今、再びGT-Rに乗る|NISSAN
CAR / IMPRESSION
2014年12月4日

今、再びGT-Rに乗る|NISSAN

Nissan GT-R|日産 GT-R

登場から6度目の春

いま再びGT-Rに乗る

2007年に登場して以来、今日まで「GT-R」は日本を代表するスーパースポーツカーだ。ずっと進化の足を止めることなく、登場から6年めを迎えた「GT-R」の 2013年モデルを、今度は公道に連れ出した。

Text by OGAWA Fumio
Photographs by ARAKAWA Masayuki

「まだ90パーセントのデキですよ」

オウプナーズでとりあげられる数すくない日本車、日産GT-R。

550馬力の3.8リッターV6エンジンを搭載し四輪を駆動するスペックと、ボクシーなクーペボディという個性的な組みあわせは、外国の自動車好きからも注目を集めてきた。もうひとつ、GT-Rが日本車として例外的であるのは、開発を統括してきた水野和敏氏の個人プロジェクトの色彩が濃い点だ。

かつて、左ハンドルはつくらず、輸出をほとんどしなかった「スカイライン時代のGT-R」は、英国などでカルトカーと称され、ちょっとちがうテイストをもつスポーツカー好きの垂涎の的だった。ほかにはスバル「インプレッサ」や三菱「ランサー エボリューション」など、映画「ワイルドスピード」を好むような層から熱い支持を集めた。

Nissan GT-R|日産 GT-R

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そんな希有な存在であるGT-Rは、2013年で発表されて6年を迎える。そのあいだ、

水野和敏氏は機会をみつけては、今回はこういう問題が気になったのでこのように解決した、といったこのクルマに施された改良を、自分視点で語ってきたのが興味ぶかい。

2013年モデルは、出力を含めて数値的な変更はほとんどなし。しかし、「まだ90パーセントのデキですよ。だから毎年イヤーモデルで進化させてきた」と、水野和敏氏は述べる(「FRIDAY」2013年4月26日号)。

その言葉どおり、こまかい部分に改良をくわえていき、パワー感とともに、コントロール性の向上を目指したと説明される。たしかに、走らせると、洗練度が上がり、オールマイティぶりに感心したのだった。

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登場から6度目の春

いま再びGT-Rに乗る(2)

すばらしい一体感

GT-Rに輸入車好きが違和感を抱くのは、エクステリアとインテリアのちくはぐさだろう。ボディスタイルにエレガンスは欠けているし、内装は妙に豪華で、レースイメージを謳うクルマには似つかわしくない。

服飾でいうところのTPOが徹底していない。コーディネートがよくないのだ。操作類も煩雑でフェイシアの素材感は安っぽく、デザイナーはなにをやっているんだろうと疑問を抱かざるをえない。

でも、メカニズムのコーディネートはすばらしい。

観た目からはわからないが、エンジンに火を入れ、ギアを入れ、アクセルペダルを踏んだ瞬間、その魅力が伝わってくる。

全長4,670mm、全幅1,895mmと比較的大ぶりなボディだが、すばらしい一体感だ。さらにドライバーまでクルマと一体になれるようなダイレクトな感覚が、ハンドルとアクセルペダルと、それに効きのよいブレーキなどから味わえる。

Nissan GT-R|日産 GT-R

もうすこし具体的な言葉で書くと、2013年モデルは、フロントのロールセンターを下げ、スタビライザーを強めに設定、サスペンションのダンパーとスプリングを変更、エンジンは燃料噴射用インジェクターを大容量に変更したことにくわえ、ターボチャージャーのブーストを抜く部分にオリフィスを設け、高めの回転域でのパワー感を強化したといわれる。

Nissan GT-R|日産 GT-R

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その結果、速度域がおなじでも快適性が高くなったように感じられる。エンジンは2,000rpmの下からトルクがわき出してきて、加速と減速は一般車とはレベルがちがう。

そのいっぽうで、足まわりはしなやかになり、コンフォートモードはもちろん、ノーマルモードでも、高速でも市街地でも、不快なごつごつ感はない。

タイヤはフロントが255/40ZR20、リアが285/35ZR20で、かつランフラットタイプだが、それが乗り心地に悪い影響を与えていない。上手なセッティングだ。

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登場から6度目の春

いま再びGT-Rに乗る(3)

あまりにも高いポテンシャル

GT-Rにおける最大の魅力のひとつは、ツインターボチャージャーを備えたV型6気筒エンジンだ。回転マナーはすばらしい。回転あがりも回転落ちも速く、スポーティだ。1基ずつ組み立てた日産工場の「匠」の名前がエンジンに入れられているほどだ。まるで刀鍛冶のようである。

排気量は大きめだが前後長はコンパクトで、前車軸より後ろに、つまりフロントミドシップ・レイアウトで、回頭性の鋭さを狙っている。そしてもちろん、それは目的どおり達成されている。鋭さがこの部分のキーワードだろう。

Nissan GT-R|日産 GT-R

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フライホイールが軽いエンジンは、マニュアルシフトだとスリリングなのだが、GT-Rは自動変速するデュアルクラッチシステムがシフトワークを受けもってくれる。遮音性の問題でガチャガチャとギアシフトの音が運転中に気になるのは事実だが、それだけ頻繁に6つのギアをつかっているのがわかる。

いまや632Nmに増大した最新型GT-Rの最大トルクは3,200rpmから5,800rpmと広い範囲で発生する設定なので、下の回転域でも充分余裕をもってドライブできる。それなのに、アップシフトとダウンシフトをまめに繰り返して“最適なトルクバンド”を保つということは、即座に加速に移れることを意味している。

事実、軽くアクセルを踏むと、1.7トンを超える重量級のボディだが、たちどころに加速する。

ダッシュボードには「R」と書かれたセットアップスイッチが備わっており、これで「Rモード」を選択すると、シフトタイミングとビルシュタインの電子制御式ダンパーの減衰力がスポーティになる。

この組みあわせが、加速感をより鋭く感じさせる。

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ステアリングの反応はうんと速くなり、ごく微妙な入力、つまりハンドルをわずかに右か左に切るとノーズは即座に向きを変える。一般道では、たとえタイトなワインディングロードでも、スポーティすぎるほどだ。

このあまりにも高いポテンシャルを備えていることが、おそらくGT-Rの最大の魅力なのだろう。

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登場から6度目の春

いま再びGT-Rに乗る(4)

ふつう自動車メーカーではゴーサインが出ない

試乗したのは、「プレミアム・エディション」(978.6万円)。BOSEサウンドシステムや盗難防止システムを標準装備している。さらにオプションになるが、セミアニリンレザーによる「ファッショナブルインテリア」がオプションで用意される(試乗車には装備)。

国産車としては異例の高価格だが、かりに700万円ならよかったかというと、ここまでいくと、おそらく販売数で差は出ないだろう。欧州製のスポーツカーでみると、ポルシェ 911のもっともベーシックなモデル(375ps)が1,145万円、メルセデス・ベンツ C63AMGクーペ(457ps)が1,085万円、BMW M3(420ps)が1,018万円と、出力ではだいぶ劣るモデルがより高い価格帯に属している。

GT-Rは、550ps/6,400rpmの最高出力と632Nm/3,200-5,800rpmの最大トルクを誇り、かつRモードというサーキットでも通用するポテンシャルを有している点で、大きなアドバンテージを有する。

かつ、どこへ行っても、笑顔で迎えられる。ある種のレスペクトが受けられるモデルだ。これもオーナーにとって、おおきな魅力である。

Nissan GT-R|日産 GT-R

たしかに、冒頭で触れたように、欧州車が重要視するデザイン的な洗練性でいうと、GT-Rは分が悪い。ドライビングポジションにしても、セダン的で、ジャガーのほうが脚を前に投げ出すようなよっぽどレーシーな雰囲気があるともいえる。

でも──「走りだけを追求したらこういうデザインになるのはわかる。この生硬なデザインは、ふつう自動車メーカーではゴーサインが出ない」。かつて欧州の自動車メーカーの開発責任者がそう語ってくれたことがある。「それだけにたいへん興味を惹かれる」。こういう逆説的な評価もある。

Nissan GT-R|日産 GT-R

Nissan GT-R|日産 GT-R

そしてもうひとつ。GT-Rの人間くささが、じつは最大の魅力である。太いハンドルを握っていると、水野和敏氏と対話をしている気になってくる。

“水野さんはまだ90パーセントの出来というが、どこが改良すべき10パーセントなんだろう……エンジン回転マナーをもっと鋭くしたいのかな”とか、自分なりに考えてしまう。じつはそれこそクルマの評価なのだが、あれこれ考えながら運転するクルマなんて、あまりない。これは自動車ジャーナリストに限らず楽しい作業であると申し上げておきたい。

昨今の話題は、このミスターGT-Rともいうべき水野和敏氏が日産自動車を退社することだ。ポルシェのエンジニアを退任したあと、中東などのお金持ちから資金を引き出してアストンマーティンを再興したドイツ人、Dr.ウルリッヒ・ベッツの例もあることだし、噂にあるように韓国の自動車メーカーにそのまま入らず、GT-Rを日本のブランドとしてこのまま育てていただくわけにはいかないか。

そんなラブコールを送りたくなった、GT-Rとの久しぶりの出会いだった。

spec

NISSAN GT-R Premium edition|日産 GT-R プレミアムエディション
ボディサイズ|全長4,670×全幅1,895×全高1,370mm
ホイールベース|2,780 mm
トレッド 前/後|1,590 / 1,600 mm
最低地上高|110 mm
最小回転半径|5.7 メートル
重量|1,740 kg
エンジン|3,799cc V型6気筒 DOHC ツインターボ
圧縮比|9.0 : 1
ボア×ストローク|95.5×88.4 mm
最高出力| 404kW(550ps)/ 6,400 rpm
最大トルク|632Nm(64.5kgm)/ 3,200-5,800 rpm
トランスミッション|6段オートマチック
ギア比|1速 4.056
2速 2.301
3速 1.595
4速 1.248
5速 1.001
6速 0.796
減速比|3.700
駆動方式|4WD
サスペンション 前|独立懸架ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|独立懸架マルチリンク
タイヤ 前/後|255/40ZRF20(97Y)/285/35ZRF20(100Y)
ブレーキ|ベンチレーテッドディスク
0-100km/h加速|2.8 秒
燃費(JC08モード)|8.7 km/ℓ
CO2排出量|267 g/km
燃料タンク容量|74 ℓ
価格|978万6,000円

           
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