家宝として、美術品として、代々引き継いでくれるものを残したい(後編)|MEDICOM TOY
DESIGN / FEATURES
2019年3月4日

家宝として、美術品として、代々引き継いでくれるものを残したい(後編)|MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

九谷BE@RBRICKプロデューサー
中 祥人さん(ミッドランドクリエイション)に聞く(2)

株式会社ミッドランドクリエイション代表 中 祥人(なか・まさと)さんの九谷BE@RBRICK開発にかける情熱は、プロジェクト終了後も途絶えることはなかった。ここまで形にしたものを終わりにするわけにはいかない。ジョイント部分の仕組みや3Dプリンターなど新たな成型技術に関しても独自に調べ続けていた。

Photographs by OTAKI KakuText by SHINNO Kunihiko

可動する磁器があれば、きっとたくさんの人に喜んでいただけるに違いない

「昔からBE@RBRICKのことはよく知っていました。BE@RBRICKが誕生した当時、私のマンガのアシスタントにフィギュア好きがいて、『いま女子高生の間ですごく流行ってるんですよ』って。携帯ストラップになったり、アーティストがデザインしたものも数多く発表されていることを知って『へーっ』と思って。数年後にはコンプリートできないコレクションの代表的なものになっていたので『すごいな』と。私も九谷焼をどうやったら多くの人に知ってもらえるか、郷土の人に貢献できるかを考えていたので、BE@RBRICKのように可動する磁器があれば、きっとたくさんの人に喜んでいただけるに違いないと確信したんです」(中 祥人さん)

ミッキーマウスの九谷BE@RBRICK製作から数年の月日が流れた頃、意を決した中さんはメディコム・トイの赤司竜彦代表に連絡を取り、一点ものの試作に終わった九谷BE@RBRICKを今度は自分の手で量産してみたいと相談した。赤司氏も快諾し、翌年のMEDICOM TOY EXBHITIONでの販売を提案。だが、そのためには乗り越えなければならない壁がいくつも立ちはだかった。

「お皿のような円形状のものならロクロ成形で量産できるんですが、BE@RBRICKのパーツは頭、胴体、腰、腕、脚、すべてが中空の袋状になっているんです。

陶磁器の場合、複雑な形状の量産は鋳込成形といって、まず石膏型を作って泥漿(でいしょう)を流し込みます。しばらくして泥漿の水分が石膏型に吸収されると接地面から徐々に固まり、ある程度の厚さになる時点で中に残った液状の泥を排出して型を外すんですが、BE@RBRICK用に設計した石膏型ではその排出口が極端に小さい。

職人さんには足の裏に穴を開けて、あとでふさぐやり方ではダメなのかとか、鋳込み口(排出口)をもっと大きくできないかと何度も言われました。でも、私としては通常のBE@RBRICKと同じく平面に美しく仕上げたかったんです」(中 祥人さん)

中さんが望むパーツは、石膏型の技術に長けた岐阜県・多治見で設計製造した型を使用し、石川県・小松の窯元で素地を成形し焼くことで実現できた。最大の難関はこのパーツ同士をどうやって接続するかだ。プラスチックや金属ならパーツを分割して反対側からアクセスしてネジ止めすればいいが、袋状に成形した磁器ではそのやり方はできない。赤司氏に相談したところ、バンダイで数々のヒット商品を生み、退社後の現在は個人で玩具を作り続けている佐々野雅哉氏を紹介してもらった。

「佐々野さんの事務所にタカラトミー技術開発部の松岡洋和さんをはじめ、玩具業界の仲間が集まって、ああでもないこうでもないとアイデアを出してくださったんです。例えば、松岡さんは古くからあるゴムリングを使う方法はどうだろうと。ただ、私としてはどうしてもカチカチッとクリック感のあるものにこだわりたかったんです。

それに磁器製だからしっかりと自重を支えられないと割れてしまう。なおかつ90度ではなく45度刻みの角度で止まるものにしたい。集まった皆さんからそれは絶対無理だと言われました。発売を予定しているMEDICOM TOY EXBHITIONまで残り時間は半年ちょっと。いまから専用のジョイントパーツを開発して金型を作ってもスケジュール的に到底間に合わない。そんな中、たぶん全国で一社だけなんとかしてくれる心当たりがあると佐々野さんがおっしゃったんです」(中 祥人さん)

長野県に本社を構える有限会社スワニーは、3Dデータを駆使して製品設計と試作製作でものづくりに携わる会社だ。佐々野氏の紹介を受けた中さんは早速長野県に向かい、代表取締役の橋爪良博(はしずめ・よしひろ)さんにこれまでの進行状況を語った。ここからは橋爪さんにも登場いただこう。

「BE@RBRICKというものがあることは知っていましたが、それを九谷焼で作りたいと聞いてびっくりしました。弊社では家電や玩具メーカーからの委託設計も担っていますが、九谷焼の場合は窯の焼き具合によって穴の大きさが1mmくらい変わるというんです。

これって100分の1、1000分の1の精度を求められる僕たちエンジニアリング業界では考えられないこと。でも難しい反面、興味深い分野だとも思いました」(橋爪代表取締役)

実は今回、取材でうかがった長野県茅野市のワークラボ八ヶ岳には、試作から小ロット量産まで可能にするスワニーの秘密兵器があった。

スワニー代表取締役 橋爪良博さん

「通常は金型を作るのに1カ月以上かかりますし、何より高価ゆえに失敗できないんです。3Dプリンターで製品を直接出力するにも今度は強度、温度変化、摩擦係数といった機械的物性の問題がある。特に熱に対しては弱く、夏場に細かい形状のものを作って送ると移動のトラックの中で変形してしまう。そこで弊社が特許出願している「デジタルモールド」技術なら、従来の金属製の金型に代わって3Dプリンターで造型した樹脂型で射出成形できます。

うちにも金型の技術士や射出成形技能士がいるので、彼らの知識と最先端の3Dプリンター、いわばアナログとデジタルとの融合ですね。これからの製品開発はうちみたいな使い方が主流になっていくと思います。これなら複雑なデザインでも、小さいものだと2時間半程度で型ができるので、時間的にも試行錯誤できる。ぜひ挑戦してみましょうということになったんです」(橋爪代表取締役)

「スワニーさんが興味深い取り組みをされていることは以前から知っていたので、佐々野さんに紹介いただけてとてもありがたかったです。

早速サンプルを作ってもらったんですが、出来上がったものは股関節部分で自重を支えきれずにバタンと倒れてしまう。何度やってもうまくいかず、最終的にこのタイミングで仕上がらないと間に合わないというとき、私が練っていた構造設計のアイデアをホワイトボードに書いて橋爪さんに説明したんです。

そうしたら『中さん、これならいけるよ!』と言って、すぐ取り掛かってくれたんです」(中 祥人さん)

結果、中さんの思惑通り、クリック感と角度を保持したままBE@RBRICKを立たせることに成功。ここから量産に向けての最終調整が始まった。

「中さんが考えたスケッチを3次元データにして、材料の適性などと合わせながら一緒に作り出した形状でしたね。ただ、通常の玩具では考えられないのが寸法のバラつき。穴の形だけでなく厚みにも個体差があります。脆さゆえにはめるときにパリンと割れてしまう。最初はそれでもなんとかはめていたんですが、うまくいかないので窯元さんの負担を軽減するためにも二次加工は絶対必要だからリューターで手を加えましょうと提案しました。これも普段扱ったことのないセラミックなので、いろんな種類の刃を試しましたね」(橋爪代表取締役)

「なんとか納期に間に合わせようと、橋爪さんの知り合いの会社の方たちにも協力していただいて本当にありがたかったです。スワニーさんとご縁あって巡り会えてもうひとつよかったのが、本来なら僕たちの方で準備したアセンブリ業者で組み立てて梱包するべきですが、専門の内職枠を使って、組み立てから納品までやっていただけたことです」(中 祥人さん)

「スワニー本社のある長野県伊那市は、昔は活気があった商店街もいまは高齢化や後継問題でシャッターが閉まっているところが増えています。製造業に関しても、昔のような細かい組み立てはほとんどが自動化や中国に流れてしまうなか、主婦の方、高齢者の方が内職をやりたいという声をたくさん聞いていたので、商店街の空きスペースを事業所登録して、そこに内職さんを集めて作業できる場所を作ったんです。

多品種小ロットの組み立てなら近場のほうがいいし、働きたい人がいて、空きスペースがある。だったらこれを合体させれば時間に合わせて働ける新たな作業スペースが生まれる。継続した仕事をお願いできれば地域の活性化にもなるし、メイド・イン・ジャパンらしいモノづくりがもっとできるようになるんじゃないかなと思います」(橋爪代表取締役)

お話をうかがって、改めて九谷BE@RBRICKを手にすると、中さんがこだわったカチカチっというクリック感が非常に心地いい。

「発売後もジョイントパーツを含めて、より完成度を高められるように私たちは改良を続けています。最初の『九谷BE@RBRICK 貫入【粟田釉】』と新作の『九谷BE@RBRICK 平押【純金箔】』を比べていただくと、微妙な違いが分かっていただけると思います」(中 祥人さん)

続けて、中さんは今後の九谷BE@RBRICKの展望についても語ってくれた。

「まずは手首の関節を回せるようにしたい。そして絵付けをしたものを出したいです。やはり九谷焼なのに釉薬だけで展開してるのは、焼き物を知ってる人にとっては少し違和感があるでしょうし、胸を張ってこれが九谷焼だと誇れるところまでには至っていないと思うんです。

総手描きの一点もので価格がどんなに高くなってもいいなら今すぐにできますが、私たちがやりたいのは量産して多くの人に手に取っていただくことです。それによって職人さんの仕事も増えるし、さらなる事業展開へと広がる可能性があると考えているからです」(中 祥人さん)

「上絵付けを語らずして九谷はない」と言われるほど、豪放華麗な色絵装飾は、九谷焼最大の魅力。赤、黄、緑、紫、紺青の五彩で描かれたBE@RBRICKはさぞかし美しいことだろう。

「おかげさまでこれまで発売した九谷BE@RBRICKは、国内外からたくさんの反響をいただきました。そこで今後の展開として考えているのが、ミッドランドクリエイションの絵皿で採用しているシールの手法で、上絵付けを施すことです。

あの絵皿のシールは私がすべてデザインしたもので、それを職人さんが形状に合わせて手で伸ばし貼り合わせて焼くとガラス質の模様がきれいに定着するんです。もとは量産のための手法ですが、私としてはシールの技術を高めていくことにも貢献したい。既に九谷BE@RBRICKをお持ちの方は、脚の内側をご覧いただくとミッドランドクリエイションのロゴがあると思いますが、これはそのシールの技術です。

伝統工芸の作家さんがいる一方、現代的なやり方で量産を可能にする。昔ながらの手仕事と最先端の技術の融合という意味でも、私にとってはどちらも大切な職人の技術です。これからの展開にご期待ください」(中 祥人さん)

次の新作は今夏を予定しているとのこと。伝統工芸である九谷焼のさらなる進化から目が離せない。

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