アウディ本気の「A3セダン」に試乗|Audi
Audi A3 Sedan 1.8 TFSI quattro|アウディ A3 セダン 1.8 TFSI クワトロ
Audi A3 Sedan 1.4 TFSI Cylinder On Demand|アウディ A3 セダン 1.4 TFSI COD
ちいさなボディにアウディの技術を凝縮
アウディ本気の「A3セダン」に試乗
アウディの「A3」ファミリーに、あらたにセダンモデルがくわわった。その名前のとおり、コンパクトハッチ「A3スポーツバック」をベースとするが、その外装パーツのほとんどがセダン専用設計とされる、じつに本気のモデルだ。アウディが2014年、日本市場へ最初に送り込む期待のニューモデルを、大谷達也氏が冬の北海道で試乗した。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki
うつくしいセダン
先にきびしいことをいえば、Cセグメントのハッチバックをベースとするセダンでうつくしいスタイリングというものにあまり出会った記憶がない。もともとハッチバックとしてデザインされているのだから、そこに無理矢理トランクルームを後付けすれば全体のバランスが崩れるのは当然のこと。やはり、ハッチバックはハッチバック、セダンはセダンとして最初からデザインするのが本来の形だし、理想なのだろう。
では、アウディ「A3セダン」のスタイリングはどうなのか?
よりサイズのおおきなセダンにくらべれば、トランクルームが短めなのは仕方がない。けれども、クルマ全体のプロポーションは伸びやかでまとまりがいい。聞けば、ドアハンドル、シングルフレームグリル、ドアミラー、ヘッドライトをのぞくすべての外装部品はA3セダンのために新設計されたものだという。つまり、A3セダンのスタイリッシュなエクステリアデザインは、派生モデルにも労力とコストを惜しまないアウディの真面目な姿勢から生み出されたものなのである。
ここでボディの外寸をハッチバック版の「A3スポーツバック」と比較すると、全長が140mm延長されて4,465mmとなったのは当然として、全幅は10mm広がって1,795mmに、そして全高は意外にも45mm低くなって1,390mmとされた。
5ドアクーペをおもわせるA3セダンの伸びやかなプロポーションが、このワイド&ローなディメンジョンから生まれたことはあきらかだが、これに伴ってキャビンのスペースにも微妙な変化が生じている。端的にいえば、天地方向の寸法がスポーツバックよりも小さめ、なのだ。
たとえば、身長172cmの私がA3セダンの後席に腰掛けると、頭上にはこぶし半分ほどの空間が残る。それが、A3スポーツバックだとこぶしひとつ分まで増えるのだ。
「だからセダンよりハッチバックのほうがいい」と短絡的に決めつけるつもりはない。だいたい、Cセグメントだったらハッチバックだろうとセダンだろうとリアのヘッドルームはこぶし半分くらいが当たり前。それをA3ハッチバックは天井部分の内装材に工夫をこらし、ようやくこれだけのスペースを稼ぎ出しているのだ。そもそも、A3セダンよりひとあし先にデビューしているライバル車のひとつは、姿勢を正して後席に腰掛けると頭が天井にぶつかってしまうくらい後席のヘッドルームは狭い。それにくらべればA3セダンの居住空間はずっと広いし、必要にしてじゅうぶんだとおもう。
Audi A3 Sedan 1.8 TFSI quattro|アウディ A3 セダン 1.8 TFSI クワトロ
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ちいさなボディにアウディの技術を凝縮
アウディ本気の「A3セダン」に試乗 (2)
ドライバーに安心感をあたえるハンドリング
いっぽう、インテリアデザインは基本的にA3スポーツバックと共通。高い精度感と緻密さをかんじさせるアウディらしい仕上がりだ。A3の兄弟車であるフォルクスワーゲン「ゴルフ」も同様に高い質感を誇るが、2台を見比べるとゴルフはやや事務的で素っ気なくおもえてしまうくらい、A3は艶やかなデザインに仕立てられている。プレミアム感はじゅうぶん以上だ。
走らせてみても、A3にはアウディ独自の味付けが色濃くかんじられた。乗り心地が快適なことは兄弟モデルのゴルフと同様だが、どしっと路面に張り付いているような印象のゴルフとはちがって、A3のほうが格段に軽快感が強い。こう聞くと、ポンポン弾むような乗り心地を想像されるかもしれないが、決してそんなことはなく、A3の足回りは路面の凹凸をしなやかにやり過ごしながら、ボディをいつでもフラットな姿勢にたもちつづけてくれる。これはとても新鮮なフィーリングである。
ハンドリングも同様で、安定志向の強いゴルフのように「よっこらしょ」と向きをかえる感覚はなく、A3はヒラリヒラリとコーナーを駆け抜けていく。誤解のないようにつけくわえておけば、ここでもA3はつねにしっかりとしたロードホールディング性をしめしてくれるので、ドライバーは自信をもってステアリングを切り込んでいける。要は安心感が強いのだ。
安心感といえば、今回の試乗会は真冬の北海道が舞台。このうち、十勝スピードウェイには雪で覆われた特設コースが用意されていたのだが、ここでもA3は驚くほどの安心感をもたらしてくれた。
試乗車はA3セダン「1.8TFSI quattro」。アウディのクワトロがオンロードでのスタビリティを向上させるための4WDであることは百も承知だが、これが雪道でどんな走りをしめしてくれるかというのも興味の尽きないところ。
おもい起こしてみれば、昨年、とあるスタッドレスタイヤの試乗会でアウディ「Q3」(後輪にトルクを伝達する機構はA3とおなじ電子制御油圧多版クラッチ式)を走らせたことはあるが、今回の試乗コースはちいさく回り込む低速コーナーあり、素早く切り返す中速のS字コーナーありで、はるかに攻めがいがありそうだ。早速、走り出してみることにしよう。
Audi A3 Sedan 1.8 TFSI quattro|アウディ A3 セダン 1.8 TFSI クワトロ
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ちいさなボディにアウディの技術を凝縮
アウディ本気の「A3セダン」に試乗 (3)
雪上での振る舞いはクワトロならでは
まずは静止状態からの急発進。エンジンをレブリミットいっぱいまで引っ張りながらシフトアップする猛ダッシュをこころみても、A3セダンは自分から真っ直ぐ走ろうとする傾向が強く、ほとんどステアリングを修正する必要がない。
つづいて中速のS字コーナーに進入。ひとつめのコーナーではターンインがはじまるまでやや時間がかかったが、ここでヨー(コーナーリング中のクルマがコマのように自転しようとする回転力の一種。コーナーの進入でノーズの向きがかわるのは、この“ヨー”のちからによるところが大きい)を発生させることができれば、次のコーナーに向けてはこのヨーの反動を利用すると面白いほど簡単にターンインがはじまり、そのままじわりとスロットルペダルを踏み込めば後輪が押し出される形になって迫力あるドリフト態勢に持ち込むことができる。
ここで驚くのが、フルカウンター、つまりステアリングを本来曲がる方向とは正反対の向きにステアリングを切った状態でも、スロットルペダルをしっかりと踏み込んでいるかぎり、A3はけっしてスピンすることなく、高いスピードをたもったままコーナーを走り抜けていける点にある。
おおくの4WDは安定志向が強すぎて、ここまで大きなドリフトアングルをたもつのは難しい。これができるのは後輪駆動車の特権だが、そうなると今度は姿勢が安定せずにスピンに陥りがちになるし、そもそも後輪だけではスノーロードに充分な駆動力をかけることができず、これほどのスピードはたもてない。つまり、こうしたドライビングができるのは4WDならでは──、いや、アウディのクワトロならではのことなのだ。正直、スノードライビングをこれほどたのしめたのは、私にとって生まれて初めての経験だった。
(編集部註:試乗はテストコース内でおこなったものです。公道では絶対に真似をしないでください)
Audi A3 Sedan 1.8 TFSI quattro|アウディ A3 セダン 1.8 TFSI クワトロ
Audi A3 Sedan 1.4 TFSI Cylinder On Demand|アウディ A3 セダン 1.4 TFSI COD
ちいさなボディにアウディの技術を凝縮
アウディ本気の「A3セダン」に試乗 (4)
クワトロだけではない悩ましいA3の魅力
では、クワトロをもたない前輪駆動のA3に魅力はないのだろうか? この問いに私は自信をもってノーと答えたい。
たしかに、スノーロードでのパフォーマンスをくらべれば、前輪駆動はクワトロに歯が立たない。それでも前輪駆動には後輪駆動よりも高速走行時の直進安定性が高いなどの長所がある。コンパクトカーをつくるさいにパッケージング面で有利なことだけが、前輪駆動のメリットではないのだ。
しかも、前述した乗り心地のよさは、後日試乗したA3セダン「1.4TFSI cod」でもまったく同様。さらに、フルスロットルにしてもエンジンノイズが不当に高まらない点、そして高速走行時にもロードノイズが低くたもたれる点はどんなに高く評価しても褒めすぎということがないくらいすぐれている。おなじCセグメントでは向かうところ敵なしといっていいだろう。
ここまでは1.8TFSI quattroと1.4TFSI codに共通する美点だが、1.8TFSI quattroがどう逆立ちしても1.4TFSI codに勝てないのが燃費だ。
オンボードコンピューターで確認した範囲なのでかならずしも正確とはいい切れないが、100km/hで走行したときの1.8TFSI quattroの燃費が14-16km/ℓほどなのに、1.4TFSI codであれば18km/ℓは簡単で、ちょっと工夫すれば22km/ℓくらいまで狙えそうだった。
ところで、モデル名の最後につく「cod」とは「cylinder on demand」、つまり状況におうじて4気筒にもなれば2気筒にもなる気筒休止エンジンを搭載していることを意味する。そもそもこの1.4リッターエンジンはブロックもアルミ製の最新仕様。燃費がいいのは当然といえる。
しかも、4気筒から2気筒に切り替わっても、2気筒から4気筒に切り替わっても、音や振動はまったくかわらないのだから嬉しい。じつは、このエンジンを最初に積んだフォルクスワーゲン「ポロ ブルーGT」をオランダで試乗したとき、微妙にバイブレーションが変化する点が気になったのだが、すくなくともA3ではこれが完全に解消されていて安心した。もっとも、おなじエンジンを積むゴルフ7でも切り替わったことはまったくといっていいほどかんじなかったから、この進化はアウディに限らず、フォルクズワーゲン グループ全体にあてはまることかもしれない。
1.4TFSI codのよさは燃費だけにとどまらない。排気量は400ccちいさいものの、最大トルクは1.8TFSI quattroにあと30Nmと迫る250Nmを発揮するほか、車重が130kgも軽いうえにギアリングが全体的に低めの設定となっているため、とくに低速域では1.8TFSI quattroを凌ぐほど元気な走りをみせてくれるのだ。
しかも、1.4TFSI codの価格は1.8TFSI quattroより50万円ちかくも安い364万円。1.8TFSI quattroの410万円もクワトロとしては相当お買い得だが、1.4TFSI codと1.8TFSI quattroのどちらを選ぶかはかなりの難問だ(私はまだ試乗していないが、codがつかない1.4TFSIはさらにお買い得な325万円という値付け!)。クワトロをとるか、それとも燃費のよさと活発な走りをとるか。ここはハムレットになった気分でじっくりと悩んでみるのも一興だろう。
Audi A3 Sedan 1.8 TFSI quattro|アウディ A3 セダン 1.8 TFSI クワトロ
ボディサイズ|全長 4,465 × 全幅 1,795 × 全高 1,390 mm
ホイールベース|2,635 mm
トレッド 前/後|1,550 / 1,520 mm
最低地上高|130 mm
最小回転半径|5.1 メートル
トランク容量(VDA値)|390 リットル
重量|1,470 kg
エンジン|1,798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
圧縮比|9.6 : 1
ボア×ストローク|82.5×84.1 mm
最高出力| 132 kW(180 ps)/ 4,500-6,200 rpm
最大トルク|280 Nm(28.6kgm)/ 1,350-4,500 rpm
トランスミッション|6段オートマチック(Sトロニック)
駆動方式|4WD
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|4リンク
タイヤ|225/45R17
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ディスク
燃費(JC08モード)|14.8 km/ℓ
価格|410 万円
Audi A3 Sedan 1.4 TFSI Cylinder On Demand|アウディ A3 セダン 1.4 TFSI COD
ボディサイズ|全長 4,465 × 全幅 1,795 × 全高 1,390 mm
ホイールベース|2,635 mm
トレッド 前/後|1,550 / 1,520 mm
最低地上高|130 mm
最小回転半径|5.1 メートル
トランク容量(VDA値)|425リットル
重量|1,340 kg
エンジン|1,394cc 直列4気筒 DOHC ターボ
圧縮比|10.0 : 1
ボア×ストローク|74.5×80.0 mm
最高出力| 103 kW(140 ps)/ 4,500-6,000 rpm
最大トルク|250 Nm(25.5kgm)/ 1,500-3,500 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(Sトロニック)
駆動方式|FF
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|4リンク
タイヤ|225/45R17
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ディスク
燃費(JC08モード)|20.0 km/ℓ
価格|364 万円
アウディコミュニケーションセンター
0120-598106(9:00-19:00、年中無休)