|ビー・エム・ダブリュー i8

前人未踏のハイブリッド スポーツカー

試乗、BMW i8

電気自動車「i3」につづいてBMWのサブブランド「i」に登場するのは、プラグインハイブリッドの「i8」だ。シティコミューター的な性格の強いi3とは対極に、割り切った2+2シーターやワイド&ローなスタイリングをはじめ、0-100km/h加速4.4秒、最高速度250km/hと数字もスポーツカーを主張する。自動車ジャーナリストの河村康彦氏は、アメリカでひと足先に、市街地からハイウェイそしてワインディングまで体験し、i8をもって「前人未踏」と称賛する。そのココロは――

Text by KAWAMURA Yasuhiko

“スポーツカー”に期待される価値観を覆す

およそ2,000万円というプライスタグを提げたスポーツカーに、あなたは何を連想するだろうか。

8気筒、あるいは10気筒といった多気筒のオーバー500ps級エンジン? そのまま単体で立てて置けるほどのファットなタイヤ?? もしくは、ニュルブルクリンクの旧コースを7分そこそこで周回してしまうような、凄まじいばかりのスピード性能???

しかし、これまでスーパースポーツカーでは金看板であったはずのそうした要素をただのひとつも謳い文句とはしない――どころか、これまでこの種のモデルには付き物だったそうした様々な記号性を、むしろことごとく避けて通ることで逆にまったくあらたな価値観を提唱しようとするモデルが現れた。

その名はBMW「i8」だ。

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BMWが、持続可能な次世代モビリティを提供するために立ち上げた、新たなるサブブランド「BMW i」。

そんなブランド初のモデルとして、大都市圏向けの4人乗り電動車両というキャラクターでひと足先にローンチされた「i3」にたいし、2+2パッケージングが与えられたスポーツカーであるこちらi8は、「iブランドの”ブックエンド”として、i3と対極を担うモデル」というのがBMWによる説明だ。

駆動力をエンジンパワーに頼らないピュアEV、もしくはレンジエクステンダー付きEVであるi3にたいして、i8が遥かに長い航続距離を可能とするプラグイン ハイブリッドカーとして設計されたことが、まずは両者の大きな相違点。30リットルという標準仕様にくわえ、「市場によって設定」というオプションの42リットル燃料タンクを装備した場合、i8のEUテスト モードによる航続距離は600kmと発表されている。これは、レンジエクステンダー付きi3のおよそ倍となる“足の長さ”だ。

BMW i8|ビー・エム・ダブリュー i8

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試乗、BMW i8 (2)

はじまりは2009年

そんなi8の“出典”は、2009年開催のフランクフルト モーターショーで披露をされたコンセプトモデル「ビジョン エフィシエント ダイナクミス」――というよりも、i8とあまり変わるところのない「SF映画の世界から飛び出してきた」ようなこのモデルのルックスが、じつはすでに各市場でのほとんどの法的要件を手抜かりなく採り入れた現実的デザインであったことをいま改めて知ると、驚きをあらたにせざるを得ない。

「フォーミュラ1のノウハウを採り入れて開発」と当時はそう説明された、このショーモデルでのCd値0.22からはさすがにダウンを余儀なくされたものの、それでもi8が実現させた0.26というデータは、「市販モデルでもっとも優れた空力性能を備える1台」と言って過言でないことを証明するもの。淡い光を放って文字通り“ショーアップ”されたフロントグリルが姿を消したいっぽうで、やはりショーモデルゆえの演出にちがいないと想像できたバタフライ式のドアが踏襲されたのも、ちょっとした驚きのひとつとなった。

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BMW Vision Efficient Dynamics(2009)

実用性もあわせもつ2+2パッケージング

いっぽう、そのパッケージングが何故に2シーターではなく2+2なのか? という問いにたいしては、「実用性を鑑みての決定」というのが開発陣からの回答。当初はせっかくピュアなスポーツカーなのに、と疑問も残ったものの、この点は実車を検証した時点で納得がいった。

ラジエターなどを収めたフロントフードはそもそも開閉不可能で、ボディ後端のリアウインドウ下にわずかなラゲッジスペースを用意するに過ぎないこのモデルの場合、もしも純粋な2シーターパッケージングを選べば2人分の手荷物の収容にすら難儀をしたのはまちがいない。

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が、曲りなりにもリアシートがあればそこは格好の手荷物置き場となる。そんなスペースがあるからこそ、2人で数泊程度の旅行ならばじゅうぶん受け入れてくれる“実用性”が生まれたというわけだ。

ダッシュボード正面のクラスター内にカラフルなバーチャルメーターをレイアウトし、i3用の1/3ほどの容量となるリチウムイオン バッテリーを収めた高いセンタートンネルがスポーツカーらしいコクピット感覚を演じるなど、強いインパクトを放つエクステリアデザインに負けない先進性をアピールするi8のインテリア。

いっぽうで、シフトセレクターやiドライブ用コントローラー、ダッシュボード端のライトスイッチのデザインなどは、すでに各BMW車でお馴染みのもの。かくして、システム起動やシフトレンジのセレクトなどが、独自ロジックを採用するi3よりもむしろイージーにおこなえたのはちょっと意外なポイント。端的に言って、「最新BMW車に慣れている人ならば、なにひとつ迷う事なく扱える」のが、i8の操作系だ。

BMW i8|ビー・エム・ダブリュー i8

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試乗、BMW i8 (3)

スーパースポーツカー用としてはあるまじきスペックの心臓

パワーユニットやサスペンションがレイアウトされたアルミ製の“ドライブモジュール”を、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製キャビンである“ライフモジュール”と締結するというボディ骨格の成り立ちは、i3と同様。国際試乗会の場に用意をされた単体モデルでは、分割されたシャシーが中央のライフモジュールを前後に挟むように見えたものの、「パッセンジャーセルの下にドライブモジュールが固定された、上下に分かれる2ピース構造」というのが、資料での説明文となる。

バッテリー充電量に余裕がある場合、街乗りシーンでは基本的に、フロントアクスルのほとんど直上に置かれたモーターが発するパワーによるEV走行をおこなう。

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特徴的な前述の骨格構造にくわえ、アルミ材が用いられるドアとフロントフード以外は樹脂製パネルを採用するなどで車両重量をおよそ1.5トンに抑えたi8にとって、スタートの瞬間から250Nmという最大トルクを発し、最高出力も131psに達するリダクションギア付きモーターによるアウトプットは、こうしたシチュエーションでは「必要にして十二分」と言えるもの。モーター出力が不足すればすぐにエンジンパワーが“加勢”するのが理屈ではあるものの、多少アクセルを踏みくわえた程度ではエンジンが目を覚ます事態にはまず至らないのが現実だった。

いっぽうで、充電レベルが落ちたりフル加速が必要となれば、リアシート背後に横置きされた心臓が即座に起動。6段ATを介してそのパワーを直接後輪へと伝える。もちろん、滑りやすい路面に遭遇したりすれば、そこでも即座に4WDに変身となるわけだ。

自動的におこなわれるエンジンの始動/停止時のスムーズさは文句なしだった。

じつは、エンジンの始動や減速回生、さらには「わずかなトルクの上乗せ」の役割も担うという最高出力15kWのスターター/ジェネレーターとも組み合わされた“後輪駆動用”の前出パワーパックは、基本を新型「ミニ クーパー」用とともにするソリューション。すなわちそれは、排気量がわずかに1.5リッターで、気筒数も3シリンダーに過ぎないコンパクトなエンジン+6段ATという組み合わせ。エンジンはターボチャージャーの助けを借りる直噴ユニットであるものの、常識的には「スーパースポーツカー用としてはあるまじきスペックの心臓」と言って良いだろう。

もっとも、エンジンが発する最高出力は231psと、ミニ クーパー用にくらべると遥かにハイチューン。結果として、ハイブリッド システムトータルの出力は362psに達し、これが約1.5トンとスーパースポーツカーとしては軽い重量をわずかに4.4秒で100km/hに加速させる、文字通りの原動力となる。

いっぽう、発進時こそモーターパワーに頼るものの、ひとたびスタートをした後のハイブリッド モード走行時には、エンジンパワーをメインに用いる制御がおこなわれる。EVモード走行時とは逆に、このシチューションではモーターパワーがほとんど顔を覗かせず、大半を“後輪駆動のエンジン車”として走行することがディスプレイ上のグラフィックから確認できた。

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試乗、BMW i8 (4)

ワインディングで目覚めるフットワーク

くわえれば、そんなi8のエンジン音は、わずかに3気筒らしい感覚も残すものの、低音成分が明確でなかなかスポーティなもの。クルージング状態では、空気抵抗の小ささも相まって静粛性が高いことも確認できた。こうしたシーンでもアクセルワークに即応し、リニアなトルク伝達感が味わえる点は、さすがはスポーツカーならでは。ただし、街乗りシーンでもかんじられた揺すられ感の強さは、フリーウェイの痛めつけられたコンクリート路面上ではいよいよ気になるものとなった。

電子制御式の可変減衰力ダンパーのモードがどこにセットされていても、そんなややネガティブな印象は拭えなかった。高級・高価格なスポーツカーの多くがしなやかで優れた乗り味を実現し、BMWの各Mモデルもその例外ではない昨今、これはi8の明確なるウイークポイントと言わざるを得ない。

誰もがその未来的なルックスに目を釘付けとされ、実際その加速にも未来感が溢れるなかで、こうしてフットワークのテイストのみが時代に“置いてきぼり”をくった感があるのは何とも残念。i8の走りの中で、早急にリファインの手をくわえて欲しいと思ったのは、じつはこの部分だった。

こうして街乗りやクルージングシーンではやや精彩を欠いたそのフットワークが俄然点数を取り戻すことになったのは、ワインディングロードへと乗り込んだ場面だった。

連続するコーナーをヒラリヒラリと身をかわしながら軽やかに走り抜けてゆく感覚は、いかにも“軽さ”と“低重心”が効いている印象。大径ながら幅の狭い新コンセプトのタイヤが発するグリップ力そのものは際立って高いわけではない。が、前後輪のグリップバランスに優れた“ニュートラル ステア”の感覚が、何とも心地良いのだ。

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試乗、BMW i8 (5)

次々とあたらしい価値観を提案してくる

ATセレクターを倒すとスポーツモードが選択され、アクセルレスポンスがシャープになると同時に、エンジンはより高回転域をキープ。と、じつはこの段階で気が付いたのが「エンジン音が“良過ぎる”こと」だった。シフトパドルを用いてのダウンシフト時には、ブリッピングと同時にスポーツエンジンに特有の“破裂音”までが伴い、まるでV8ユニットが放つような迫力であったからだ。

結論から言えば、それは後輪付近のボディ下部から外部に向けて装着されたスピーカーが放つ、“バーチャルなサウンド”の成せる技だった!3気筒エンジンが発する実際の音と混じり合う、i8のスタイリングに相応しい迫力あるサウンドが創られていたのだ。

ちなみに、開発陣によればそれは「BMW車のアイコンでもある直列6気筒サウンドをイメージしたもの」とのこと。が、実際に耳にした限りでは、それは誰もがV8サウンドと理解をするにちがいない類のものだ。

スタイリングやハードウェアのみならず、まさに「何もかもがあたらしい」と表現をするしかないi8――それは、見方によってはまるで古くからのスポーツカーファンに挑戦するかのごとく、次々とあたらしい価値観を提案してくるモデルでもある。

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排気量や気筒は数が大きいほどに偉く、ニュルブルクリンクのラップタイムも速いほどに格が上――そう考える人にとって、これはきっと“理解不可能なスーパースポーツカー”でもあるだろう。

いっぽう、そうした旧来の価値観にはとらわれず、最新のプレミアムなスポーツカーを名乗るからには、強い個性や誰もが手掛けていないテクノロジーへの挑戦こそが不可欠と考える人にとっては、既存のどのようなモデルとも全くことなるアプローチで挑んだこのスポーツカーは、まさに孤高の存在と受け取れるはず。

『前人未踏!』――そう、これこそがi8の特徴を端的にあらわし、そしてこのモデルに捧げる賛辞としても最も適切な言葉であるにちがいないはずだ。

BMW i8|ビー・エム・ダブリュー i8
ボディサイズ|全長 4,689 × 全幅 1,942 × 全高 1,298 mm
ホイールベース|2,800 mm
重量|1,490 kg以下
エンジン|1,499 cc 直列3気筒 直噴DOHC ターボ
最高出力| 170 kW(231 ps)
最大トルク|320 Nm(32.6 kgm)
モーター最高出力|96 kW(131 ps)
モーター最大トルク|250 Nm(25.5 kgm)
システム最高出力|266 kW(362 ps)
システム最大トルク|570 Nm
トランスミッション|6段オートマチック
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|195/50R20 / 215/45R20
0-100 km/h 加速|4.5 秒
最高速度|250 km/h
EV時最高速度|120 km/h
燃費|2.5 ℓ/100 km(およそ40km/ℓ)
CO2排出量|59 g/km
走行可能距離|500 km 以上
EV走行可能距離|約35 km
価格(消費税込み)|1,917 万円

           
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