INTERVIEW|上原ひろみが2年ぶりの新作『ALIVE』を語る
INTERVIEW|ジャズピアニスト・上原ひろみにインタビュー
上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトfeat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス
2年ぶりの新作『ALIVE』を語る(1)
上原ひろみがアンソニー・ジャクソン、サイモン・フィリップスとのトリオでの2年ぶりの新作『ALIVE』をリリースする。スタンリー・クラークの作品への参加でグラミーを受賞し、もっとも権威のあるアメリカのジャズ専門誌「ダウンビート」で表紙を飾るなど、世界を股にかけ活動してきた上原の「今」の姿を捉えた新作について話を聞いた。
Photographs by JAMANDFIX
Hair & Makeup by Seiji Kamikawa
Fashion: MIHARAYASUHIRO
Text by NAGIRA Mitsutaka
メンバーを輝かせるための曲を書く
――タイトルを『ALIVE』にした理由は?
作曲していくなかで、「ALIVE=生きる」ということにかかわる曲が、どんどんできてきたんです。いまの自分が、そういうことを発信したがっているんだな、と気づき、タイトルを『ALIVE』に決めて、さらに曲を書いていきました。私は、いくつかの言葉を綴り、それについて曲を書きます。「右往左往し、さまよう」や、「どこかに向かって何かを探しに行く」とか。それらのイメージが「ワンダラー」になり、「シーカー」になりました。
いっしょにやればやるほど、彼らのすばらしさや、いままで見えてなかったことがどんどんわかってくる。作曲の面でも、メンバーの良さは、これまでの3作のなかでは最大限に引き出せているとおもいます。
――ピアノソロが一曲、残りはすべてトリオの曲ですね。曲と編成はどちらが先に決まったのでしょうか。
アルバムごとにメンバーがいて、彼らを輝かせるように曲を書こうとおもっているので、メンバーのことをイメージしてから、曲を書きます。今回の場合は、アンソニーとサイモンという人物を思い浮かべながら、ほとんどの曲を書いています。
――曲自体はシンプルな印象ですが、とても濃密になっているように感じます。メンバーに委ねる部分が増えているのでしょうか。
3人でやっていて一番感じるのは、お互いを生かしあう力。あとは、お互いを聴く力です。聴いて、それに応えることで、相手がニヤリとする回数が増えていますから(笑)。以前よりも絶妙なパスが出せるようになったかな、とおもいますね。
この編成での一作目『VOICE』は、曲がバンドを集めたんです。曲を書きながら自分のなかでバンドのイメージを膨らませていって、こういう人に演奏してほしいという気持ちから、アンソニーとサイモンをキャスティングすることになったんです。二作目『MOVE』からは、バンドが曲を呼んでくれるようになりました。そこの方程式がまったく逆ですよね。だから『ALIVE』も、このバンドがあるからこういう作曲、編曲ができた、そして、こういう演奏ができた、という作品だとおもいます。
――レコーディングでの音作りには、どのようにアプローチしましたか?
バンドでレコーディングをするときは、リーダーがいる編成だとそのひとが目立つ音を作るエンジニアが多いんですよね。でも私は、ひとつのバンドとして音楽を作っているので、「ここはこの人のステージ」というような形で、3人がそれぞれフロントに出ていくようにしたいんです。順番を変えながら、「ステージがローテーションしていく」ような音作りを。
エンジニアのマイケル・ビショップはそれをわかっていて、「このパートはこのメンバーが主役で、脇役がこういうプレイをすることで、生きている」という音作りができる。「脇役がすごくいいパスをした」ときに、そこも引き立たせるようなミックスです。主役の音を大きくするだけではなく、後ろで起きていることもちゃんと聴かせて、そこにアテンションをもらえるようなミックスをすることが、アルバム作りの楽しさだとおもうんです。
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上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトfeat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス
2年ぶりの新作『ALIVE』を語る(2)
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Text by NAGIRA Mitsutaka
バンドサウンドのバランスを追求する
――録音物とライブ、それぞれの「音」にたいする認識のちがいはありますか?
ライブはリスナーにとって、主観の部分が強いじゃないですか。たとえば、アンソニーのファンだと、彼の音を中心に聴いて、無意識にほかの音をブロックしちゃうこともあるとおもいます。つまりライブは、視覚が大きな要素として入るので、リスナーが自分で音の位置を決められるんですね。それにたいしてアルバムは、音のみだから主観が弱くなるんです。ですから、アルバムを作るときには、音のバランスがすごく大事になってくるんです。
――「音色」にもこだわりを感じます。たとえば、サイモンのドラムをさらに活かすアレンジを、上原さんのピアノがほどこしているように。
そうですね。サイモンが使っている「オクタバン」という通常のタムより高い音が出る筒上のタムがあるのですが、その音がすごく好きで、楽曲のなかでフィーチャーしたい、という意識はありました。レコーディングでは、「ドリーマー」の冒頭でオクタバンの音と合わせるために、ピアノの一番低い音をミュートしています。ドラムの音色に、ピアノのどの音色をミックスさせたらおもしろいかを考える作業は、すごく楽しかったですね。
ひとつひとつのタッチに感情と意味を込めて
――上原さんの作品には、生き生きとした「楽しさ」や「リアリティ」があります。しかし、今作のなかで唯一のソロピアノ「ファイヤーフライ」は、生の儚さやフィクションを感じました。強い感情を込めた楽曲だと。
この曲には、人間の多面性が出ているのではないでしょうか。私は自分でも明るい人間だとはおもいますけど、ダークサイドがまったくないのかというと、そんなことはありません。表面から見えているものと、うちに秘めているものはちがっていて当然。
そんな人間らしさを、他人に迷惑をかけることなく自由に表現できる場が、音楽だとおもっているので。音楽のなかでは怒ろうが、泣こうが、誰にも迷惑をかけないですからね(笑)。
「ファイヤーフライ」は、一日で、音に釣られるようにバーッと書けました。でも、短時間で書けた曲のわりには、演奏するとすごく疲れるんですね。テクニック的にもすごくシンプルだし、メロディーの部分なんてピアノを習いたての人でも弾けるくらいの技術だとおもうんです。でも、ただ音を出せばいいということではないので、その音に意味を込めて弾くのに、ひとつのタッチでも精神的にエネルギーを使います。今回のアルバムだと、「スピリット」もそういう曲です。
――感情をピアノから引き出す、ということでしょうか?
「引き出す」というより、「搾り出す」という感覚が近いでしょうか。もちろん、肉体的に疲れるような曲もエモーショナルに弾いていますが、そのエネルギーは自分から人に発信しようとしているものなんですね。たとえば、「ALIVE」のようなアルバムのタイトルトラックにする曲は、外向きのエネルギーを使うことが多いのですが、「ファイヤーフライ」は、自己との対話というか。内向きの感情なのにもかかわらず、それを外にも出さなきゃいけなくて、一周するんですよね。半周多いから、疲れるんです(笑)。でも、そういう意味を込めなきゃいけない曲なのです。
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2年ぶりの新作『ALIVE』を語る(3)
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16分の27拍子! タイトルトラック「ALIVE」で聴かせる極限のグルーブ
――タイトルトラック「ALIVE」は、16分の27拍子だそうですね。アタマから、度肝を抜かれました……。
7拍子は、このトリオではもう難しくないんですよね。変拍子は、英語だと「オッドミーター」っていうんです。オッドって、「奇妙」とか「変」って意味があるんですけど、7拍子や5拍子とか9拍子などをずっとやってきたので、自分たちのなかでは、もうオッドじゃなくて、ノーマルなんですよ。だから、オッドなら、とことんオッドにしようって感じで。でも、それをノーマルに感じられるようにしたいんですよね。それまでは、時間をかけてひたすら練習です。でも、変な感じもそれはそれで心地良いんですよ。
――それは挑戦して乗り越えていく快感なんですか。それとも純粋に、「変なビート」が好きなんですか?
両方ですね。自分のなかにだんだん16分の27拍子を感じる細胞が育っていることへの興奮はありますよ(笑)。毎日演奏していて、3人のあいだでその細胞がだんだんと育っていって、バシっと合ったときに「ふふっ(笑)」みたいな快感。7拍子や9拍子でぴったりと合っても、もちろんうれしいんですど、レベルがちがうというか。
――変拍子もそうですが、難易度の高い曲を毎回用意しますよね。
難しいと考えているうちは難しく聴こえてしまうとおもうんですけど、その楽曲が難しくないとおもえるところまで、自分たちの血となり肉となっていくと、グルーブが増していきます。変拍子にかんしては、とにかく反復練習ですね。とにかく気持ちがいいグルーブが生まれるまでやるしかないんです。
アンソニーなんかは、「朝起きたらそこに挑戦があってほしい」と言っていました。うまくいかないときは、悔しいはずなのに、うれしそうなんですよ(笑)。できないことにぶつかるというのは、いままで知らなかったことへのドアを開けようとしているということなので、そこに猛烈な興奮を覚えるんです。このトリオはそういう3人ですね。
――上原さんは、流れるようにドライブしながら即興を入れていきますよね。そのいっぽうで、「あえて音を止めている」ような瞬間もあります。
ブルースを弾いているときなどは、そういう緩急のつけ方をすることはありますね。今回もブルージーな楽曲の「スピリット」を弾いているときに、すごく弾きたいけど、最大限に待つ、みたいなことがありました。一回行こうとするんだけど、とっさに「あと4秒くらい、遅いほうがいいかも」みたいな。
――そういう瞬時の判断も楽曲の要素ですよね。
メロディーを即興で変えることもあります。そのメロディーを気に入って、何日間かつづけていたら、サイモンがそのリズムを覚えだして、ついてくるんです。「読まれてるな」という感じで悔しくて、次の公演からやらないとか。そういう日々の駆け引きみたいなものもあります(笑)。
この3人は、お互いに一番、自分たちの演奏を聴いているんですよね、年間で何百回も。だからこそ、お互いを驚かすのが難しいし、だからこそ、「ワオ!」と言わせたい。ふたりに、ライブのあとに「今日のあのソロすごかった、神がかっていたね」って言うと、サイモンは満面の笑みで、アンソニーはドヤ顔になったり。そういう関係性ですね。本当に、彼らと演奏をしていると楽しいんです、すごく。
『ALIVE』
上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト
feat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス
発売日|5月21日(水)
■初回限定盤SHM-CD+DVD 3456円(UCCT-9029)
■通常盤SHM-CD 2808円(UCCT-1244)
■プラチナSHM 3564円(UCCT-40001)
1. ALIVE
2. ワンダラー
3. ドリーマー
4. シーカー
5. プレイヤー
6. ウォーリアー
7. ファイヤーフライ
8. スピリット
9. ライフ・ゴーズ・オン
2012年12月におこなわれた東京国際フォーラム公演より、
アルバム『MOVE』のナンバーを全曲収録した2枚組
LIVE DVD『MOVE ライヴ・イン・トーキョー』
5400円(UCBT-1004/5)
発売日|5月21日(水)
ユニバーサル ミュージック
http://www.hiromiuehara.com
上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト
feat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス
「ALIVE」 JAPAN TOUR 2014
11月22日(土)[奈良]新庄文化会館
11月24日(月・祝)[広島]広島アステールプラザ 大ホール
11月25日(火)[愛知]愛知県芸術劇場 大ホール
11月26日(水)[新潟]りゅーとぴあ・劇場
11月28日(金)[長野]まつもと市民芸術館
11月29日(土)[静岡]アクトシティ浜松 大ホール
11月30日(日)[静岡]富士市文化会館 ロゼシアター 大ホール
12月2日(火)[山口]周南市文化会館
12月3日(水)[香川]サンポートホール高松 大ホール
12月5日(金)[東京]東京国際フォーラム ホールA
12月6日(土)[東京]東京国際フォーラム ホールA
12月7日(日)[東京]東京国際フォーラム ホールA
12月10日(水)[秋田]秋田市文化会館 大ホール
12月11日(木)[山形]酒田市民会館 希望ホール
12月12日(金)[宮城]仙台イズミティ21 大ホール
12月14日(日)[北海道]札幌市民ホール
12月16日(火)[埼玉]川口市総合文化センターりりあ メインホール
12月17日(水)[岡山]岡山市民会館
12月18日(木)[福岡]福岡市民会館
12月20日(土)[大阪]オリックス劇場
12月21日(日)[大阪]オリックス劇場
<上原ひろみオフィシャルサイトチケット先行予約>
6月13日(金)~6月30日(月)まで実施
http://www.hiromiuehara.com