「北斎漫画」世界一のコレクター浦上満が語る、天才・北斎と江戸時代|MITSUKOSHI
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2015年8月18日

「北斎漫画」世界一のコレクター浦上満が語る、天才・北斎と江戸時代|MITSUKOSHI

MITSUKOSHI|日本橋三越本店

日本橋三越本店で8月12日(水)より『北斎漫画の世界へようこそ』開催!

「北斎漫画」世界一のコレクターが語る、北斎と江戸時代(1)

この夏、日本橋三越本店は「北斎漫画」をフィーチャー。8月12日(水)より本館1階中央ホールで開催される『北斎漫画の世界へようこそ』では、北斎漫画の展示・販売と、木工や畳職人のワークショップなど江戸の町風情を再現する。江戸時代の天才絵師・葛飾北斎が「気の向くままに漫然と描いた絵」といえる、全15編・約4000図から成り立つ「北斎漫画」の世界一のコレクターである、東洋古美術の専門美術商「浦上蒼穹堂」の浦上満氏にその魅力をうかがった。

Photographs by SUZUKI Shimpei (INTERVIEW)Text by KAJII Makoto (OPENERS)

「北斎漫画」との出合い

東京・日本橋にある「浦上蒼穹堂」の浦上満氏は、現在約1500冊の「北斎漫画」を収集し、専門家のあいだでは質・量ともに世界一のコレクターといわれている。今回の展示販売会『北斎漫画の世界へようこそ』では、北斎漫画の展示・販売に協力。希少な初摺(しょずり)を中心にコンディションのよいものを選りすぐり、約100点を額装して販売する。

「北斎漫画とはじめて出合ったのは18歳、大学1年生のとき。父親が浮世絵のコレクターで、いっしょに出かけた古美術店ではじめて『北斎漫画』を見て、父からも勧められて、当時数万円で手に入れました。まさに衝動買いでしたが、以来45年間、国内外のオークションやコレクターからオリジナルを集め、買いつづけています」

日本橋三越本店|北斎漫画

日本橋三越本店|北斎漫画

江戸時代の版画の“初摺”の魅力

「ご存知のように葛飾北斎が生きていた時代の木版画は、絵師、彫(ほり)師、摺(すり)師の3人の共同作業で、初摺がだいたい200枚ほど。その後、売れる絵では数千枚刷るんですが、木版なのでだんだん原板が摩耗して、線や色が鈍くなっていきます。紙も最初は厚いものを使いますが、薄くなっていく。初摺は線が生きていて、力があって、色もとても美しい。刷りが早くて、保存状態がよいものを求めつづけて気がついたら1500冊にもなりました」

21世紀を迎えるにあたり、1998年にアメリカの『LIFE(ライフ)』誌が企画した「この1000年間に偉大な業績を残した世界の人物100人」で、日本人でただひとり選ばれたのが葛飾北斎(ちなみに1位はトーマス・エジソン)。北斎が世界に認められる契機になったのは、「北斎漫画」がフランス印象派の画家や文化人たちに大きな影響をあたえたからにほかならない。マネは北斎漫画を模写し、モネは“北斎の忠実なライバル”と評されるほど北斎に強い関心をもっていて、北斎漫画も収集していた。ドガは人体の動きを北斎漫画から学んだという。

北斎漫画のいちばんの魅力とは

「葛飾北斎はいろいろな作品を発表していますが、北斎漫画には北斎の全てのエッセンスが含まれています。集めはじめたころは、描かれているたくさんの江戸庶民を見ていて、『いまでもこんなおじさんやおばさん、いるよね』ととても親近感が湧いて、見ていて飽きるどころか魅力がぐんぐん増していきました。民衆そのものが主役で、犬や猫、昆虫、魚、カエルまで個性的に描かれ、カッパや妖怪まで出てくる。まさに、江戸時代の森羅万象が丁寧に描かれた“江戸時代の百科全書”で、大名から庶民まで見て楽しんでいたのが伝わってきます」

日本橋三越本店|北斎漫画

日本橋三越本店|北斎漫画

Page02. 北斎漫画は、北斎のデータバンク

MITSUKOSHI|日本橋三越本店

日本橋三越本店で8月12日(水)より『北斎漫画の世界へようこそ』開催!

「北斎漫画」世界一のコレクターが語る、北斎と江戸時代(2)

北斎漫画は、北斎のデータバンク

さらに浦上満氏はつづける。「北斎は19歳で浮世絵師 勝川春章に弟子入りして以来、好奇心が旺盛で、狩野派などさまざまな流派から画法を学び、また出島から入ってくる西洋美術のエッセンスを習って自分の絵に取り入れるなど、まさに画業一筋だったといいます。その尽きることのない探求心が表現されているのが『北斎漫画』で、初編が刊行されたのは彼が55歳(文化11年/1814年)のとき。北斎漫画は北斎のデータバンク、自身のネタ元であるとも言えるんです。

葛飾北斎の魅力は、変化(へんげ)の作家ということでしょうか。彼は美人画もうまいし、風景画もすごい。自身を“画狂人”と呼ぶほど絵に生涯を捧げた。そんな画家は、世界中で北斎とピカソだけです。北斎は決してひとところに安住しない画家で、その全容はとらえようがない。でも北斎漫画は北斎にとってスケッチのようなものですから、彼の興味の経緯がよくわかり、不朽の名作「冨嶽三十六景」の元画のような図もあって、ネタ本だとわかります」

日本橋三越本店|北斎漫画

日本橋三越本店|北斎漫画

古いモノは古物、飽きないのが古美術

また北斎漫画は、日本全国に200人ほどいた門人(弟子)のためのテキストブック、いわゆる絵手本だったという。「北斎は北斎漫画を描きはじめたとき、『もう学ぶのは自然だけ』と達観した言葉を残していて、本人にとってはスケッチ・デッサン帳であり、弟子にとっては貴重な絵手本=教科書であり、マネやモネ、ドガたちに影響をあたえるなど西洋でジャポニズムの扉を開いたのも北斎漫画です」

さらに「自分の本来の仕事は古陶磁ですが、優れた古陶磁とおなじように北斎漫画も見ていて飽きません。美術品として力強さや洗練さなど“格”を備えている美術品は飽きないんです。ただ古いだけのモノは古物、見ていて感動があり、飽きないのが古美術です」と浦上氏。

日本橋三越本店|北斎漫画

日本橋三越本店|北斎漫画

額装になって北斎の絵が後世に残っていく

「今回の日本橋三越本店でのイベントでは、摺りが早くて状態がよくて、さらに絵がおもしろいものをだけを選んで額装して、浦上蒼穹堂が責任をもって販売します。本の状態をなぜ額装するのかというと、それを自分は“本から絵に戻す”と考えています。前にも言いましたが、好きな絵は絶対に飽きません。好きな絵はずっと見ていたいし、家族や友人にも見せたいもの。また、額装してみなさんの手もとにわたっていくと、北斎の絵が後世に残っていくのです」

天才・葛飾北斎の絵を見て、本当に気に入ったものを購入して、手もとに置いて飾って、そこから絵とのあたらしい暮らしがはじまる。そんな一枚の絵との出合いを求めて、お盆休みは日本橋三越本店に出かけよう。

日本橋三越本店|北斎漫画

日本橋三越本店|北斎漫画

浦上満|URAGAMI Mitsuru
幼少のころより、コレクターであった父、浦上敏朗(山口県立萩美術館・浦上記念館 名誉館長)の影響で古美術に親しみ、大学卒業後、繭山龍泉堂での修行を経て1979年浦上蒼穹堂を設立。
数々の展覧会を企画・開催し、日本の美術商として初めて1997年から11年間ニューヨークで「インターナショナル・アジア・アート・フェア」に出店。ベッティングコミッティー(鑑定委員)も務めた。現在、東京美術倶楽部取締役及び東京美術商協同組合副理事長。2011年『古美術商にまなぶ 中国・朝鮮古陶磁の見かた、選びかた』(淡交社)を刊行。また、北斎漫画を見ることができるiPhoneアプリ「漫画翁北斎(まんがおうほくさい)」もリリースしている。また、9月19日(土)より文京区「永青文庫」で開催される「春画展」にも協力している。
http://www.uragami.co.jp/

『北斎漫画の世界へようこそ』
日程|8月12日(水)~17日(月)
時間|10:30~19:30
会場|日本橋三越本店 本館1階中央ホール
東京都中央区日本橋室町1-4-1
協力|浦上蒼穹堂

問い合わせ先

日本橋三越本店

Tel. 03-3241-3311

http://www.mitsukoshi-special.com/art-and-creation2015/

           
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