メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッドに試乗|Mercedes-Benz
CAR / IMPRESSION
2014年12月11日

メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッドに試乗|Mercedes-Benz

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

これがメルセデスのディーゼルハイブリッドカー

メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッドに試乗

「E300ブルーテックハイブリッド」は、ハイブリッド化に意欲をしめすメルセデス・ベンツがしかけるディーゼルハイブリッド車の先鋒だ。環境にやさしいこと、低燃費であることに苦言を呈するひとはまれだろう。とはいえなぜ、メルセデス・ベンツはハイブリッド化をすすめるのか。そのシステムとは? E300ブルーテックハイブリッドの試乗とともに、メルセデス・ベンツとエコロジーの問題に、モータージャーナリスト、河村康彦氏が切り込む。

Text by KAWAMURA Yasuhiko
Photographs by Mercedes-Benz

メルセデス式ディーゼルハイブリッドとは?

ハイブリッド車は燃費がイイ。ディーゼル車も燃費がイイ。だったら、そんな両者を掛け合わせればさらに燃費に優れたクルマができるはず……と、そんなアイディアは「まさにその通り」。それをメルセデス・ベンツとしてはじめてやってのけたのが、ここに紹介する「E300ブルーテック ハイブリッド」だ。

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

しかしながら、「世界初の量産ディーゼルハイブリッド乗用車」というタイトルを獲得したのは、じつはこのモデルではない。その座を奪ったのは、昨年すでにそうした仕様のモデルをカタログにくわえていた、フランスのPSA(プジョー・シトロエン)グループ。最近では、フランスの新大統領になったばかりのフランソワ・オランド氏が、シトロエン「DS5」のディーゼルハイブリッドモデルで雨のシャンゼリゼを就任パレードしたばかりだから、知らず知らずのうちにその雄姿(?)をTV画面で目にしたという人も少なくないはずだ。

ちなみに、そんな“PSA方式”のシステムは、オーソドックスなFWDレイアウトをもつディーゼル車両をベースに、後輪をモーター駆動とする事で4WDシャシーに進化させるという、なかなか賢いもの。いっぽうの“メルセデス方式”は、従来のATに内蔵されていたトルクコンバーターを取り払って、そのスペースに薄型モーターを挿入する方法を採用している。「モーター内蔵のトランスミッション」をモジュラー化する事で、さまざまな車種とのマッチングの容易さを謳っているのもこちらの特徴だ。

より複雑な2モーター方式のシステムにもトライをした経験をもつメルセデスだが、最近では「トータルの重量増を100kg以内に抑える、より簡素で効果的なシステムをもちいる」という社内での方向性が確立されているという。

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

これがメルセデスのディーゼルハイブリッドカー

メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッドに試乗(2)

なぜディーゼルハイブリッドなのか?

ところで、技術的にはガソリンエンジンと組み合わせる場合とその難易度にはさほどの差はないとおぼしきディーゼルエンジン使用のシステムが、これまでなかなか実用化されなかった理由はいかなるものか? それは「コストの問題」というのが主たる回答となりそうだ。

そもそも従来のガソリン車にたいして、バッテリーやモーターなど“余分なもの”がくわわるハイブリッド車が高価にならざるをえないという事情は、誰もが納得できるはず。同時に、日本の乗用車市場ではこれまであまり馴染みのなかったディーゼル車は、「エンジンをより頑丈につくる必要がある」などといった理由から、やはりオーソドックスなガソリン車よりも割高になる事が避けられないのだ。

が、そうなると当然今度はあらたな疑問が生まれてくる。それは、「なぜいま、ディーゼルハイブリッドなのか!?」というものだ。

こちらは、いささか販売戦略がらみの事情があるようだ。

じつは現在、ヨーロッパ市場では「“罰金”付きのCO2排出量規制」の本格実施が秒読みという段階。その計算法は、販売されたモデルが排出するCO2の積算値。メーカーは多く売れるモデルほど、CO2排出量の低減に躍起にならざるをえないのだ。

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

比較的大きなモデルが販売の主流となっているメルセデスが昨今、Sクラスに4気筒エンジン(!)を搭載したり、こうしてディーゼルハイブリッド仕様をリリースしたりと、これまでの歴史上でもなかった“エコカー”導入への急進的な動きをしめしているのは、ひとえにこうした「やむにやまれぬ理由」があるためと考えられる。昨今登場のほとんどのヨーロッパ車に、アイドリングストップメカが“標準装備”となりつつあるのも、同様の事情に由来をする。

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

これがメルセデスのディーゼルハイブリッドカー

メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッドに試乗(3)

セダンタイプに試乗した

というわけで前置きが長くなったが、本題の「E300ブルーテックハイブリッド」だ。

そのシステム概要は、2.1リッターの排気量から204psの最高出力と500Nmの最大トルクを発するターボ付きの4気筒ディーゼルエンジンを、本来であればトルクコンバーターがレイアウトされる位置に薄型モーターを挿入した7速ATと、直列配置によりドッキング。容量0.8kWhで最高19kWという出力を発揮するリチウムイオンバッテリーを、そのコンパクトさを生かしてエンジンルーム後端のカウル部分にマウントする。「ラゲッジスペースは一切犠牲にしていない」とするのもこのモデルでの謳い文句のひとつとなっている。

本拠地ドイツはシュツットガルトの、都心部から近郊までを、ぐるりとトータル300kmほどの大ループを描くようにテストドライブしたのは、セダンとワゴンの2タイプのボディが用意されるうちの前者。外観上はまさに“普通のEクラス”そのもので、「ハイブリッドモデルで地球環境向上に貢献」と、メッセージを顕示したい向きには、これではちょっと物足りないかもしれない。

エンジンに火を入れ……ではなく、“システムを立ち上げ”てスタートという段階では、まずはモーターの出番となる。

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

が、これはあくまでも理屈の上。モーター出力は最高でも20kW、すなわちおよそ27ps相当分に過ぎないため、モーターのみで発生させられる加速力はAT車の“クリープ力”の3倍程度という印象のものでしかないからだ。

すなわち、現実のスタートシーンでは「動き出した直後にエンジンが始動」という感覚が常。ただし、この瞬間のスムーズさはなかなかのもので、うっかりしていると「気がつかない」事にもなりかねないのは完成度の高さをしめす部分だ。

ただし、基本的にはそうした好印象がベースになるものの、“なにかの拍子”で軽いショックを感じる場合もあった事は付けくわえる必要がありそう。じつは、そうした軽いシフトショックのような現象が「再現性ナシに発生する」のは、同様の1モーター式システムを採用する日産車の場合でも経験した。駆動力を発生し、回生をおこない、さらに時にはエンジンを掛けに行く……と、こうして1基のモーターで何役もこなさなければならないこのタイプは、このあたりに制御の難しさがあるのかもしれない。

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

これがメルセデスのディーゼルハイブリッドカー

メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッドに試乗(4)

基本的にはディーゼルテイストだが……

前述のようにそもそものモーター出力が小さいため、ひとたびエンジンが始動をすれば、その先の加速はほとんど「ディーゼル車のそれ」というテイストが支配的。すなわち、欧州最新ディーゼル車の例にもれず、極めて低いエンジン回転数から太いトルクが発生し、そうしたエンジン特性をふまえた高い駆動ギア比が、タコメーターの針をさほど動かさずにスルスルと車速だけを押し上げて行く、という感覚だ。ちなみにこのモデルの場合、100km/hクルージング時のエンジン回転数は、わずかに1,400rpmほど。これもあり、当然ながら静粛性はなかなか高い。

かくして、基本的には“ディーゼルテイスト”が色濃いこのモデルの動力性能だが、しかしそこにはもちろんハイブリッド車ならではの機能もくわえられている。

なかでも、アクセルOFFのコースティング状態下で、ハイブリッド車特有の回生ブレーキが作動をしているとき、アップ側のシフトパドルを引くとその回生機能を中断し、空走状態をたもつことでエネルギーの節約を試みようという“セーリング・モード”は、他車には見られないこのモデルならではのユニークなアイディア。実際のドライビングでは、軽い減速とともにエネルギーを回収する回生モードをもちいたほうが得策なのか、前述“セーリング”のモードで空走距離を稼いだほうが得策なのかと、判断に迷うケースも少なくなかった。

が、じつは「そのあたりをまた“ゲーム感覚”で楽しんでもらいたい」というのが開発担当者の弁。すなわち、セーリング機能の追加は単なる燃費稼ぎのためだけではなく、ハイブリッドモデルならではのあらたなドライビングプレジャーを生むための手段でもあるという考え方だ。

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

Mercedes-Benz E300 BlueTEC Hybrid|メルセデス・ベンツ E300 ブルーテック ハイブリッド

そのほかの走りのテイストは、“ごく普通のEクラス”のそれ、という印象。EVでの走行レンジは最長1kmにすぎず、その最高速度も35km/hまでと割り切られたいっぽうで、フットワークにハイブリッドモデル特有のウイークポイントである“重さ”を感じさせない点などは特筆に値する。

ただし、最大限の回生能力を確保した上で、停車寸前には通常の油圧式動作へと切り替えをおこなうブレーキ回生のブレーキ協調制御は、まさにそんな切り替えがおこなわれるとおぼしき微低速域でペダル踏力と減速Gの関係に違和感が残っていた。ここは、同様のシステムを採用する日本のハイブリッド車勢に“一日の長”があると実感した部分だ。

E300ブルーテックハイブリッドは、欧州市場で間もなくの発売が予定され、その価格はベースモデル比で「3,000ユーロほどの上乗せになる」と報告されている。現状では「日本への導入はまったく未定」というのが公式発表。が、今後の日本市場でのディーゼルエンジンにたいするイメージ如何によっては、その可能性も皆無ではないようだ。

           
Photo Gallery