家宝として、美術品として、代々引き継いでくれるものを残したい(前編)|MEDICOM TOY
DESIGN / FEATURES
2019年3月4日

家宝として、美術品として、代々引き継いでくれるものを残したい(前編)|MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

九谷BE@RBRICKプロデューサー
中 祥人さん(ミッドランドクリエイション)に聞く(1)

今回登場いただくのは、可動ジョイントが組み込まれた九谷焼製の400%BE@RBRICKをプロデュースした、株式会社ミッドランドクリエイション代表取締役の中 祥人(なか・まさと)さん。中さんは、「先代から受け継がれてきた美術工芸分野のハイカルチャー。マンガやアニメを代表とする大衆的なサブカルチャー。どちらも緻密で繊細な日本の職人技が高く評価される世界に誇る文化です。これらを結び付けることにより生まれるもの。それは今まで誰も見たことがない新しい芸術性と価値観です」と、語ります。九谷焼の窯元を親戚に持ち、幼い頃から九谷焼に馴染みながら育った中さんは、2013年にミッドランドクリエイションを設立。日本のマンガやアニメ、イラストレーションといったサブカルチャーをコンテンツとした新しい伝統工芸作品を創出し、国内はもとより海外での美術的評価を目指しています。ここでは“奇跡”とまで言われた九谷BE@RBRICK誕生までの秘話、中さんとマンガの深い関係、そしてミッドランドクリエイションとメディコム・トイのコラボレーションの未来について前・後編でお届けします。

Photographs by OTAKI KakuText by SHINNO Kunihiko

自分にやれるのは日本のマンガと伝統工芸を結び付けて
活性化させることじゃないか

取材場所は長野県茅野市にあるワークラボ八ヶ岳。OPENERS一行を快く迎えてくれた中 祥人さんは、まず2017年7月、MEDICOM TOY EXHIBITIONで発売された第一弾の「九谷BE@RBRICK 貫入【粟田釉】(あわたゆう)」を見せてくれた。手にすると磁器ならではの質感と、ずっしりとした重みが指先から伝わってくる。

「九谷焼で一番最初に出すなら真っ白い無垢がいいと思ったんです。釉薬(素地への水や汚れの染み込みを防ぐガラス質の膜を生む薬品)がかかっていない状態のものが本当に美しく、これは他では味わえないものだなと思って。

ただ、釉薬をかけないと強度の問題もありますし、かけると今度は釉薬の厚みで寸法が変わってしまうので何度も調整しました。

粟田釉というのは昔からある伝統的な釉薬で、透明感のある仕上がりに定評があります。よく見ると釉薬の部分に細かいひびが入っているでしょう? これは貫入(かんにゅう)と言って、湯飲みだと使っていくうちに色が染み込んで味わいが出てくるんです。侘び寂びの世界を大切にする陶磁器ならではの味わいですね」(中 祥人さん)

「第二弾はメディコム・トイの赤司社長から『中さん、紅白でやりましょう。発売が4月だから桜をイメージしたものは作れませんか?』というお話がありました。最初は胸や耳に桜の模様が彫られているものを考えたんですけれども、同じ形状のものを安定して量産するにはハードルが高い。

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九谷BE@RBRICK 貫入【粟田釉】
(あわたゆう)
2017年7月発売

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九谷BE@RBRICK 貫入【桜色斑点釉】
(さくらいろはんてんゆう)
2018年4月発売

そこで九谷BE@RBRICKの素地を作っていただいている窯元の職人さんである木田さんに相談したところ、ピンクの濃度もいろいろ調整できるし、中に粒子を残すこともできるよ、ということだったのでサンプルをいくつか作っていただいた中から一番いいものを選びました。

このときは前回とは異なる釉薬のため、量産に入った段階で原因不明の不良品が大量に出てしまって大変でしたが、赤司さんに『かわいいですね』と言っていただけましたし、お菓子っぽさもあって女性からの反響も非常によかったです」(中 祥人さん)

白色、桜色に続いて2018年8月に発売された第三弾「九谷BE@RBRICK【煌天目釉】(きらめきてんもくゆう)」は、漆黒の中にラメのような輝きを放つ逸品。ジャパン・クタニとして古くから人気の九谷焼と、21世紀の幕開けと共に誕生したBE@RBRICKの融合は海外でも話題となり、当初の予想を超えたオーダーがかかるようになっていく。

「最初のMEDICOM TOY EXHIBITIONで販売した時はわずか20体でしたが、すぐ海外のディストリビューターからまとまったオーダーをいただいて、安定した数を作れるようになりました。オンライン販売のおかげでアジアを中心とする海外市場にも広がりを見せつつある時期だったので、ちょうどタイミングも良かったなと思って」(中 祥人さん)

中国からの反響もあり、今年2月に発売された第四弾「九谷BE@RBRICK 平押【純金箔】(じゅんきんぱく)」は、その名の通り全身に純金の箔をまとった絢爛豪華な一体となった。

「赤司さんからうかがったのが、年末に差し掛かると中国では春節(旧正月)で金色の商品の需要が高まるということでした。それで次は金色はどうでしょうというお話になったんです。ただ、やるにしても私たちの場合は人の手がかかったものが基本だと思っているので先述の木田さんに相談したところ、手で塗った場合、時価だから幾らになるか分からないよと言われて。

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九谷BE@RBRICK【煌天目釉】
(きらめきてんもくゆう)
2018年8月発売

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九谷BE@RBRICK 平押【純金箔】
(じゅんきんぱく)
2019年2月発売

どのくらいの分量の金が必要かわからないし、本当に上手い塗り職人のスケジュールも押さえないときれいに仕上がらない。さて、どうしたものかと思った時に今回ご協力いただいた金沢箔の「箔一」さんと2年前に名刺交換していたことを思い出したんです」(中 祥人さん)

日本の金箔生産量の98%以上を占める金沢。「箔一」は歴史的価値が高い寺社仏閣をはじめ、さまざまな工芸品に使われている「金沢箔」を通じ、新しい技術と伝統との融合による可能性と魅力を世界へ向けて発信している国内トップメーカーだ。これまでもバンダイとのコラボレーションでガンダムの金箔ガラスプレートを製造販売したり、建築分野ではGINZA SIXの内装を手掛けたことで注目を集めている。

「早速、東京・銀座のショールームにうかがって、この形状ですが貼れるでしょうか? と相談したところ、『貼れないものは空気と水だけです』と言われました(笑)。BE@RBRICKのこともご存知で、これだけ価値のあるものですから24金がいいですね、海外の方にPURE GOLDと謳えるのは強いと思います、やりましょうと、なりました。

メディコム・トイ

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当初は月に貼れるのが20体が限度と言われていたんですが、実際には、それを遥かに上回る数量を頑張ってくださった箔一さんに感謝しかありません。

あと、ご存知の通り、金箔は非常にもろいんです。これまでのものとは比べ物にならないほどデリケートなので、触っても剥がれにくいようにウレタンのクリア層を塗布しています。その厚さやツヤの度合いについても何種類もサンプルを作って、最終的に赤司さんとの話し合いで決めさせていただきました。クリア層が厚いとプラスチック感が出てしまってもったいないし、あまりツヤを出しても品がないしで。磁器の素材感がちゃんと感じられて“和”を醸し出す仕上がりがいいと思って。

箔のシワが見えるところも手仕事による味わいになっているんです。今回は総箔貼りですけれども、フレーク状のものとかいろんなものも提案させていただいているので、次は少しデザインを変えて恒例シリーズになれば面白いですね」(中 祥人さん)

さて話は変わるが、中 祥人(なか・まさと)という名前に見覚えある方は多いのではないだろうか。

「私は石川県小松市出身で、母方の伯父が九谷焼の作家だったんです。小さい頃からアトリエで職人さんが座って絵付けをしている背中や出来上がった壺が並んでるところをよく見ていました。小学5年生の夏休みの自由課題でお皿に絵付けさせてもらったのが、最初に九谷焼に触れた体験です」(中 祥人さん)

九谷焼は石川県南部を中心に生産されている磁器で、発祥は今から360年ほど前、加賀国江沼郡九谷村(加賀市山中温泉九谷町)で良質の陶石が発見されたことに始まる。その後、一時廃窯するも江戸後期になると再興の動きが強まり、各窯は様々な画風を確立。明治時代には九谷庄三が生み出した〈彩色金襴手〉が海外に輸出され、“ジャパンクタニ”として世界的に知られるようになる。

粉砕した陶石を水に浸し、粒子の細かい粘土状の土だけを集め(杯土)、ロクロや鋳込型を使って成型。800~900℃で8時間ほど素焼きをした後、「呉須」(ごす)とよばれる紺色の染料で絵を描き、釉薬をかけて1280℃の高熱で15時間ほど焼成。そこに赤・黄・緑・紫・紺青の「五彩」と呼ばれる絵の具を厚く盛り上げ、760~850℃の温度で焼成。錦窯(金窯)で金彩・銀彩を施し、400℃ほどの温度で最終焼成をして完成。手間をかけた工程から生まれる大胆かつ美麗な作品の数々は、時代を超えて多くの人々に愛されてきた。

「実家は小松製作所の下請けで大きくなった鉄工会社を経営していて、本来なら長男の僕は跡を継がなければいけなかったんですが、高校生になって進路を真剣に考えたとき自分の力で勝負をしてみたいと思ったんです。

絵を描くのは得意だったので大学進学の代わりに4年間、マンガ家になるためにチャレンジさせてほしいと親に言いました。当然猛反対されましたが、そのとき親戚の中でもとくに理解を示して応援してくれたのが窯元の親戚だったんです。才能があるんだからやらせてみたらいいよ、って。

それで父の許可をもらい、最初にアシスタントについたのが週刊少年ジャンプで『ジョジョの奇妙な冒険』を連載されていた荒木飛呂彦先生でした。『ジョジョ』第3部の前半から3年ほど務めましたが、荒木先生のところはスケジュール管理がしっかりしていたので自分のマンガを描く時間もあって、1993年に週刊ヤングジャンプで賞をいただいてデビューしました」(中 祥人さん)

中 祥人さんは1997年、週刊ヤングジャンプにて『暴力の都』で初連載。その後も『バウンティハンター』『キュイジニエ』『パスタの王国』『未解決事件』『極楽バリ島 丸尾孝俊 ボーボー物語』など数多くの作品を発表。北京オリンピックでの女子レスリング金メダリスト吉田沙保里選手の公式応援Tシャツのデザイン、世界で唯一のディズニー公式伝記マンガ『コミック版世界の伝記 ウォルト・ディズニー』の執筆といった責任ある仕事も手掛けてきた。

「自分が40歳近くになって、こうして夢を叶えることができたのは、僕を支えてくれた両親や親戚、郷土の人たちのおかげ。なので何か恩返しをしたいと考えるようになりました。というのも、僕が小さい頃から親しんできた九谷焼の産地も、継承する人がいないため廃業せざるを得ない窯元が出てきている。これは日本全国の伝統工芸の産地で起きている現象ですが、だったら自分にやれるのは日本のマンガと伝統工芸を結び付けて活性化させることじゃないか、と思ったんです」(中 祥人さん)

そこで、日本のマンガやアニメをコンテンツとした新しい伝統工芸作品を創出すべく、2013年に株式会社ミッドランドクリエイションを設立。社名はマンガの師匠・荒木氏のスタジオ名である“ラッキーランドコミュニケーションズ”にちなんで付けたもの。中さんは窯元の従兄弟の協力を得て、人気マンガ作品の絵柄をデザインした九谷焼の絵皿を完成させる。

「最初の作品は2016年6月に開催された、車田正美先生の『聖闘士星矢30周年展』に出品させていただいた『九谷赤絵金襴青銅聖闘士図飾大皿』でした。従来の九谷焼のデザインにキャラクターを配したものではなく、作品に合った絵柄をイチから僕がデザインしたものです。

よく見ていただくと物語の十二宮編で、あるキャラクターが主人公たちに残したメッセージが隠し絵的に入っているなど、ファンの方に喜んでいただける仕掛けを施しています。手塗りの金を使ったり一部手描きの部分があるため皿1枚で10万円と高額になりましたが、予想を上回る反響がありました。

私としては購入してくださった方が家宝にできるものを作りたい。美術品として代々大切に引き継いでくれるようなものを残していきたい。その絵柄が日本のマンガやアニメであることがマンガ家として嬉しいし、未来に繋げることだと思います」(中 祥人さん)

アテナを守る星矢たち5人の青銅聖闘士の細密な絵柄は、事前にデザインをプリントした特殊なシールを丁寧に貼って焼く手法で車田氏のタッチを見事に再現。

その後もミッドランドクリエイションからは『ファイブスター物語』(永野護)、『コブラ』(寺沢武一)の絵皿や豆猪口などが発売され、いずれも好評を博している。

数量限定品のため完売しているものも多いが、いくつかの商品はミッドランドクリエイションのオンラインショップ(https://mid-store.jp/)で購入可能につき、興味ある方はぜひチェックしていただきたい。

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© EDIT

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そして、中さんとBE@RBRICKの出合いは、ミッドランドクリエイション設立以前にさかのぼる。

「会社設立の数ヶ月前、マンガの仕事で知り合った方から『九谷焼でBE@RBRICKを作ることはできないか』と相談されたんです。もちろんBE@RBRICKの存在は知っていましたし、カリモクさんとコラボした木製BE@RBRICKをはじめ、様々な素材を使った試みは非常に興味深く拝見していたので、従兄弟に相談したところ、たぶんできるだろうと。

ただ、それが甘かったんです。じゃあ、絵付けした試作品を3体作りましょうということで、私が制作を請け負うことになったんですが、そもそもBE@RBRICKのような形状のものを陶磁器で作るのって難しいんです。しかも各パーツをジョイントさせることについて楽観的に考えていて。

とにかく急いで作ったのでサイズは磁器の収縮率が反映されていなくて少し小さく、各パーツも仮組みの状態のまま2013年のMEDICOM TOY EXHIBITIONに参考商品として展示させていただいたところ評判が良く、分かる人が見るとこれ本当に磁器で作ってるよって言ってるのが聞こえてきて嬉しかったです。これ幾らするんだろうねぇ? って。

それでメディコム・トイさんから今度は東京ディズニーランドで初開催のD23 Expo Japan用にミッキーマウスの九谷BE@RBRICKを作れないかとお声がけいただいたんです」(中 祥人さん)

かくしてこの世に1体のみのミッキーマウスの九谷BE@RBRICKが完成。来場者の評判もよく、中さんが関わる九谷焼BE@RBRICKのプロジェクトは好評のうちに幕を閉じようとしていた。

だが、中さんは考えた。

このまま終わらせてしまっては、九谷焼BE@RBRICKは一般の人には手の届かない美術品になってしまう。

なんとか国内外のファンのために量産させることはできないだろうか。なにより、各パーツを接続するジョイント部分が未完成のままにしてはおけない。

ここから発売まで実に4年を要した九谷BE@RBRICKの本格的な開発が始まった。

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